データ駆動型経営で膨大な開発コストを削減–アステラス製薬のDX戦略

今回は「データ駆動型経営で膨大な開発コストを削減–アステラス製薬のDX戦略」についてご紹介します。

関連ワード (経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 アステラス製薬は1月21日、自社のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みについて説明会を開催した。同社はバリューチェーン全体やその基盤となるシステムにおいて変革を進めており、データ駆動型の経営を目指している。

 同社は、「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える」をビジョンに掲げている。ここでの「価値」とは、「患者にとって意味のある結果(アウトカム)」を、「ヘルスケアシステムが負担するコスト」で割ったもの。同社はこうした価値を創造し、患者に届ける役割を担っている。

 アウトカムを増やすことだけが、より多くの価値を提供する方法ではない。アウトカムを2倍にすると価値は2倍になる一方、コストを3分の1にしても価値は3倍になる。説明会に登壇した代表取締役副社長 経営戦略・財務担当(CStO & CFO) 兼 戦略実装担当(CBO)の岡村直樹氏は「われわれ製薬会社は、ともするとアウトカムを増やすことばかりを考えてしまうが、コストを減らすことも念頭に置いて仕事をしなければいけない」と述べた。

 医療用医薬品の研究開発におけるコストは非常に大きい。費用は数百億~1000億円以上、期間は9~17年ほどと言われている。コンサルティングファームの試算によると、DXによって費用は約60%、期間は2~3年削減することが可能だという。従来は開発に至る確率も低く、1万~3万分の1とされているが、DXで45~75%改善できると見られている。

 製薬会社では、「創薬」「開発」「製造」「販売」「ライフサイクルマネジメント」というバリューチェーン全体において、膨大なデータを扱っている。そのため同社のDXではデータに基づく経営を行い、それにより新たな価値の創造、その中での生産性の向上、サイバー攻撃といったリスクへの備えを目指している。

 同社は、医療用医薬品の開発といった既存事業と新規事業の両方でDXを進めている。前者のDXでは、情報システム部がIT活用による既存業務の変革やデジタル基盤の刷新、AIA(アドバンストインフォマティクス&アナリティクス)部門が高度なデータ解析を担っている。

 同社は各バリューチェーンでDXを推進しており、創薬段階では「超大規模バーチャルスクリーニング」を行っている。研究ではまず、病気の原因となる標的分子にうまく適合する化合物を見つけることが必要となる。従来は社内のサーバーを活用して、一度に百万レベルの候補化合物(ライブラリー)を評価し、適合しやすい化合物を見つけてきた。

 一方この取り組みでは、社内サーバーの代わりにAmazon Web Services(AWS)のクラウド基盤と人工知能(AI)を組み合わせることで、一度に数億レベルの化合物を評価することができる。この中には、ライブラリーに登録されている化合物だけでなく、論理的に合成できるものも含まれている。これにより、従来の環境では1~2年かかっていた計算が、最短だと1~2週間で可能になるという。

 創薬での取り組みには、細胞創薬プラットフォーム「Mahol-A-Ba(マホラバ)」もある。人工多能性幹細胞(iPS細胞)の研究には熟練者の手技と観察眼が求められ、研究ができる人材は限られている。そこで、「匠(たくみ)の腕」で細胞培養などの操作を行うヒト型ロボット「まほろ」と、複数の装置を連携して「匠の眼」を持つロボットを導入し、AIがこれらを管理している(図1)。

 その結果、熟練者以上の高い精度・再現性で、従来の100~1000倍規模の実験を行うことができる。また、コロナ禍で担当者が毎日研究所へ行くことが困難になっているが、ロボットを活用することで、研究所へ行けない時でも実験が途切れないというメリットもある。

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