音声を生かした体験プラットフォームを目指す–日本アバイアの土屋社長
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コンタクトセンターシステムや内線通話システムを手がけるAvayaは、コロナ禍による市場環境の変化を受けて、音声を生かした顧客や従業員の「体験」プラットフォームを目指すという。2021年10月1日付で日本法人の日本アバイア 代表取締役社長に就任した土屋喜嗣氏は、「前年度(2021年10月期)に年間を通じた事業の成長を取り戻し、今年度(2022年10月期)はさらなる成長ペースを維持している」と話す。
同社は、特に大規模コンタクトセンターのシステムや企業の内線通話システムで高いシェアを持つ。源流は米通信大手AT&Tの通信機器の製造部門でスピンアウトしたLucent Technologies(後にAlcatel-Lucent、現在はNokia Solutions and Networks)から2000年に分離、独立した。
土屋氏は、NTTの出身で、アクセンチュアやRSAセキュリティ、ベライゾンジャパン、マイクロフォーカスエンタープライズ、サイバネットシステムで要職を経験。通信からITという自身の経歴に照らしてAvayaを「通信機器の会社としても知られ、お客さまに近い場所で安定したビジネスを手がけるニッチでユニークな立場」と説明する。
特にコンタクトセンターのビジネスは、コロナ禍での感染対策による非接触、非対面での顧客対応ニーズの高まりを受けて、国内外とも成長しているという。同社の顧客は、オペレーターの席数で数百席以上の中~大規模のコンタクトセンターを運営する企業が多いという。コロナ禍以前には、多くのスタッフが出勤して業務を行っていたが、近年の働き方改革に加えて出勤による感染リスクの高まりもあり、在宅勤務を導入する顧客が増えているという。
例えば、Avayaのシステムを導入しているチューリッヒ保険は、Citrixのシステムによる仮想化環境を組み合わせて、同社の顧客からの通話を在宅勤務のオペレーターでも対応可能な仕組みを構築している。
顧客からの着信は、オフィスのゲートウェイ装置を介してクラウド環境の電話交換機(PBX)からオペレーターの電話に接続する。この際に、顧客の電話番号ではなくPBXの番号がオペレーターに通知される。オペレーターから顧客に発信する場合も、オペレーターの自宅の電話番号ではなくチューリッヒ保険のフリーダイヤルの番号で発信する。仮想化環境では在宅勤務するオペレーターの端末にデータが残らずセキュリティを確保しており、オペレーターを取りまとめるスーパーバイザーがチャットで在宅するオペレーターをサポートする。
コンタクトセンターのシステム動向は、コロナ禍の前からウェブフォームやチャットボットなど音声以外の顧客接点を含むマルチチャネルへの対応、また、電話交換機やサーバー、オペレーター席および各種端末、管理者端末などを機材をオンプレミスで設置するのではなくこれら機能をクラウドサービスで提供するなどの新たな変化が起きていた。特にコンタクトセンター機能のクラウドサービスは、コロナ禍でニーズが急速に高まっただけでなく、コンタクトセンターをオンプレミスで構築、運用するのが難しかった中小企業での導入が広がっているとされる。
Avayaは、コンタクトセンターのシステムベンダーとして老舗になる。新しい動きは、Avayaの以前からの競合あるいはこの分野に新規参入したクラウドベンダーが先行しているが、土屋氏は「抽象的だが、『エクスペリエンス・エコノミー』という概念を提唱している。顧客あるいはコンタクトセンターで働く従業員の体験を向上させ、新たな価値を創造する。Avayaとしては、それらをつなぐクラウドやAI(人工知能)などのテクノロジーを活用した『エクスペリエンス・プラットフォーム』の提供を目指している」と話す。
顧客体験(カスタマーエクスペリエンス=CX)や従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス=EX)は、企業が顧客あるいは従業員との良好な関係性を築く上で重要なポイントになる。端的には、顧客なら企業がいかに迅速で満足の行く対応をしてくれたのか、従業員なら勤務先が働きがいのある会社かといったものになるだろう。テクノロジーの進化によって感覚的なものだったCXやEXをデジタルの情報として計測や分析、可視化できるようになり、「エクスペリエンスソリューション」なる特徴を打ち出すITベンダーは少なくない。
土屋氏は、エクスペリエンス・プラットフォームでの特徴に同社の中核技術である音声や通話の高度な品質、制御を挙げる。具体的なケースとして2021年8月に、トランスコスモスがAvayaのアプリケーションとGoogle Cloudの「Contact Center AI」を組み合わせた音声AI(人工知能)対応サービスを発表した。
一般的なAIによる対応は、どうしてもオペレーターが対応しなければならない場合に、顧客がオペレーターに用件を伝え直す必要があるものの、このサービスでは不要になる。問い合わせをした顧客は説明を繰り返す手間がなくなり、オペレーターも事前に顧客の状況を把握してスムーズに対応を始められるメリットがある。今後はAIによるオペレーター支援や、顧客の声から感情をAIで分析する機能の活用なども予定する。
「顧客にとっては問題なく相手につながる、応答が早いといった体験が満足になり、オペレーターにとっても顧客とスムーズにやりとりできるといった体験が働きやすさにつながる。そうしたデータを部門間でも共有、活用することで、顧客の生の声を商品の改善や新規開発といったことにもつなげていける」(土屋氏)
コンタクトセンターにおけるAI活用といった話題は、Avayaの競合で先行しているイメージが強い。土屋氏によれば、Avayaでの取り組みもこれから本格化していくという。コンタクトセンターシステムの老舗ベンダーとして巻き返しを図るだけでなく、同社の顧客が運営する大規模なコンタクトセンターの現場でもAI活用などの新しい動きが本格化していきそうだ。