リース会社の枠を超えた価値提供–三菱HCキャピタルが考える「アセット+α」のDX戦略

今回は「リース会社の枠を超えた価値提供–三菱HCキャピタルが考える「アセット+α」のDX戦略」についてご紹介します。

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 2021年4月、リース業界の大手2社である三菱UFJリースと日立キャピタルが統合し、三菱HCキャピタルが誕生した。同社は、2年間にわたる経営統合プロセスの期間を経て、2023年5月に「2023~2025年度中期経営計画(2025中計)」を公表、その中では最重要戦略の一つとして「DX」が掲げられている。

 現在、同社では、「デジタル戦略企画部」を中心に取り組みが進められているさなかであるが、リース会社ならではのDXと、DXによって目指す新会社の姿とはどのようなものか。同社のDX戦略とその実行をけん引する取締役 常務執行役員 経営企画本部長 兼 財務・経理本部長の佐藤晴彦氏と、経営企画本部 デジタル戦略企画部長の富士本州勇氏に話を聞いた。

 三菱HCキャピタルが誕生した背景には、既存のリース会社が置かれている市場環境の変化がある。国内市場は成熟し金利も低く、経済も大きな成長が期待できない状況が続く。そのためビジネスの成長性を考えると、今後の変革は避けて通れない状況だ。2社の統合に至った経緯について、佐藤氏は、「リース会社の枠を超えた新しい価値の提供ができる存在になることが大きな目的の一つだった」と説明する。

 そこで、同社は統合時、あえて社名に「リース」という言葉を入れず、また「わたしたちは、アセットの潜在力を最大限に引き出し社会価値を創出することで、持続可能で豊かな未来に貢献します」という経営理念を掲げて、新会社としての方向性を示した。その中では、「アセット」という言葉を使っている部分も1つのポイントとなっている。

 「リース会社はアセットを使って金融ビジネスをしていることが特徴でありプライド。また、アセットという言葉には、不動産や設備・機器といった有形資産にとどまらず、今後、データやノウハウという無形資産も活用していきたいという思いも込められている」と、佐藤氏は文言に込められた意図を説明する。

 さらに同社は、10年後のありたい姿を「未踏の未来へ、ともに挑むイノベーター」とし、「SX(サステナビリティトランスフォーメーション)」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進力に、「事業ポートフォリオ変革」を実践することで、「CX(コーポレートトランスフォーメーション)」を達成するという指針を定め、2023年4月に具体的な施策の第一弾となる2025中計を始動した。

 2025中計における事業戦略の柱となっているのが、「ビジネスモデルの進化・積層化」というコンセプトである。リース業は資産・資金(バランスシート)をもとに事業を行っていて、そこが拡大すると収益も上がるというビジネスモデルだが、三菱HCキャピタルは、現在、約11兆円という大規模なバランスシートを保有しており、この先それを2倍、3倍にというように増やしていくことは想定していない。そこで、今後は事業変革によって収益性を高めるという姿勢を明確化した。つまり、「同じアセット規模でも、これまでROA(総資産利益率)として1%しか稼げなかったところを1.5%にする」(佐藤氏)という形である。

 そのため、2025中計では、同社の祖業でありまた重要なコアビジネスでもある「カスタマーファイナンス」「アセットファイナンス」という領域に加えて、新たに「ファイナンス+サービス」「データ活用プラットフォームサービス」「アセット活用事業」という、より収益性の高いビジネス領域を積み上げていくという道筋を描いている。そして、そこに欠かせないのがデジタルの活用、つまりDXであり、「中計全体の取り組みの中で、DXは大きな位置を占めている」(佐藤氏)ということになる。

 同社では、DXを進めるに当たり、まず前段として風土改革に着手している。社内に変革に対する意識付けをするために、2025中計では、(1)変革の土壌を「整える」、(2)変革を「生み出す」、(3)変革を「推進する」――という3段階からなる「変革を促す仕組み」を用意。「変革やイノベーションを実現するためには風土改革が必要で、改革を実践するためには改革を促す仕組みを持っていなければならない。その意味で、この3つの考え方が事業変革やイノベーションの起点になる」と佐藤氏は説明する。

 (1)は、トップを含めた全社員の意識変革に向けた取り組みで、具体的には情報発信や研修が行われる。(2)は、変革の動きを活発化させるための仕組みづくりで、「ビジネスアイデア募集プログラム」や「社内起業プログラム」を開始している。(3)は、変革を進めるためのアジャイル型の組織体制づくりを目的とした活動で、外部とのオープンイノベーションを進めやすくするために新たにスタートアップを対象とした約100億円の「イノベーション投資ファンド」を設置するとともに、現場への権限委譲(=分権化)を進めていく。

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