半導体産業は台湾にとって「切り札」にも「アキレス腱」にもなる

今回は「半導体産業は台湾にとって「切り札」にも「アキレス腱」にもなる」についてご紹介します。

関連ワード (存続、深刻、自由貿易協定等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、TechCrunch様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

2021年10月上旬の4日間にわたって、約150機の中国軍用機が台湾の領空を侵犯し、台湾と米国からの批判を招いた。このように台湾海峡で緊張が高まる中、台湾の祭英文総統は米国軍は台湾兵士と台湾国内で軍事演習を行っていると発表した。これに対し中国の外務省は、台湾の独立を支援すれば軍事衝突をもたらすだけだと警告した。10月末、米国国務長官Antony Blinken(アントニー・J・ブリンケン)氏が中国外相Wang Yi(王毅)と会見して、台湾地域での現状変更の動きを控えるよう要請したまさにその日に、さらに8機の中国軍用機(うち6機はJ-16戦闘機)が台湾の領空を侵犯した。

1979年、米国は、中華民国(台湾)が中国本土、つまり中華人民共和国の一部であることを承認した。このときから中台関係の変遷が始まり、現在の状態に至る。中国は長期にわたって台湾併合を望んでおり(中国は台湾をならずもの国家と考えている)、軍事侵攻によって強制併合する可能性を決して除外していないが、米国が台湾を軍事的に防衛するかどうかについて戦略的にあいまいな態度をとってきたため、台湾併合を阻止されてきた形になっている。そして近年、台湾が半導体産業で重要な役割を果たすようになってきたため、状況はさらに複雑化の度を増している。

台北本拠の調査会社TrendForce(トレンドフォース)によると、台湾の半導体受託製造業者は、2020年時点で、世界のファウンドリ市場の63%のシェアを獲得しているという。詳細を見ると、世界最大の受託チップ製造業者Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC)だけで世界のファウンドリ市場の54%のシェアを確保している。さらに最近のデータによると、Fab 14B P7で停電が発生し製造がストップしたにもかかわらず、TSMCは依然として、2021年の第2四半期で世界のファウンドリ市場の約53%を占めている。

台湾のファウンドリ(TSMCを含む)はほとんどのチップを製造しているが、それに加えて、携帯電話から戦闘機まで、すべてのハイテク機器に内蔵されている世界最先端のチップも製造している。実際、TSMCは世界の最先端チップの92%を製造しており、台湾の半導体業界は間違いなく世界で最も重要視されている。

そして、当然、米国と中国の両国も台湾製の半導体に依存している。日経の記事によると、TSMCは、F-35ジェット戦闘機に使用されているコンピューターチップ、Xilinx(ザイリンクス)などの米国兵器サプライヤ向けの高性能チップ、DoD(国防総省)承認の軍用チップなども製造している。米軍が台湾製のチップにどの程度依存しているのかは不明だが、米国政府がTSMCに対して米国軍用チップの製造工場を米国本土に移転するよう圧力をかけていることからも台湾製チップの重要さの程度が窺える。

米国の各種産業も台湾製半導体に依存している。iPhone 12、MacBook Air、MacBook Proといった各種製品で使用されているAppleの5ナノプロセッサチップを提供しているのはTSMC一社のみだと考えられている。iPhone 13やiPad miniなどのAppleの最新ガジェット内蔵のA15 BionicチップもTSMC製だ。TSMCの顧客はもちろんAppleだけではない。Qualcomm(クアルコム)、NVIDIA(エヌビディア)、AMD、Intel(インテル)といった米国の大手企業もTSMCの顧客だ。

中国も外国製チップに依存しており、2020年現在、約3000億ドル(約34兆円)相当を輸入している。当然、台湾は最大の輸入元だ。中国は外国製チップへの依存度を縮小すべく努力を重ねているが、その需要を国内のみで賄えるようになるのはまだまだ先の話だ。中国の最先端半導体メーカーSemiconductor Manufacturing International Corporation(SMIC)の製造プロセスは、TSMCより数世代遅れている。SMICは現在7ナノ製造プロセスのテスト段階に入ったところだが、TSMCはすでに3ナノ製造プロセスまで進んでいる。

