PublickeyのIT業界予想2023。クラウドのコスト上昇懸念、Passkeyの普及、AIによる開発支援の進化、WebAssembly環境の充実など

今回は「PublickeyのIT業界予想2023。クラウドのコスト上昇懸念、Passkeyの普及、AIによる開発支援の進化、WebAssembly環境の充実など」についてご紹介します。

関連ワード (経由、身体的特徴、電気料金等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、Publickey様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


新年明けましておめでとうございます。今年もPublickeyをどうぞよろしくおねがいいたします。

さて今年最初の記事では2023年のIT業界、特にPublickeyが主な守備範囲としているエンタープライズ系のIT業界はどうなるのか、Publickeyなりに期待を込めた予想をしてみたいと思います。

エネルギー価格の上昇、セキュリティへの注目など

まずは予想の前提として、IT業界に影響を与えそうな現状についての認識を明らかにしておきたいと思います。

グローバルな視点で見たときに、IT業界だけでなく世界経済に大きな影響を与えているのは石油や天然ガスを始めとするエネルギー価格の上昇とインフレでしょう。

エネルギー価格の上昇はロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにしつつも複合的な要因があるとも言われていますし、2022年がピークという世界銀行が予測するなど、2023年も価格上昇が続くとは言い切れませんが、世界的なインフレと相まって、ある程度の高価格帯での推移と先行きの不透明感が続く可能性が高いと考えます。

2022年はITのセキュリティに関する面でも注目される出来事があった年でした。

ちょうど1年前の今頃にLog4jの脆弱性が発見され、多くのソフトウェアに影響がありました。この問題を背景に2022年1月には米ホワイトハウスがソフトウェアセキュリティに関する会議を開催し、その後オープンソースのセキュリティ対策に関するさまざまな動きが具体化しています。

国内では病院をターゲットにしたサイバー攻撃が相次いで報道されました。影響を受けた一部の病院では復旧に数カ月かかるなど、市民生活に明確な影響を与えたことは記憶に新しいと思います。

今年、2023年にはマイナンバーカードのAndroidスマホ搭載が開始されるなど、ITの社会インフラ化はますます進みます。広い意味で、よりセキュアで信頼性の高いITの実現が求められるでしょう。

企業にとっては、ITによってビジネスを変革する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というスローガンを見るまでもなく、マーケティングの面でも製品開発や製造、サービス提供の面でも、そして顧客との接点という面でも、ITを上手につかこなせる企業とそうでない企業の差は開いていくのではないでしょうか。

このあたりを下敷きにして、今年のIT業界を予想してみましょう。

Publickeyによる2023年のIT業界予想

クラウドの利用価格上昇懸念

エネルギー価格の上昇やインフレによって世界的には電力当たりの料金も上昇傾向にあります。この電気料金の値上がりは、その利用料金の多くを占めているクラウドの利用料金に反映される可能性があります。

ただし、これは体力のある大手クラウド事業者にとってはシェアを拡大するチャンスでもあります。

電力価格の上昇に対して、体力のあるクラウド事業者は価格を維持することで、電力価格の変動に耐えられず価格に転嫁せざるを得ない中小規模のクラウド事業者やデータセンター事業者に対して価格面でさらに優位にたち、そのシェアをさらに拡大させるかもしれません。

こうした思惑もあって、価格上昇は容易には起こらないと予想されますが、しかしクラウド市場全体に対する利用料金の上昇懸念は拭えないでしょう。

クラウドを利用する企業にとっては、インフレと不景気によってさまざまなコストの上昇に敏感にならざるを得なくなるはずです。

ですから、2023年はクラウドの利用料金の上昇という、これまであまり見られたなかった現象が起こる可能性があること、そしてユーザー企業にとってはその懸念を背景に、クラウドの利用コスト削減についてクラウドベンダの見直し、利用サービスの見直し、リザーブドインスタンスなどオプションの見直し、そして場合によってはサーバレスなどアプリケーションアーキテクチャの根本的な見直しなど、さまざまなコスト削減の選択肢にスポットライトが当たることになるのではと予想します。

Passkeyの普及と活用

2019年にFIDO2を構成要素とするWebAuthnがW3Cで勧告になったことで、パスワードレスの業界標準が本格的に普及するための土台ができました。

参考:W3C、パスワードを不要にする「Web Authentication」(WebAuthn)を勧告として発表。Chrome、Firefox、Androidなど主要ブラウザですでに実装済み

これが2022年により使いやすいPasskeyへと進化したことで、1960年代にマルチユーザーシステムが登場して以来ずっと使われてきたIDとパスワードの組み合わせによるユーザー認証の終わりが見えてきました。

参考:パスワードレスを実現するFIDO/WebAuthのさらなる普及へ、新提案を公開。デバイス間でのクレデンシャル同期、Bluetooth経由でのローミング認証器など

パスワードの漏洩による不正アクセスによる被害は、ソーシャルメディアのなりすましから重要なシステムへの侵入による破壊工作まで、これまで何度も繰り返されてきました。

Passkeyは本人であることを証明するための3要素、すなわちパスワードなどの「知識」、トークンなどの「所有」、本人の身体的特徴の「生体要素」のうち少なくとも2つと公開鍵暗号の組み合わせによって、パスワードの漏洩などによる事故を起こさない堅牢な仕組みが手軽に使えるようになりました。

2023年はこの堅牢なセキュリティを実現するPasskeyが本人認証の新たな標準として浸透していくでしょう。そしてYahoo!などのさまざまなWebサービスだけでなく、企業や病院や政府公共機関などさまざまな組織内のシステムなどにおいてもPasskeyの利用が進むであろうことを(業務アプリケーションの書き換えは1年ではできないとは思いつつも)期待を込めて予想しておきます。

