AIが新商品の配合提案–サッポロビールと日本IBMに聞く、開発の舞台裏
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サッポロビールと日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は2022年11月、人工知能(AI)を活用した商品開発システム「N-Wing★(ニューウィングスター)」をサッポロビールの開発システムとして本格的に実装した。同システムはRTD(栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料)を対象としており、2023年夏以降にRTDの基軸ブランドにおいて新商品の開発を目指している。
社内の業務にAIを活用する事例は数多く見られるが、商品開発はビジネスの根幹をなすプロセスである。なぜサッポロビールは開発業務にAIを取り入れたのか。AIを活用して生み出された商品は、一体どれぐらいの出来なのかーー。サッポロビール マーケティング本部 商品・技術イノベーション部 チーフイノベーションエキスパートの滝沢隆一氏と、日本IBM IBMコンサルティング事業本部 AI&Analytics プリンシパル・データ・サイエンティストの佐藤和樹氏に、システム開発の背景や本格実装までの試行錯誤、今後の展望などを聞いた。
サッポロビールにおけるRTDの商品開発では、企画部門がコンセプトを立案し、それを基に開発部門が試作する。だが、開発部門では過去の原料や配合などの知見が属人化しており、知識や経験が少ない開発者はベテランのメンバーから情報収集したり、いったん開発しても企画部門からの手戻りが多かったりと時間と労力がかかっていた。ベテランの開発者が他の部署などに異動すると、組織内のノウハウが消えてしまうこともあったという。加えて、消費者ニーズの多様化に伴い、固定観念にとらわれないレシピづくりも求められていた。
こうした背景のもとサッポロビールは日本IBMと共同で、2019年末からN-Wing★の開発に取り組んだ。サッポロビールではもともと社内のインフラなどに日本IBMの技術を活用しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)などを行う改革推進部から紹介を受け、協業に至ったという。
N-Wing★は、サッポロビールがこれまで開発した約170種類の商品で検討された配合(約1200種)や原料(約700種)などを学習している。「キレがいい」「ボディー感がある」といった商品のコンセプトキーワードや類似商品との違いを入力すると、理想とする骨格(主要原料の比率)を基に原料の組み合わせや割合を予測し、最多1兆通りのレシピを瞬時に出力する(図1)。同システムには「同義語辞書機能」が搭載されており、香料の特徴を言語化したものを学習させることで、入力したコンセプトキーワードに合った香料が選び出される。
N-Wing★には、IBMが推進する新時代の自動化の仕組み「インテリジェント・ワークフロー」が活用されている。従来の自動化は、基幹業務システム(ERP)を中心としたプロセスやルールの標準化・統一化により行っているが、インテリジェント・ワークフローではAIやIoT、ブロックチェーン、RPA、クラウドなど複数のテクノロジーを活用する。例えばIoTでデータを収集し、クラウドで集約・整理してAIで分析するといったことが考えられる。
こうしたテクノロジーの併用により、人間的な判断を含めた自動化、AIの洞察に応じたルールやプロセスの変化、組織をまたいだオペレーションの自動化が可能になるという。
日本IBMの佐藤氏は、同システムの開発について「膨大な種類の香料から、適切なものを選びつつ、意外性も付け加えることが大変だった。選び出された数多くの組み合わせをスコア化したり、計算処理を理想的な形で小さくしたりすることが難しかった」と振り返る。
開発にAIを活用する意義に関しては「近年、商品の需要予測や営業・マーケティングにAIを活用するケースが非常に多いが、研究や商品開発などの上流工程にもAIを使わないと新しいビジネスは生み出しにくい。ものづくり分野でもそうした取り組みを進めないと、停滞する世の中をドライブすることができないのではないか」と危機感と共に秘められた可能性を語る。
今後横展開する領域には菓子や加工食品が考えられ、「個人的には、日本が強い半導体などの電子部品に適用できたら、国内全体の市場活性化になるのではないかと思っている」(佐藤氏)という。