このため、中国の企業は台湾製チップに頼らざるを得ない。例えば中国の先進テック企業Huawei(ファーウェイ)は、2020年現在、TSMCの2番目の大手顧客であり、5ナノと7ナノのプロセッサの大半をTSMCに依存していると考えられている。具体的な数字を挙げると、ファーウェイはTSMCの2021年の総収益の12%を占めている。

2022年前半に起こったことを見るだけで、半導体業界がいかに脆弱かが分かる。比較的落ち着いていた時期でも、停電の影響もあって、TSMCは世界シェアを1.6%失い、継続中の半導体不足に拍車をかけることになった。地政学的な要因による半導体生産量の低下ははるかに大きなものになるだろう。

最悪のシナリオはいうまでもなく、台湾海峡での軍事衝突だ。軍事衝突が起これば、半導体チップのサプライチェーンは完全に分断されてしまう。だが、他にも考えられるシナリオはある。台湾はよく分かっているが、中国に大量にチップを輸出することで、台湾の経済成長は促進されるものの、中国の技術発展も支援していることになる。台湾が、例えば米国との自由貿易協定に署名するなどして、中国への輸出依存度を減らすべく具体的な対策を講じるなら、中国への半導体チップの輸出を打ち切ってしまう可能性がある。

これは中国にとっては耐えられないシナリオだ。考えてみて欲しい。TSMCがトランプ政権の厳しい対中禁輸措置に応えてファーウェイからの新規注文を拒絶して以来、ファーウェイは5ナノ製造プロセスを使用したハイエンドのKirin 9000チップセットの製造を停止せざるを得なくなった。こうしてハイエンドチップが不足すると、ファーウェイはまもなく、5G対応のスマートフォンの製造を継続できなくなるだろう、とある社員はいう。

台湾製のチップがまったく入ってこなくなると、中国のテック産業全体の継続的な成長に疑問が生じることになる。そうなると、中国は激怒するだけでなく、国内の安定も脅かされるため、中国政府に台湾武力侵攻の強い動機を与えることになるだろう。

逆に、米国に台湾製チップが入ってこなくなるシナリオも考えられる。「平和的な併合」のシナリオ(武力侵攻なしで台湾が中国に統合されるシナリオ)が実現すれば、台湾のファウンドリは中国政府の支配下に入ることになり、米国にとって戦略的な問題が生じる。中国政府はファウンドリに対してチップの輸出を禁止したり、輸出量を制限するよう要請できる。そうなると、米国は、米軍の最先端の軍事機器のモバイル化に必要なチップが手に入らなくなる。

TSMCが米国企業に対するチップの輸出を停止または制限すると、米国企業は現在のファーウェイのような状況に陥る可能性が高い(中国では「使用できるチップがない」という意味の「无芯可用」という新しいフレーズが登場している)。米国が台湾に侵攻して中国と台湾を再分割する可能性は低いものの、報復として制裁措置を課すなどの対抗手段を検討するかもしれない。そうなれば米中間の緊張がさらに高まることになる。

いうまでもなく、こうしたシナリオが現実化すればグローバルなサプライチェーンは分断され、全世界に深刻な状況を招くことになる。

台湾は間違いなく、半導体業界における支配的な地位と、それが米国と中国に対する影響力を与えている現在の状況を享受しているが、米中両国は現状に大いに不満を抱いており、両国とも自国に有利な状況になるようさまざまな手段を講じている。たとえば米国は、米国内にチップ製造工場を建設するようTSMCに要請している。一方中国は、TSMCから100人以上のベテラン技術者やマネージャーを引き抜いて、最先端のチップ製造を自国で行うという目標に向けて取り組みを強化している。

これは台湾の将来にとって決して好ましいことではない。台湾が海外での半導体生産量を増やすと、台湾に対する国際的な注目は弱まるかもしれない。が、同時に米国が台湾を軍事的に保護する動機も弱まってしまう。サプライチェーンが広域に分散するほど、中国が台湾を軍事力で併合するための主要な障害が軽減されることにもなる。台湾にとってこれは、難しいが、存続に関わる問題だ。

