教育のIT活用は理想へ変えていくためのもの–JMC・坂本社長

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 全国の児童や生徒に1人1台のコンピューターを提供――2019年度に始まった文部科学省の「GIGAスクール構想」は、PCやタブレット端末、学習用アプリケーションやサービスの大量導入といった点からIT業界ではちょっとした特需になった。しかし、その理念や教育におけるITの活用意義などもしっかり伴っているのだろうか。約30年に渡って教育現場の情報化を支援しているJMCで代表取締役社長 CEO(最高経営責任者) COO(最高執行責任者)を務める坂本憲志氏は、教育が目指すべき姿に変わっていくためにITを活用するという点を重視しているという。

 同社は、1980年代から学校で使用する教育用コンピューターシステムの開発などを手がけ、コンピューター教室の設置や運営の支援、学習や学校業務(校務)の管理システムやサービスの開発・提供、ICT(情報通信技術)支援の人材支援などを行う。事業拠点のある神奈川県では、県内33自治体のうち23自治体で教育現場の情報化をサポートしている。

 坂本氏は、日本IBMや日本オラクル、Appleでシステムの新規開拓や大型プロジェクト、営業部門責任者などを歴任。Apple時代は教育プログラム推進本部長のほか、iTunesのビジネスも担当するなど、「法人からコンシューマーまであらゆるIT市場を経験してきた」(同氏)という“IT通”である。一方で、「教育分野は素人」とも話すが、富山大学の非常勤講師をはじめ多くの教育職を経験し、実際は教育現場を知るITの専門家だ。

 「IT業界の感覚ならGIGAスクール構想の『GIGA』は『ギガ(バイト)』と思いがちだが、正しくは『Global and Innovation Gateway for All』。平たく言えば、子供たちが未来や世界を創造する力を養える教育を目指すもの。PCやクラウドなどのITやデジタルを使うことがGIGAスクール構想の目的ではない」

 坂本氏によれば、元々のGIGAスクール構想は中長期的な取り組みになるはずだったが、コロナ禍で急速に推し進めざるを得なくなった。感染拡大の初期に全国で一斉休校の措置がとられ、自宅でオンライン授業を受けられるかどうかといったことが話題になったのは、まだ記憶に新しいだろう。国も自治体も教育の現場も一気に端末や学習アプリケーションなどの導入を進めた結果、2020年度末までにおおよそIT環境が行き渡ったという。

 しかし、その弊害は非常に大きいと坂本氏は指摘する。細かい問題点を挙げれば切りがないが、「当社では経験から『Google Classroom』や『Chromebook』の組み合わせを提案しているが、例えば設定が難しい。うまく設定しなければ、学校中のクラスページが表示され、先生がすぐ自分の担当するクラスページを見つけられず、探すだけで一苦労してしまう」(同氏)という。

 GIGAスクール構想2年目の2021年度は、導入が行き渡ってから初めて本格運用する1年だった。2022年度は、本格運用後して初めての更新に当たる。坂本氏は、「2021年度に表面化した課題や問題に対処していかなければ、これから年度を重ねるごとに問題や課題の解決がどんどん難しくなっていってしまう」と危機感を募らす。

 坂本氏は、JMCのミッションとして「あたりまえを超え、みらいを創る」を掲げている。本来、子供は興味のあることを自ら学び、理解しようするものであり、その獲得が満足になるという。教育としては、教科書の内容などを指導して理解してもらう(Teaching)観点と、学びの行動や発想、経験を支えていく(Coaching)観点があり、従来のTeaching中心からCoachingに広げていくというのが、GIGAスクール構想に代表される国の取り組みになるといい、坂本氏は教育を、「子供が学びを通じて創造力を身に付けていけるものに変えていきたい」と話す。

 坂本氏だけでなく、教育現場を預かる多くの教職員あるいは教育委員会などが、こうした教育の理念を実現させたいと考えている。しかし、膨大な業務と対応に追われて子供たち一人ひとりに時間をかけて向き合うことが非常に困難な状態であるのが現実だ。坂本氏は、教職員が抱える負担を少しでも軽減することが教育においてITが果たす役割の1つと話す。ただし、単に教職員の業務効率化が目的になってはいけない。教職員が子供と向き合い学びを支えていける時間を少しでも多く捻出できるようにすることが重要になってくるとする。

 また、子供たちが創造力を養っていける環境づくりの観点でもITが果たす役割は大きい。各自治体の教育委員会や学校と連携して、子供たちが自ら学びたくなる「新たな部屋」を設置し、実際の授業を通じて子供たちが自ら学びに取り組めるための研究を進めている。2022年は、2月までに神奈川県座間市の小学校や相模原市の中学校で順次開始したばかりだ。

 坂本氏によれば、こうした場で子供たちは、興味を持ったことについてPCやタブレット端末、インターネットでどんどん調べて知識を得ていく。そして、獲得した知識をツールやアプリなどを使って整理し、大型ディスプレイなどを利用して、理解したことを発表する。

 その途上で大人は、子供たちにいろいろな調べる方法、また、物事をさまざまの視点で捉えるといったことを教えていくことが大切だという。物事を比較したり多角的に捉えたりするように導くことで、子供は自分自身が理解したことを客観的に考察するようになり、学びの幅が広がっていく。そして、発表(プレゼンテーション)によって学び理解したことを形にして相手に伝える力が養われる。それに対する反響、評価は本人の満足につながり、さらなる学びの動機になるという。

 坂本氏は、このような理想の形に教育を変えていく目的においてデジタル、ITを活用していくべきであり、目的を実現していくための手段としてITやデジタルにこだわらないとも述べる。「教育のデジタルトランスフォーメーション(DX)として表現すれば、デジタル(D)はあくまでも手段。変えるという目的が重要で、『教育X』といった方が正しいだろう」と、DXで「デジタル(D)」に注目が行きがちな風潮に警鐘を鳴らす。

 GIGAスクール構想も同じで、その理念や目的を実現するためにITを利用すべきであり、当然ながら、PCやタブレット端末、学習アプリなどを使えるようにすることが目的ではないわけだ。坂本氏は、コロナ禍による教育現場への全国一斉のIT導入から1年間の運用経験を経て新年度の開始を控えた今こそ、教育やITに携わる関係者が一丸となってGIGAスクール構想本来の目的を実現していくための行動していくべきタイミングだと提起する。

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