似て非なる「情報」と「通信」–ITとICTの違いから見えること

今回は「似て非なる「情報」と「通信」–ITとICTの違いから見えること」についてご紹介します。

関連ワード (ICT来し方行く末、ネットワーク等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 「情報通信白書」。毎年総務省が発行している、情報通信産業のトレンドや産業そのものの規模の動向、経済全体への影響などを著したものである。

 その令和6年(2024年)版は、I部で令和6年能登半島地震における情報通信の状況やAIの課題・現況・進展について触れられているとともに、II部ではICT市場の動向と総務省における政策の取り組みが分かりやすくまとめられている。相当な情報量でありながらも、ストーリー感があり、図表も多く、毎年これだけの著作物をまとめている官僚の方々には敬意を表すとともに、その底力を感じるところである。

 さて、その令和6年版によれば、令和4年(2022年)の情報通信産業の名目国内総生産(GDP)は54.7兆円であり、全産業の名目GDPの10.1%に相当する。前年比1.5%の増加ということである。

 では、「情報通信産業」に分類される産業とは、どのような産業なのだろうか。実は「情報通信産業」といっても、確定的にこの範囲だと示すことは難しい。

 情報通信白書では、「通信業」「放送業」「情報サービス業」「インターネット附随サービス業」「映像・音声・文字情報制作業」「情報通信関連製造業」「情報通信関連サービス業」「情報通信関連建設業」「研究」の9部門としている。一方で、同じく総務省が発表している「日本標準産業分類」では、「G.情報通信業」として「通信業」「放送業」「情報サービス業」「インターネット附随サービス業」「映像・音声・文字情報制作業」と示しており、完全には一致しない。

 とはいえ、その違いは「情報通信関連製造業」と「情報通信関連建設業」そして「研究」のみであり、なにか問題があるというわけでもないだろう。ところが、各産業の伸張や、主要通信事業者の事業ポートフォリオ、求められる技術者のスキルという面から見ると違った風景が見えてくる。

 情報通信白書にも引用されているが、総務省発行の別の白書に「ICTの経済分析に関する調査」というものがある(最新は令和5年版)。ここに、情報通信産業内の各産業の実質GDP規模推移がある。これを見ると、情報通信産業全体は、2000年頃から2012年までは減少傾向にあり、その後2022年まで緩やかに成長している。この間「通信業」は、ほぼ横ばいで推移しており、2013年以降の成長をけん引しているのは「情報サービス業」や「インターネット附随サービス業」なのである。

 平たく言えば、「ICT」のうち「Communications」(通信)は横ばい、「IT」(アプリケーション)が成長ということなのだ。

 これは、改めて言うまでもなく、MNO※1各社が「非通信事業」(例えば金融・決済、映像・音楽配信など)に注力していることを公言していることからも明らかである。

※1:Mobile Network Operatorの略。本来の意味は、移動体通信事業者。移動体通信の事業免許を保持していることが大手通信事業者とほぼ同意となっているため、大手通信事業者と理解していただいて構わない。日本においては、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクと考えていただきたい。

 もちろん、全ての産業にライフサイクルというものがあり、成長期があれば、成熟期・衰退期もあることは避けられない。成熟期を迎えた通信業とは言え、その重要性が失われることは無く、HAPS※2に代表されるNTN※3の隆盛や、IOWN※4で注目されている光電融合によるオールフォトニクスネットワークなど、今後もさまざまな技術が開発されていくことであろう。

※2:High Altitude Platform Stationの略。高度20km程度の成層圏に飛ばして利用する、飛行機・飛行船型の通信設備。光ファイバーの設置が困難な地域や、災害時の通信確保を目指して多くの実証実験が行われている。人工衛星と比べて低軌道であるため、大規模な設備を必要としないことや、低遅延であることが優位性である一方、電力供給やサービス提供範囲の狭さなど、商用化への課題が残されている。
※3:Non Terrestrial Networkの略:非地上系ネットワークと訳され、HAPSや静止軌道衛星など宇宙空間を用いた無線通信ネットワークの総称。
※4:Innovative Optical and Wireless Network。NTTが2030年頃の実用化に向けて推進している次世代コミュニケーション基盤の構想。

 とは言え、企業として成長していくためには、通信業のみに依存することは好ましくなく、非通信事業(アプリケーション事業などのIT事業)に軸足を移していくことが求められるということだ。しかしながら、この軸足を移すというのは非常に難しいことであると言わざるを得ない。Communications(通信)とInformation Technology(アプリケーション)は似て非なる産業であり、互いに強く依存する不可分な産業でありながら、技術的にも心情的にも距離のある産業なのである。

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