第59回:ひとり情シスは「IT介護」なのか?
今回は「第59回:ひとり情シスは「IT介護」なのか?」についてご紹介します。
関連ワード (「ひとり情シス」の本当のところ、運用管理等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
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社内のデジタル化やIT化を進める上で、社員のITリテラシーを高めることは重要ですが、全く異なるアプローチを取る会社もあります。例えば、PCのOSを更新すると画面のデザインやアイコンが変わることがあります。若手の社員なら新しい環境に難なく慣れるでしょうが、高齢のシニア社員はPCの前で固まってしまうかもしれません。アイコンの図柄やメニューバーの色が少し変わっただけでも、「いつもと違う……」と困惑してしまうものです。IT担当者が「バージョンが変わるとこうなるものなんですよ」と説明しても、なかなか要領を得ません。
そうした話が社長に伝わったところ、驚くべき対応が取られました。なんと「操作環境を前と同じにしてくれないか」とひとり情シスに懇願したのです。そこで、ひとり情シスはしぶしぶ、旧環境の使い慣れたアイコンやユーザーインターフェース(UI)を新環境で極力再現しました。その結果、シニア社員でも問題なく操作できるようになったといいます。
現在は人材不足に悩んでいる会社が多いため、シニア人事を積極的に活用したいところです。こちらの会社では、シニア社員が働く上での心理的安全性を社長が非常に大事にしているので、多くのシニア人材が集まっています。地域のシニア人材の多くがここで働きたいと言っているのを、同業他社も羨んでいるそうです。シニア社員がITで困惑するのはアイコンやメニューバーなどの変化に限った話ではありませんが、アイコン一つにも困惑する社員の気持ちにまで丁寧に寄り添ってIT化を進めることの大切さを示唆しています。
手間のかかるユーザーのサポートを現在では「IT介護」と揶揄(やゆ)する傾向もありますが、これは少し残念なことです。介護とは、病人や老人などを助け、守ることであり、現役社員を手厚く世話することとは違います。今後のIT環境はますます高度化するため、現役世代は今以上にITリテラシーを高めなくてはなりません。
2021年の世界デジタル競争力ランキングのうち、個人の資質である「デジタルテクノロジースキル」については、驚くべきことに日本は世界64カ国中で下から2番目の62位であり、世界の底辺国です。そのため、一人一人のITスキルを向上しなければなりません。
ITリテラシーの高い社員の中には、将来どのような技術変革が起こってもついて行けると自負している人も多いと思われます。しかし、人は誰でも老いるものです。日本神経学会の「認知症疾患診療ガイドライン」では、認知症だけではなく老化による現象についても説明されています。「今まで当たり前に覚えていた人名や地名を忘れてしまう」「全般的に『うっかり』の物忘れが進む」「思い出すまでに時間がかかる」「ヒントがあればどうにか思い出せる」など、悲しいことですが、衰えは誰にでもやってきます。しかし、継続雇用制度などの見直しがさらに進み、定年年齢が引き上がるかもしれません。
国際連合人口基金(UNFPA)が発表した平均寿命の世界ランキング・国別順位(2022年版)で、日本は男女ともに1位です。デジタルの力を使ってシニア社員がいつまでも負担なく働けるようにすることは、大きな世界貢献につながると思います。ITやデジタルでさまざまなことを支援できる、そんな世界一優しい国に日本がなるといいなと願うばかりです。