さらにPasskeyはITシステムへのログインだけでなく、自動車の鍵など既存の鍵の代わりとなるだろうと国立情報学研究所 佐藤一郎教授は予想しています。こうしたIT以外のサービスやデバイスへもPasskeyがどのように普及していくのかは注目すべきところでしょう。

AIによる開発支援とローコード/ノーコード開発

2022年6月、プログラミングをAIが支援してくれる「GitHub Copilot」が正式にサービス開始となりました。これによってAIがプログラミングを支援する時代が本格的に到来したといえます。

参考:プログラミングをAIが支援してくれる「GitHub Copilot」が正式サービスに、VSCodeやNeovimなどで利用可能。月額10ドルから

GitHub Copilotは既存のソフトウェアの著作権を侵害しているのではないか、といった係争にもなっていますが、AIがソフトウェア開発を支援するという大きな流れが止まることはなく、2023年はソフトウェア開発を支援するAIや機械学習によるツールがさらに登場し、発展していくことでしょう。

2022年はイラストの生成や高度な会話が成立するAIが登場し、話題になりました。この波がプログラミングにも到達し、GitHub Copilotだけでなく、多くの人が利用できる、あるいは入手できるAIによるプログラミングツールが登場するのは時間の問題でしょう。

特に繰り返し作られているような、ある程度定型化された基本的な業務アプリケーション開発の生産性向上に、AI支援は大きく寄与するはずで、そうした目的に特化して訓練されたコード生成AIなども登場してくるのではないでしょうか。

そして、対象の業務や目的が明確化されている開発ツールとしてのローコード/ノーコード開発ツールには、特にAIや機械学習による開発支援や自動生成はフィットするはずです。

すでにGoogle AppSheetはそうした機能を備えていますし、プロフェッショナルなシステム開発も、ビジネスの現場での非プログラマによる業務改善のためのシステム開発やサービス活用においても、AIによる支援機能を備えたツールが一般的になっていくと予想されます。

ここまでは大きなトレンドを見据えた予想を描いてきましたが、最後の2つは昨年からの注目技術の延長線上で今年も注目したい技術を挙げましょう。

WebAssemblyの開発環境の充実

2022年は、SQLiteのWebAssembly版やRubyのWebAssembly版など、言語やミドルウェアレイヤの主要なソフトウェアにおけるWebAssemblyの実装が登場した年でした。

これはWebAssemblyおよびコンパイラの進化と、WebAssemblyをマルチプラットフォーム化するWASI仕様の登場が大きな役割を果たしています。

この流れは2023年も続くことは間違いないなく、今後もさまざまな言語やミドルウェアがWebAssembly化されていくことでしょう。と同時に、こうしたWebAssembly版の言語やミドルウェアを活用するために、アプリケーションのWebAssembly化が進むと予想されます。

ただし現状ではWebAssemblyに対応したアプリケーション向けの高級言語や統合開発ツールの充実が欠かせません。

マイクロソフトは.NET 7でWebAssembly対応を強化しており、この分野での本命と見なされています(.NETアプリのコードをWebAssemblyにコンパイルすることも可能なようです)。

Docker DesktopにもWebAssemblyランタイム機能が統合されているため、デバッグやテスト、デプロイなどのツールチェーンとしてはいまのところDocker Desktopまわりが先行していると見ていいのではないでしょうか。

参考:Docker DesktopがWebAssemblyランタイムを統合。コンテナと同様にWebAssemblyイメージを実行可能に

今年後半には.NET 8が登場しますので、そこでのWebAssembly対応を期待するとともに、マイクロソフト以外からもWebAssembly対応のさまざまな開発ツールや周辺ツールの登場を期待します。

JavaScriptランタイムの進化

Node.jsの一強時代が長く続いたサーバサイドのJavaScriptランタイムにおいて、2021年にDenoが登場し、そして2022年にBunが登場し、さらにCloudflare WorkersやFastlyCompute@EdgeやAmazon CloudFront FunctionsなどCDNベンダーやクラウドベンダーによるサービスなども相まって、2022年はサーバサイドJavaScriptランタイムの戦国時代とでも言うべき状況になりました。

参考:AWS、エッジにおけるJavaScript実行環境に本格参入。Cloudflare WorkersやDeno Deployなどと競合へ

なかでもNode.jsとの互換性とDenoを上回る高速性をアピールして登場したBunは、Denoに対して大きな方向転換を決意させるインパクトを与えたことで、JavaScriptランタイムの台風の目ともいうべき存在になっています。

参考:Denoが大幅な方針変更を発表。3カ月以内にnpmパッケージへの対応を実現、最速のJavaScriptランタイムを目指しHTTPサーバを刷新

こうした競争の一方で、Deno、Cloudflare、Shopify、Vercel、igalia、そしてNode.jsやDenoのコアコントリビュータらは非Webブラウザを中心としたJavaScriptランタイムにおける相互運用性の改善を目指したコミュニティグループ「Web-interoperable Runtimes Community Group」(WinterCG)の結成も2022年に発表しています。

参考:Deno、Node.js、Cloudflare Workersなど、非Webブラウザ系JavaScriptランタイムのコード互換を目指す「Web-interoperable Runtimes Community Group」(WinterCG)が発足

こうした標準化と競争は2023年にJavaScriptランタイムの大きな進化とユーザーへの普及を予感させるものです。今年の動きに注目したいと思います。

さて、2023年の予想を書いてきましたが、いかがだったでしょうか。この手の話は書いていて楽しくていくらでも予想が出てくるので、ひとまずここで区切って書き終えたいと思います。

ぜひTwitterやブックマークでみなさんの予想を教えてください。

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