ライターがいいマイクを買い、普通の人がライティングする時代 小寺・西田の2021年新春対談(後編) (1/2 ページ)
今回は「ライターがいいマイクを買い、普通の人がライティングする時代 小寺・西田の2021年新春対談(後編) (1/2 ページ)」についてご紹介します。
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1月4日に収録した、ジャーナリストの小寺信良さん、西田宗千佳さんの新春対談を前後編でお届けする。今回は後編。
この記事について
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年1月25日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みは。
昨年の大きなトピックといえば、やはりM1 Macが予想外に良かった、ということ。停滞気味なパソコン業界に新風を吹き込んだとともに、これからのコンピューティングを考えるのに非常に良い材料だったのではないだろうか。
今回はそんなお話である。
小寺 Windowsって、8以降UIをいじったりタッチになったりいろいろなスタイルに対応してきたけど、じゃあそれでユーザー体験って本当に上がったのかなというところがあるんですよね。
西田 やっぱり、M1の良かったところって、これをこのままハイエンドで出されちゃ困っちゃうけど、ノートパソコンとしては劇的に体験が良かった、ということだと思うんですよね。
まさにAirはちょうどいいマシンで、10万円のマシンでなんでこんなに速くてこんなに快適なの、というのがやっぱりコアじゃないですか。そういうのが今はWindowsにはない、というのは事実だと思うんですよ。
小寺 うん。形状はね、けっこう自由度がある。メーカーがいっぱいあるから、いろんな形のやつ、タブレットもあるし、2in1もあるし、いろいろやってはいるんだけど、なんかこう、決め手に欠けるというかね。
西田 そう。本質的な快適さがまだ足りないな、と思ってて。発熱とか、消費電力の低さとか、あと、本当はもっと言うと、すごく細かい話になるんですけど、IntelのCPUにもきちんと機械学習のコアが載ってるから、ノイズキャンセルだったりバーチャル背景だったり、ガンガン使えればいいのに、第10世代のCore iシリーズからしか載ってないのであんまり使ってないんですよね。だからIntelも広告出して、「エッジAIにIntelの最新CPUを」みたいな記事をいろんなメディアに書いてもらったりしてるんだけど。そういう活用のされ方をしてないので、結局CPUとGPUが回っちゃって、パフォーマンスが落ちる、という部分もあるんですよね。
小寺 うん。今はもうパフォーマンスを決めるのはCPUよりGPUですよね。
西田 今、我々が快適だと思う仕事って、GPUとAIの(機械学習用の)コアに依存してる部分がすごく大きい。だって例えば動画編集だったらGPUにほとんど依存してるし、AIもGPUかAIのコアに依存してるわけですよね。CPUの性能が本当に必要なのって実はゲームぐらいしかなくて。だからそこのバランスがちょっと今Intelは悪いな、と。M1はそこのバランスがスマートフォンで練られてきたところがあってちょうどいい、というのはありますな。
小寺 要するに、PCでやる仕事が、昔とはもう変わってきちゃいましたよね。
西田 うん、うん。昔みたいに普通にタイプする仕事じゃない。
小寺 やっぱりコミュニケーションとか、動画・写真を扱うツールになってきちゃっていて、情報を出す相手がスマホになっちゃった。でもスマホ向けコンテンツを作るのはスマホじゃできないんで、今はPCでやってる、という感じじゃないですか。そうなると求められるものは違うもんね。
西田 非常に面白いなと思うのが、2018年とか2019年に自分が書いたレポートとかをちょっと読み返してたんですね。そしたら、これから非常に可能性がある技術、とかいって、バーチャル背景の話を書いてるんですよ。高度なAIを使って、人間のシルエットを自動的に抜いて、グリーンバックを使わずに誰でもリゾート地にいるように仕事ができる、みたいなのをMicrosoftとかGoogleがやってて、こうやって見せてくれたんだ、みたいな記事を2018年とかに書いてるわけですよ。
小寺 うん。でも当時はさ、使い道がないじゃない(笑)。
西田 そう。使い道がないし、ものすごい遠いことだと思ってたわけですよ。でも、今になってみれば別に大したことじゃないし、こういう状況になってみれば、背景をぼかすとか、バーチャル背景ってすごく大切だ、ってことは分かった。もっと言うと、それに必要なのはCPUじゃなくてAIコアだったよね、とか、GPUだったよね、という話になってるわけじゃないですか。
小寺 (笑)。
