VRで宇宙飛行士のメンタルケア–国際宇宙ステーションで体感する自然と街並み

今回は「VRで宇宙飛行士のメンタルケア–国際宇宙ステーションで体感する自然と街並み」についてご紹介します。

関連ワード (クライアント等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 これ以上ないと思えるほど機能本位のケーブルが複雑に絡み合う国際宇宙ステーション(ISS)の中で、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙飛行士が浮遊している。Andreas Mogensen氏の手にはハイテクな仮想現実(VR)デバイスがあり、同氏はこれを使用して、故郷の音や風景に触れながら日常の作業に取り組む。このヘッドセットは、目に見える景色をよくするだけではなく、Mogensen氏の精神と肉体の健康を維持するためのものでもある。

 2024年3月に投稿されたYouTubeの動画では、回路、ループ状の配線、金属のアーム、白いパネルに囲まれたMogensen氏の姿が紹介されている。それらの設備は宇宙ステーションを地球の周回軌道上に維持しているが、さらに重要なのは、内部の宇宙飛行士の安全確保だ。

 ISSは科学と工学の偉業だが、居心地の良い空間に仕上がっているわけではない。

 「非常に殺風景で冷たい感じがして、自然に触れることができない。それが精神の健康に影響を及ぼす」と、Mogensen氏は動画の中で語っている。

 HTCは、デンマークのエンジニアリング/コンサルティング企業であるNord-Space Apsと提携し、Mogensen氏のために「VIVE Focus 3」ヘッドセットに自然の動画を保存してISSに送った。このデバイスは微小重力下で正常に機能する初のVRヘッドセットであり、Mogensen氏はこれを使用して、自身の精神的健康への影響をテストするとともに、エクササイズの時間をより眺めの美しいものへ変えた。

 仮想空間のコペンハーゲンを自転車で走る方が、ISSの電子部品をじっと見つめるよりも目の保養になるのは間違いない。これはより広範な取り組みの一環でもあり、全体としては、宇宙飛行士が愛する人たちや晴れた日の心地よさから長く離れて、ストレスの多い仕事をしながら、いかにして幸せと健康を保つかを追求している。

 米国の宇宙飛行士であるScott Kelly氏は2016年、当時の最長記録である340日間の宇宙滞在から帰還して有名になった。宇宙コミュニティーが火星に目を向けているため、往復ミッションに臨む宇宙飛行士は数年間地球を離れなければならないかもしれない。

 HTCとNord-Space Apsが携わったような実験は、宇宙にいる宇宙飛行士が地球とのつながりを維持する方法について、研究者が洞察を得るための助けになる可能性がある。

 Mogensen氏は当初、懐疑的だった。一連の動画を通してアウトドアを体験しても、ほとんど何も変わらないだろうと思っていた、と動画で述べている。VIVEヘッドセットに保存された動画には、夕日、ビーチ、山道、夏の日の川辺などが含まれていた。

 「風が葉を揺らす音や鳥のさえずりが聞こえた。まるで太陽の暖かさが感じられるようだった」。同氏はカメラに向かってこのように語り、より穏やかでリラックスした気分になったと述べた。

 2つ目の実験では、ヘッドセットとともにISSのエクササイズバイク「Flight Ergometer」(FERGO)を使用した。宇宙飛行士は、微小重力の身体への影響を抑えるために、少なくとも1日に2時間は運動をする。

 Mogensen氏はケーブルで覆われた壁と向き合うのではなく、母国デンマークの複数のサイクリングルートを走ることができた。それらのルートには、森やビーチ、田園地帯、コペンハーゲンなどの都市を通るマウンテンバイクコースがある。バーチャルの道は走行時の負荷も再現しているため、丘が見えているときは、自転車で丘を登るときの負荷がかかる。

 Nord-Space Apsの最高技術責任者(CTO)であるPer Lundahl Thomsen氏によると、Mogensen氏は3回のセッションだけで実験を終える予定だったが、その後もエクササイズバイクに乗るときはヘッドセットを使い続けたという。

 「宇宙ステーションでの楽しみの1つになった」とMogensen氏は動画で語っている。

 約4年前、Thomsen氏は月軌道プラットフォームゲートウェイ(月軌道を周回する初の宇宙ステーション)の完成予想図を見た。それは殺風景な実験所のような空間で、ISSによく似ていた。

 宇宙飛行士の身体的な安全を見た目よりも優先すべきであることに疑問の余地はないが、特に心の健康に関して、さらなるリスクを考慮する必要がある、とThomsen氏は述べた。

 「『一体どうやって生き延びるのか』と思った」とThomsen氏は「Zoom」でのインタビューで語った。快適な環境ではないが、短期なら可能だろう。同氏が心配しているのは、本来健康な人間も長期ミッションの後では精神的な傷を負って帰還するのではないかという点だ。

 Thomsen氏は宇宙業界で30年の経験があり、2020年にNord-Space Apsを創設した。

 2009年にMogensen氏とすでに出会っていたThomsen氏は、Mogensen氏がISSで行う実験を提案し、VRが宇宙旅行の計り知れないストレスを軽減するのに役立つかどうかを調べるミッションを開始した。

COMMENTS


Recommended

TITLE
CATEGORY
DATE
ネット中立性に関するコメント2200万の80%が捏造と調査で判明
パブリック / ダイバーシティ
2021-05-09 06:24
ソラコムのサービスがWiFiなど任意の通信回線で利用可能に、「SORACOM Arc」を発表。Discovery 2021 Online
IoT
2021-06-24 05:18
Google Cloud、AIエージェント構築「Vertex AI Agent Builder」など発表
IT関連
2024-04-12 13:37
Google Cloudが次世代API管理プラットフォーム「Apigee X」を発表
ソフトウェア
2021-02-06 09:07
NECと富士通、ポスト5Gに向けた基地局装置間の相互接続性検証技術を開発へ
IT関連
2021-08-23 22:21
NTTコミュニケーションズ、山形県との連携のもとAIで積雪状況を分析し除雪業務の効率化を目指す実証実験を開始
IT関連
2022-02-08 02:03
スパイウェア「Pegasus」最新版はiOS 14.6のエクスプロイト悪用──Amnestyが解説
アプリ・Web
2021-07-21 04:55
薬樹、「Shopらん」導入で本部と薬局間のコミュニケーションを円滑化
IT関連
2023-08-25 18:37
日本のセキュリティ人材はアジア最多規模、課題は地位向上–(ISC)2に聞く現状
IT関連
2022-07-23 20:07
フェイスブックもグーグルと同様に職場復帰する従業員にワクチン接種を義務付け
パブリック / ダイバーシティ
2021-08-01 09:51
「ChatGPT」のカスタム指示、無料プランでも利用可能に
IT関連
2023-08-15 19:32
オートデスク、JR東日本コンサルタンツと戦略的連携–鉄道業界のDXとBIMを推進
IT関連
2024-11-16 02:40
井村屋グループ、社内のコミュニケーション基盤を「Zoom」に集約
IT関連
2023-08-24 09:05
重要インフラへの攻撃は依然として重大な脅威–著名ジャーナリストが警告
IT関連
2022-08-16 01:38