こうした不確実な要因はあるものの、台湾の地位は少なくとも短期的には安泰のようだ。米中両国の競争相手の製造プロセスはまだ数年は遅れている状態であるし、彼らが追いついてきたとしても、工場は稼働するまでに数年の計画と投資が必要になることはよく知られている。現状に何らかの変化がない限り、米中両国とも、少なくとも短期的には、台湾製チップなしでやっていけるとは考えられない。今確実に言えることは、米中両国は、対台湾戦略において、従来にも増して台湾の半導体産業の役割を考慮する必要があるということだ。

編集部注:本稿の執筆者Ciel Qi(シエル・チー)氏は、Rhodium Groupの中国プラクティスのリサーチアシスタントで、ジョージタウン大学のセキュリティ研究プログラム(テクノロジーとセキュリティ専攻)の修士課程に在籍している。また、ハーバード大学神学部で宗教、倫理、政治学の修士号を取得している。

画像クレジット:Evgeny Gromov / Getty Image


【原文】

The TechCrunch Global Affairs Project examines the increasingly intertwined relationship between the tech sector and global politics.

Over four days at the beginning of October, almost 150 Chinese military aircraft flew into Taiwan’s air defense identification zone, provoking criticism from Taiwan and the U.S. Amid such heightened tensions across the Taiwan Strait, Taiwan’s leader, Tsai Ing-wen, confirmed that U.S. forces are training with Taiwanese soldiers on the island; the Chinese foreign ministry countered with a warning that supporting Taiwanese independence would only lead to a “dead end.” At the end of the month, another eight Chinese aircraft, including six J-16 fighter jets, entered Taiwan’s air defense zone on the same day U.S. Secretary of State Antony Blinken met with his Chinese counterpart, Wang Yi, urging China not to change the status quo in the region.

That status quo in cross-strait relations dates back to 1979, when the U.S. switched diplomatic recognition from the Republic of China, based in Taiwan, to the People’s Republic of China that had taken over the mainland. China has long wanted to reunite with the island, which it views as a “rogue province,” but while Beijing has never ruled out the possibility of achieving this goal by force, it has been deterred from doing so by Washington’s strategic ambiguity as to whether it would come to the island’s defense. In recent years, the situation has become even more complex because of Taiwan’s essential role in the semiconductor industry.

Taiwan’s importance to the global semiconductor industry

According to TrendForce, a Taipei-based research firm, Taiwan’s semiconductor contract manufacturers accounted for 63% of total global foundry market share in 2020. A detailed breakdown shows that Taiwan Semiconductor Manufacturing Company (TSMC), the world’s largest contract chipmaker, alone contributed 54% of the global foundry market share. More recent data shows that even with its Fab 14 (P7) experiencing manufacturing disruptions, TSMC still made up almost 53% of global foundry market share for the second quarter of 2021.

In addition to producing the most chips, Taiwan’s foundries (including TSMC) produce the world’s most advanced chips, which can be found in all the highest-tech machinery — everything from cellphones to fighter jets. In fact, TSMC is responsible for an astonishing 92% of the world’s advanced chips production, making Taiwan’s semiconductor industry arguably the world’s most important.

And this means both the U.S. and China are dependent on it. According to a Nikkei report, TSMC produces computer chips used in F-35 fighter jets, high-performance chips for U.S. military suppliers such as Xilinx, and DoD-approved “military grade” chips. While the exact scale at which the U.S. military is dependent on Taiwanese chips is not known, it is significant enough that the U.S. government has pressured TSMC to shift its production of military-use chips to U.S. soil.

American industry, too, depends on Taiwanese semiconductors. It is believed that TSMC is the sole provider for Apple’s 5-nanometer processors, used in various Apple products including the iPhone 12, MacBook Air and MacBook Pro. TSMC also manufactures the A15 Bionic chips found inside Apple’s newest gadgets: the iPhone 13 and iPad mini. Of course, it’s not only Apple; TSMC’s customers also include major American companies, such as Qualcomm, Nvidia, AMD and Intel.

