ウクライナ軍に入隊したアジャイルコーチが、さまざまなメソッドを駆使して中隊長としてのリーダーシップを実現した話(前編)

今回は「ウクライナ軍に入隊したアジャイルコーチが、さまざまなメソッドを駆使して中隊長としてのリーダーシップを実現した話(前編)」についてご紹介します。

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本記事は、Publickey様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


アジャイル開発の代表的な方法論であるスクラムをテーマに、都内で1月に開催されたイベント「Regional Scrum Gathering Tokyo」で、経験豊富なアジャイル開発のエキスパートとしてウクライナを拠点にアジャイルコンサルタントをしていたドミトロ・ヤーマク(Dmytro Yarmak)氏が、ロシア軍の侵攻後にウクライナ軍に入隊し、中隊長としてリーダーシップを発揮するためにさまざまなメソッドを駆使して軍隊の組織を変革していった経験を語ったセッション「A True Story of Agile Coaching in Ukrainian Armed Forces」が行われました。

軍隊という、企業とは異なる構造や目的を備えた組織で、しかも多くの民間人が入隊した直後の混沌とした状態において、アジャイルに関連したメソッドが機能していく様子は、ビジネスやシステム開発でのアジャイルの成功談とは異なる、ある意味で刺激的なストーリーです。

と同時に、ウクライナで戦っている人たちの中には、戦争が始まるまでは私たちと同じIT業界での日常を送っていた私たちと同じような人たちがいるのだ、ということを痛感させる内容にもなっています。

本記事では、そのセッションの内容をダイジェストで紹介します。本記事は前編、中編、後編の3つに分かれています。いまお読みの記事は前編です。

A True Story of Agile Coaching in Ukurainian Armed Forces

みなさん、こんにちは。ディマです。(ここまで日本語。以下、英語)。

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私がアジャイルコーチングのスキルやリーダーシップをウクライナ軍で適用した、というお話をここで共有できて本当にうれしく思います。

さて、どなたかこの地図の意味をご存じでしょうか?

ウクライナはヨーロッパ最大の広大な領土を持つ国で、これはウクライナの空襲警報マップです。

赤で示された地域はロケットや爆弾による攻撃が発生しており、そのときには防空壕に隠れる必要があります。ウクライナの人々は、小さな子供にいたるまでそうしたことを知っています。

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そしてこのプレゼンテーションの大半も、私が軍隊にいたときに空襲警報下で書かれたものです。

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銀行でのミーティング、そしてロシア軍の侵攻

私自身についてもお話ししておきましょう。私の名前はディマです。

IT業界で14年間働いており、コンサルタントとして5年のキャリアがあります。現在はAgileDriveという会社の共同オーナーとして働いています。

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この左の写真は、2020年2月23日の午後4時にウクライナ最大の銀行の1つであるオプト銀行で私が撮影したものです。

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我々のチームはこの銀行のプロジェクトチームを支援しており、部門横断的なプロダクトチームの春期レビューをしていました。農業セクターの利害関係者からは、このチームが2週間で素晴らしいサービスを提供してくれた、などのフィードバックを得ました。

そうして良い1日を終えて我が家に向かい、妻や子供達と夕食をともにし、犬を散歩に連れて行きました。

それから1日もたたないうちに、私たちは右の写真のように自前の防空壕に避難したのです。

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私たちの家はキーフ近郊にあり、戦闘機が上空で戦っているのが見えました。夜には爆弾やロケット弾の火が見えました。ロシア軍の攻撃が数十キロにまで迫ってきたこともありました。

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これが家族の写真です。我が家には日本犬の柴犬がいます。名前は「花子」。ベイビーフラワー(baby flower)ということですね。右は娘がくれた手紙です。

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私にとって本当に難しい決断でしたが、私は家族をデンマークにいる友人のところに避難させました。

そして、私は軍隊に入隊し、将校(オフィサー)となって150人の中隊のリーダーになったのです。

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ここからは、軍隊の将校として私がどのような仕事をしたのかを紹介していきます。