西田 そこのパラダイムシフトみたいなのが、2年前は誰も分かってなかったんですよね、まだ。
小寺 そこがコロナ禍によって加速された部分はありますよね。一気にやらなくちゃいけなくなった。
西田 うん。テクノロジーが読めてる一線のエンジニアはたぶん分かってたんですよ。でも我々は結局、そこまで見えるわけじゃないから、初めて実装されたものを見たり、こうやってコロナ禍で使うようになったりして「あ、こういうことなんだ」というのが分かってきた、という部分はありますよね。
求められるものが一変した世界
小寺 このあいだ、NECパーソナルコンピュータ広報部長の鈴木正義さんと対談したんですけど。NECって2015年ぐらいからずっとリモートワークを始めていて、もう5年ぐらい経っててノウハウが結構たまってる。やっぱりPCメーカーのほうが、そういうリモートワークみたいなのに業務的にはなじみやすいんですよね、すごく。自分たちの持ってるものでできちゃうから。
西田 そうですよね。
小寺 さらにIT社会の見本を見せないといけない立場だから。5年前ってもっと環境が全然悪かったと思うんですけど、それでもやり続けていて、それが今は実を結んだ感じになってきているんです。テレワークなんてもう80年代から提唱されてたわけですけど、でもそれが一般化するのはもっと先だと思ってたわけですよ。「10年後、20年後の未来ってこうだ」という話だったんだけど、それが急に前倒しになって、1年以内にみんなリモートワークするようになっていて。
西田 たぶんその時に、こうしなきゃいけないと思ってたことよりも、もっとつまらないことが重要だったんじゃないかな、という気がしてるんですよ。バーチャル背景なんてまさにその典型で。
だって別にどうでもいいじゃないですか。例えば僕の部屋が汚いのが見えてたって、ビデオ会議して見てる相手は別になんとも思わないし、もしかすると汚いとも思ってないかもしれないわけじゃないですか。
小寺 そうね(笑)。
西田 でも、それは自分の心理の問題だから。別にバーチャル背景にこだわる必要もないし、もっと言うとミュートすればいいからタイプキャンセルもする必要だって別になかったんだけど。
小寺 うん。
西田 「いかに簡単に会議をするか」みたいな、大上段に構えてたのが、実は、人間が生活していくうえでちょっと重要だったことは、自分の顔色をもうちょっと綺麗に見せる方法だったりとか、もしくは視線が下に行っちゃわないようにちょっと自動補正するとか、わりとこう、人間に即した部分だった、というのが若干あるかもしれないですよね。
使ってればそれが見えてくるんだけど、技術開発しました、できるようになりましたというレベルの時代には、そういうのってあんまり思いつかないっすよね。
小寺 そうね。あとはやっぱり笑ったのはさ、ライターがみんな競い合うように良いマイクを買ったのがね(笑)。
西田 あ、そうね。はいはい。僕も買いましたけど。うん。
小寺 一斉に良いマイクを買ってきて、上から吊ってラジオみたいに喋ったりとかさ。
西田 そうそう。いやまさに、2年前、3年前に、たちがやってたことを全員追っかけてるじゃん! という。YouTuberがやってたことは映像コミュニケーションだったんだから、それはそうだよね、という話ではあるんだけど。
小寺 うん。でも相当みんなやるようになったし、これまであんまり関心がなかった人たちも、「やっぱりマイク大事だね」とか、「このアナログで出力するやつはいったいどうすればいいの?」みたいな、集音のノウハウとかさ。
西田 そうそう。「ループでハウリングが出ちゃうんだけど」とか普通の人が言うわけでしょ。
小寺 言う、言う。ライティングとかもするようになったしね。
西田 あ、そうですね。僕も一個、今ライティングしてますけど。
この間おかしいなあと思ったのが、たまたま僕はオフラインで会見に出てたんですけど、携帯電話の会社のやつで。「オンラインからの質問を受け付けます」と言って、NHKの人がオンラインか何かで質問してて、超ハウリングしてたわけですよ。「オイオイオイ、NHKがハウリングだよ」ってみんなで突っ込んでて(笑)。
小寺 (笑)。
西田 いや、記者だから知らないこともあるよ、って思いつつも、でもそういうツッコミをみんなしちゃうくらい、ある意味下世話な状態になってきてるわけですよね。それは去年、本当に実践されたということの証明だなと思って。
小寺 みんな通ってきたからね。一部の人しか知らなかったことを、あっというまにみんなが通ってきちゃった。
西田 うん。みんな苦労したんですよ。――というところも含めて、なんというか、2021年って、そういうのを受けたうえで、そういうのが当たり前のノウハウになって、じゃあ次、という世界なんだと思うんですよ。
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