富士通、36量子ビットの世界最速量子シミュレーターを開発
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富士通は3月30日、世界最速という36量子ビットの量子シミュレーターの開発に成功したと発表した。量子コンピューター用アプリケーションの開発期間の短縮効果が期待されるという。9月までに40量子ビットの量子シミュレーターも開発するとしている。
同日に記者会見した執行役員常務の原裕貴氏によると、現在は世界で100量子ビット級の量子コンピューター実機の開発が進んでいるもののノイズが大きく、量子アルゴリズムなどの理論的な研究開発用途には難しいという。ノイズに対処する誤り耐性の実現には100万量子ビット以上が必要で現状では実現が困難なことから、原氏はノイズの影響が無い量子シミュレーターが求められていると説明した。
また、量子シミュレーター自体も量子ビットを増やすと膨大なメモリー容量などが必要になり、実用的でなくなるとした。現状では30量子ビット級が実用的なことから、今回の量子シミュレーターでは、富士通のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の技術を活用して36量子ビットの性能を実現したという。その応用で40量子ビットまで開発するが、林氏はそれ以上の量子ビット数が理論的に可能でもコスト面などから実用性に乏しいとの見方を示した。
量子シミュレーターを実現する技術として今回は理化学研究所(理研)のスーパーコンピューターシステム「富岳」に搭載している富士通のプロセッサー「A64FX」を活用。2量子ゲートで代表的なCNOT操作による量子計算では、30量子ビット程度においてサーバー間をまたぐ通信が困難になるとして、今回はそれ以上の量子ビットを用いる際にデータを最適に再配置するアルゴリズムの開発に成功したという。
またA64FXで使用しているSVE命令を活用した計算を効率的に行えるようにしたり、実行に時間がかかる計算と通信をオーバーラップさせることで同時実行できるようにしたりする工夫も組み合わせたとしている。
今回開発した量子シミュレーターの性能は、同社がベンチマークで比較した米Intelの「Intel Quantumu Simulator」に対して1ゲート操作当たりの時間が約3.7倍、ドイツ・ユーリッヒ研究センターの「JUQCS」に対してはHadamardゲート操作を全キュービットで11回実施した実行時間が約2倍、米IBMの「Qiskit Aer」に対してはQuantumu Volumeベンチマークの実行で約2倍それぞれ高速になる結果を得られたとする。
林氏は、今回の量子シミュレーターを利用することでノイズの影響を受けることなく量子アプリケーションを開発できるようになり、開発期間の大幅短縮などの効果が期待されると説明する。4月1日から富士フイルムが今回の量子シミュレーターを材料開発に利用し、富士フイルム以外に5組織の利用が既に決定しているという。材料開発以外にも金融工学などの領域での活用も期待されるとしている。
今後は、2022年9月中に40量子ビットの量子シミュレーターも提供して量子アプリケーション開発の推進と支援を強化するほか、2023年度には現在理研と共同開発を進める100量子ビットの量子コンピューター実機の公開を予定。2024年度以降は、より大型の量子コンピューター実機や誤り耐性技術などの実現を目指す。
記者会見に登壇した執行役員専務 最高技術責任者(CTO)のVivek Mahajan氏は、同社のコンピューティング技術への取り組みを説明。現在のHPCが将来的には身近になり、一般での利用が広がっていくとし、その上で量子コンピューティングが現在のさまざまな社会課題を解決する存在になると述べ、同社独自の量子着想技術「デジタルアニーラー」や今回の量子シミュレーター、量子コンピューター実機などの研究開発を進めていくと語った。