アジャイルのコンサルタントがウクライナ軍の中隊長に

軍隊の部隊にはいくつかのレベルがあります。私がいたのは「中隊」(Company)のレベルでした。

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ロシア軍の本格的な侵攻は2022年2月24日に始まっており、その後に約60万人が徴兵されました。

ウクライナ軍は私に対しても「ディマ、これから中隊を新たに組織するが、それをリードする立場になるつもりはないか?」と打診してきました。

私はそれがどういうことかを理解しようとしました。軍隊は私に150人もの兵士をリードするようにと依頼してきたのです。私は考えたあげくに、ここからさらに状況が悪くなることなどないのだと思い、イエスと返事をしました。

この表を下から見ていくと、「分隊」(Squad)はスクラムチームのようなもので、7人プラスマイナス2人の兵士で構成され、リーダーはスクラムマスターに相当します。

「小隊」(Platoon)は3つか4つのスクワッドから構成されており、特定の製品を担当するのに似て、一般的な作戦行動を行います。

「中隊」(Company)は3つか4つ程度の小隊、すなわち15程度のスクラムチームから構成されます。もしもSAFe(Scaled Agile Framework)の経験がある方なら、アジャイルリリーストレインに相当するものと言えます。

私は以前、リリーストレインのエンジニアとして働いた経験があり、そのときは14チームで構成されていました。ですから中隊をリードするとしても、まあ14チームも15チームも変わらないだろうと思ったのです。

そうして私は中隊長(Company Lead)となりました。

分散した地域にいる会ったこともない兵士たちを指揮する

中隊長になった後、私は自分の職務についてもう少し詳しく知るようになります。

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そもそも私は職業軍人ではないので、この分野は初めてで知識もありません。

60万人が徴兵されたのですから、オンボーディングのための適切な時間やトレーニングがあるなどといった幻想も抱けませんでした。

私がリードしなければいけないのは武装した150人の兵士であり、彼らは小隊や分隊に分割され、分散した地域に配置されていました。いずれかの隊にたどり着くには120キロもの道程を行かなくてはなりません。

彼ら兵士は雇用されているのではありません。私は彼らと面談したこともありません。彼らの価値観や何をしたいのか、といったことを知ることもできません。

また、彼らを中隊内で異動させることはできますが、中隊の外へ出すことはできず、解雇することもできません。辞職することもできません。

そして状況は戦時です。私自身、辞職することができるかどうかもこの時点では分かりませんでした。

混乱した環境では計画は無駄なエネルギーを使うだけ

こうした状況のなかで、ビジネスからミリタリーへと、私がどのように対応したのでしょうか。

まず最初に私を助けてくれたのは、「カネヴィンフレームワーク」(Cynefin Framework)でした。この会場でカネヴィンフレームワークをご存じの方はいますか? 何人かいらっしゃるようですね。

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カネヴィンフレームワークはデイブ・スノーデン(Dave Snowden)氏によって開発された、非常に良く出来たフレームワークです。

このフレームワークが示すのは、仕事をする際にはその環境ごとに異なる振る舞いやリーダーシップが求められるということでした。

私にとって、特にこの年(2022年)の2月と3月は混乱の中にあることは明白でした。そしてこのフレームワークにより、混乱した環境では「計画」というものが意味をなさない、ということも分かっていました。

このときの私の「長期計画」と言えば、それは1時間程度先のことまででした。というのもあらゆるものがすぐに変わってしまうからです。

おかげでこのときの私は、計画を立てることに時間やエネルギーを無駄に費やさずに済んだのです。

私は5分か10分程度に時間を区切って行動し、振り返り、修正する、といったことをしていました。

何人かの同僚や別の中隊の将校たちは連絡手段の計画を立てたり、1週間の計画を立てたりしようとしていましたが、私はそんなことは今は控えておくべきだ、今することではないと説明しました。

そのおかげで私はずいぶんこのフレームワークに助けられたのです。デイブ・スノーデン氏には深く感謝しています。

ちなみに今から2カ月前に、私は彼とコペンハーゲンで会い、この感謝を伝えることができました。

≫中編に続く。中編では混乱する軍隊の中で情報の透明性に取り組み、それが軍隊の中で効果を発揮していきます。

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