グーグルの独禁法訴訟–「Android」と「ChromeOS」の統合がもたらす課題と機会

今回は「グーグルの独禁法訴訟–「Android」と「ChromeOS」の統合がもたらす課題と機会」についてご紹介します。

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 Googleに対する米司法省の独占禁止法違反訴訟は、テクノロジー史上最も重要な規制措置の1つになるとみられる。司法省の訴訟における焦点は、「Android」と「ChromeOS」を統合して、スマートフォン、ノートPC、タブレット、モノのインターネット(IoT)デバイスを網羅したプラットフォームへの統一を目指すGoogleの計画だ。

 この統合は、テクノロジー業界に機会と課題の両方をもたらす。一方では、ユーザー体験がシンプルになり、イノベーションが促される可能性がある。他方では、現在の相互接続されたエコシステムにおける競争、市場の独占、規制による改善措置の有効性について、深刻な懸念が生じる。

 ここでは、ChromeOSとAndroidの統合が重要である理由と、本件に対する司法省のアプローチによってテクノロジー業界が再編される可能性がある理由を7つ説明する。

 ChromeOSとAndroidを統合するというGoogleのビジョンは野心的だ。スマートフォン、ノートPC、スマートホームデバイスが、アプリやアップデート、設定をシームレスに共有する世界を想像してみてほしい。このような統合が実現すれば、Androidの特徴である柔軟性を維持しつつ、Appleのエコシステムに対抗できる可能性がある。

 統合プラットフォームにより、メーカーは製造コストを削減し、開発を合理化できるだろう。また、デバイス間のつながりを強め、よりスムーズな使用体験を提供できるかもしれない。だが、これには大きなマイナス面がある。Googleは、ハードウェア市場、アプリ配信、オンラインサービスにおいて、前例のない支配力を手に入れることになるだろう。

 規制当局が懸念しているのは、この統合によってGoogleの優位がさらに強まり、競合他社によるイノベーションや競争の余地がほぼなくなってしまうことだ。統合が野放しで進められた場合、テクノロジー業界はかつてないほどの独占状態になるかもしれない。

 司法省は、米国対Google LLCの裁判で提出した書類の中で、Googleが排他的契約を締結することで検索全般と検索広告での独占を維持しているとして非難した。こうした契約によって、Googleの検索エンジンがさまざまなデバイスやブラウザーでデフォルトのオプションとなり、競合企業の配信の機会が制限されている。

 司法省はGoogleの自社優遇の慣行についても指摘した。これは、「Google Chrome」やAndroid、「Google Play」などのプラットフォームが互いを宣伝することで、エコシステム全体の支配を維持しているというものだ。司法省はこれらの懸念に対処するため、排他的契約の禁止や検索エンジン選択画面の義務付けといった行動制限の実施に加えて、ChromeとAndroidのいずれか、また両方の売却などの構造的改善措置を提案している。

 しかし、これらの改善措置を実施するのは困難だ。過去の事例では、例えばMicrosoftは「Internet Explorer」を「Windows」から分離させることができたが、Googleのプラットフォームはこれと異なり、深い部分で相互接続されている。ChromeOS、Android、「Google Play Services」は緊密に統合されているため、売却という解決策が複雑になり、混乱を招くおそれがある。

 「Android Open Source Project」(AOSP)は誰もが無料で利用できるが、大半のユーザーが使用するAndroidのバージョンは、「Google Mobile Services」(GMS)およびGoogle Playストアと密接に統合されている。これらのサービスは、開発者にとって必須のAPIを提供し、通知、決済、位置情報追跡などの機能を使用できるようにするものだ。

 司法省が売却を命じた場合、AndroidとChromeOSに重大な影響が及ぶだろう。開発者が重要なAPIにアクセスできなくなり、アプリ内機能が使用不能になる可能性がある。ユーザーは、お気に入りのアプリをダウンロードできない、既存のデバイスの機能が低下する、といった互換性の問題に直面するかもしれない。

 例えば、華為技術(ファーウェイ)は以前、GMSにアクセスできなくなり、同様の困難に直面した。「HarmonyOS」を開発し、独自のAPI互換エコシステムを確立したが、開発者と消費者の支持を得るのに苦労した。AndroidやChromeOSが売却された場合、同様の難題に直面する可能性があるため、競争の激しい市場での生き残りについて懸念が生じている。

 規制当局が直面している重要な問題は、OSとアプリ配信におけるGoogleの優越的地位への対処だ。その解決策の1つとして、AndroidとChromeOSをオープンソース財団に移管し、GMSとPlayストアを別々のサービスとして分離することが提案された。では、これらのプラットフォームを他のテクノロジー大手に売却しないのはなぜだろうか。

 AndroidとChromeOSをMicrosoftやサムスン、Amazonなどの競合に売却する方が、簡単に済むように思えるし、それによって市場に新たな競争が生まれる可能性がある。だが、この方法では、1社が独占するエコシステムを別の企業が独占するエコシステムに置き換えてしまうリスクがある。売却しても、司法省が打破しようとしている支配と自社優遇という力学がそのまま続いていく可能性が高い。買い手企業がそれらのプラットフォームを自社エコシステムとの統合に利用すれば、より小規模な企業に対する障壁がさらに厚くなると考えられる。

 対照的に、中立的な財団が管理すれば、AndroidとChromeOSが民主化され、テクノロジー業界全体が利益を得られる公共財に変わるだろう。このモデルなら、複数の利害関係者(メーカー、開発者、規制当局など)が協力して、未来を方向付けることができそうだ。共有の統治体制によって、1社が均衡を乱すほどの支配力を得られないようになり、イノベーションと競争が促進される。

 歴史的な前例を見ると、このアプローチには課題と機会の両方があることが分かる。2008年に設立されたSymbian Foundationは、当時主流だったモバイルOS「Symbian OS」を管理していたが、断片化と、関係者間(NokiaやSony Ericssonなど)の優先事項の衝突によって崩壊した。一方、オープンソースクラウドプラットフォーム「OpenStack」は成功例だ。OpenStackは、IBM、Red Hat、Hewlett Packard Enterprise(HPE)などの主要な協力企業を中立的なガバナンスモデルの下で横並びにすることで、ベンダーロックインを回避し、活気あるエコシステムへと発展した。

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