数字だけで語れない、エディオンがクラウド化で得た2つの成果
今回は「数字だけで語れない、エディオンがクラウド化で得た2つの成果」についてご紹介します。
関連ワード (クラウド等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
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家電量販大手のエディオン(大阪市)は、10年近くオンプレミス環境で運用した基幹システム群のインフラをパブリッククラウドに移行し、2020年11月に稼働を開始した(関連記事)。それから約2年半後の現状や成果について、4月14日に日本オラクルが開催した「CloudWorld Tour Tokyo」に登壇したソリューションサービス本部 ITソリューション統括部 ITソリューション開発部長の松藤伸行氏が詳しく語ってくれた。
エディオンは、2002年に中部地方を地盤とするエイデンと中国地方を地盤とするデオデオの経営統合で発足した。この際に最初の基幹システムがオンプレミスで構築され、2009年の事業再編に伴い更改を行った。その後の事業拡大に伴うITリソースの不足などに対応するため、2014年に「Oracle Exadata」などのシステムを導入。今回のクラウド化は、これらのオンプレミスシステムの多くをオラクルの「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)へ移行するものとなる。
松藤氏によると、クラウド化の大きな目的は(1)ビジネスをITが支えること、(2)ITを自社でコントロールすること――の2つだった。
クラウド化を検討し始めた当時のインフラでは、店舗や本部、在庫、物流など12種類の大規模な基幹システム群がExadataを含む約200台のサーバーで稼働していた。構築当時からのアプリケーションが密結合状態にあり、処理性能も徐々に不足しデータ連携やバッチ処理などに長時間を要していた。環境の変化へ対応しようにも影響調査だけで長い時間がかかり、災害対策(DR)で遠隔地バックアップをしていたが災害対策サイトの立ち上げに時間がかかることも懸念されていたという。
当時のインフラに多くの課題を抱えていたが、松藤氏が一番の課題に挙げたのは、システム運用の属人化になる。クラウド化の目的の「ビジネスをITが支えること」とは、インフラ運用の属人性を排除して運用に費やしていた人的リソースを開発側に充て、事業側が求める新しいシステムやアプリケーションを迅速に開発、構築できる体制の実現だ。システムの現場がクラウド化の障壁になっていた。
「当時のシステムは非常に安定しており、新しいことへの抵抗感が強くありました。成功事例に頼ることが決して悪いわけではありませんし、人は成功体験に頼りたくなるものですが、『なんでこんなことせなあかんの?』と反発が大きくありました」
この状況を打開したのは、経営層のリーダーシップだったという。
「最大のポイントは『これからの時代はこれ(クラウド)でやるんだ』という経営層の意識付けだったと思います。副社長(取締役副社長執行役員の金子悟士氏)がOracle出身というのはありますが、『「古いやり方のままではダメでしょう』と経営層が情報システム部門を説得し、情報システム部門の中でも繰り返し説明し、意識を変えていけたことが一番大きいと思います」
こうして同社はクラウド化にかじを切る。情報システム部門の中で新しいことへの挑戦意欲が高いという30代の3人を移行プロジェクトの専任メンバーにアサインし、まずは現状分析を行い、移行の優先順位付けなどを進めた。この作業も困難を極めたという。
「ドキュメントがないシステムはベンダーに確認しなければならず、システム管理者もいますが、情報は担当者の記憶の中にだけ存在してドキュメントとしては存在せず、やはり担当者に聞かないと分からない状況でした。専任メンバーも特にこの作業では苦労しました」
松藤氏によれば、クラウド化では特にシステム運用の自動化やコード化を徹底した。「Ansible」を利用して、OCIにDR構成で構築しているシステムの東京リージョンと大阪リージョンの切り替え(同社はDRテストを兼ねて3カ月おきに東京と大阪で本番系と待機系のシステムを切り替えている)や、OS・ミドルウェアの設定導入などを自動化。また、「Terraform」を使ってOCIでのインスタンス作成やシェイプの変更などをコードベースで管理している。
「これまでの経緯を知らなくても、スクリプトを読めれば今何が行われているか分かりますし、これからどうすれば良いかも考えられます。以前はGUIを使って人手をかける部分が多く、それだと手順書も必要で、『どうやるの?』ということがたくさんありました。それがだいぶ減りましたね」
インフラのクラウド移行では多くの難局を伴ったが、既報の通り、ツールやサービス、オラクルのサポートなどを活用して、約11カ月と非常に短い期間で移行作業を進めた。同社の情報システム部門は約70人で、システム保守・運用の要員がオンプレミスでは20人近くいたが、クラウド移行後は2人に。現在は担当者の多くが開発側に回り、要件定義や技術の調査、採用の検討、設計調整といった上流工程を担う。従前も30人ほどが上流工程も担当していたが、相談対応や確認調査などの日々の作業に追われる状況だったという。
「運用保守は大事ですが、そこに人的リソースばかり貼り付けておくわけにはいきません。新しい仕組みづくりのためのリソースを確保しなければ、システム開発に膨大な時間がかかったままだと競合他社に遅れてしまいます。今は2人で運用しており、『その2人に運用が属人化してしまうのでは?』と思うかもしれませんが、スクリプトがありそれが読めれば何をしているかが分かりますので、属人化になりにくいと考えています」
こうして同社の情報システム部門は、新規システムやアプリケーションを迅速にビジネス側へ提供する体制が整ってきた。クラウド化の大きな目的の1つの「ビジネスをITが支えること」を達成しつつある。