China is also dependent on foreign chips; in 2020, it imported around $300 billion worth. Unsurprisingly, Taiwan was the leading source. Despite a major effort to reduce its dependence on foreign chips, Chinese chip independence is a long way off; its most advanced homegrown semiconductor manufacturer, Semiconductor Manufacturing International Corporation (SMIC), is several generations behind TSMC. As SMIC tests a 7-nanometer chip, its Taiwanese rival has already moved on to the 3-nanometer process.

As a result, Chinese firms have no choice but to go to Taiwan. For example, Huawei, one of China’s leading tech firms, is believed to have been TSMC’s second-largest customer in 2020, relying almost totally on TSMC’s supplies for its 5-nanometer and 7-nanometer processors. For a sense of scale, Huawei accounted for 12% of the foundry’s total revenue last year.

War by other means

One need only look to earlier this year to understand just how vulnerable the semiconductor industry is. A “relatively muted” quarter, caused in part by a power outage, lost TSMC 1.6% of its global market share and contributed to the ongoing semiconductor shortage. Active interference by geopolitical actors in the industry could have much greater consequences.

The worst-case scenario, of course, is a cross-strait military confrontation, which would likely sever the chip supply chain altogether. But this isn’t the only possibility. As Taiwan is well aware, by exporting chips en masse to China, it is bolstering China’s technological development along with growing its own economy. If Taiwan were to take steps to reduce its reliance on China, for example by signing a free trade deal with the U.S., Taiwan might decide to cut off its chip trade with China entirely.

This would be an unaffordable situation for Beijing. Consider this: Since TSMC halted new orders from Huawei in response to the Trump administration’s tighter U.S. export controls, Huawei has had to stop the production of its high-end Kirin 9000 chipset using the 5-nanometer process. Moreover, the shortage of high-end chips will soon make Huawei unable to continue providing 5G-enabled cellphones, according to one company official.

A total loss of chips from Taiwan would call into question the ongoing development of China’s entire tech industry. This would not only infuriate China but pose a threat to its domestic stability, giving the Chinese government more incentive to take the island by force.

If some scenarios cut China off from Taiwanese chips, others would cut off the U.S. In a “peaceful reunification” scenario (where Taiwan is reunited with China without the use of force), Taiwanese foundries would likely find themselves under control of the Chinese government, posing a strategic problem for the U.S. The Chinese government could ask the foundries to stop exporting chips or put restrictions on how many chips they can export — chips the U.S. government needs to mobilize America’s most advanced military equipment.

And if TSMC stopped or limited providing chips to American companies, these companies could well find themselves in a situation similar to that of Huawei now (无芯可用 or “no chips to use,” as the new phrase goes in Chinese). While it is unlikely this would spur the U.S. to invade Taiwan to “de-unify” it, it may seek other means such as imposing sanctions on China to retaliate, further escalating tensions.

Needless to say, any of these scenarios would cause disruptions in global supply chains, leading to serious consequences for the entire world.

Taiwan’s semiconductor industry — shield or Achilles’ heel?

While Taiwan undoubtedly enjoys its current semiconductor dominance and the leverage that gives it over both China and the U.S., neither feel comfortable with the status quo — and both have taken measures to make the situation more favorable to themselves. The U.S. has persuaded TSMC to build chip factories in the country while China has hired more than 100 veteran engineers and managers from TSMC to boost its own pursuit of cutting-edge chip manufacturing.

This leaves an uncomfortable future for Taiwan. If Taiwan produced more of its semiconductors offshore, the island itself might attract less international attention. However, this could also give the U.S. less incentive to support Taiwan’s defense. A more widely distributed supply chain might also lessen a major barrier for China to take the island by force. For Taiwan, these are difficult but existential questions to answer.

Amid all this uncertainty, at least Taiwan’s position seems secure in the short term: Its nearest competitors in both China and the U.S. are still years behind, and even if they did catch up, fabs famously take years of planning and investment to get running. Absent any change in the status quo, it is unlikely either will be able to shift away from the island’s chip supply in the near term. But what is certain now more than ever, is that Chinese and American strategies on Taiwan will have to factor in the role of the island’s semiconductor industry.

(文:Ciel Qi、翻訳:Dragonfly)

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