宇宙のサイバーセキュリティ–衛星に対する攻撃や脆弱性悪用の懸念

今回は「宇宙のサイバーセキュリティ–衛星に対する攻撃や脆弱性悪用の懸念」についてご紹介します。

関連ワード (宇宙開発競争がもたらすイノベーション、経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 「宇宙時代が私に何かしてくれたことはあったか」。そう問う人もいるかもしれない。だが、電気通信、GPS、そして世界中の膨大な数の人々がアクセス可能なインターネット接続の提供など、衛星とそれが提供する宇宙ベースのサービスは、現代社会が機能するうえで不可欠なものだ。

 しかし、軌道に乗っているからといって、衛星に攻撃が届かないわけではない。セキュリティは継続的な懸念事項であり、今後はさらに深刻な問題になる可能性が高い。

 よくある問題の1つは、衛星自体ではなくサービスを標的とする攻撃だ。2022年には、ジャミングやGPSスプーフィングなどのサイバー攻撃が、ウクライナのインターネットサービスである「ViaSat」と「Starlink」に対して仕掛けられた。これらの攻撃は、ロシアによるウクライナ侵攻と時期が重なる。西側の諜報機関は、ロシアがこれらの攻撃を実行したと考えている。ロシアは長年にわたりこうした手法を使用しているとして非難を浴びてきた。

 「これは現代の戦争の一部であり、新しいものではない。ウクライナでのGPSスプーフィングは、2014年から確認されている」。こう語るJuliana Suess氏は、安全保障分野のシンクタンクである英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)で、軍事科学チームの一員として宇宙安全保障の研究アナリスト兼ポリシーリーダーを務めている。「ジャミングとスプーフィングは、衛星と地上局の間のリンクを直接狙う」

 Starlinkの接続をジャミングすれば、情報の流れが遮断され、紛争において非常に重大な影響が及ぶ能性がある。

 「誰がインターネットブロードバンドサービスを攻撃しようと思うだろうか。Starlinkは、ウクライナ軍が利用するツールとなった瞬間に、標的となる」(Suess氏)

 衛星攻撃兵器(ASAT)と聞くと、映画「007」シリーズに出てきそうな兵器だと思うかもしれないが、範囲が限定されているとしても、これは実在する兵器だ。オックスフォード大学の衛星のサイバーセキュリティに関する研究論文が指摘しているように、「宇宙は難しい」。軌道宇宙能力を有する国は9カ国しかない(欧州連合を含めると10カ国)。

 それでも、「打ち上げプログラムだけで、有意義なASAT能力を運用するために必要なリソースと精度を確実に得られるわけではない」。だが、ASAT能力を有する国がこれらの技術を使用して自国の力を誇示することが増えており、実際の衛星を破壊するライブテストを実施することもある。

 中国は2007年に初めて自国の衛星の1つを破壊している。弾道ミサイルに運動エネルギー兵器を搭載し、老朽化した気象衛星「風雲1号C」を標的とした。これを受けて、他の国々は安全保障の面でも、軌道上の他の衛星に損傷を与えかねない宇宙ゴミの面でも、懸念を表明した。

 最近では、ロシアも2021年11月に衛星攻撃兵器を使用し、機能しなくなった自国の衛星の1つを破壊したとして非難されている。このテストでは、弾道弾迎撃ミサイルがASAT兵器として使用され、低軌道衛星を破壊した。これによって大量の宇宙ゴミが発生し、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士が万一に備えて避難を余儀なくされたほどだ。

 米国はこのテストを「危険かつ無責任」と非難し、宇宙ゴミが軌道上にとどまる期間は数年単位、あるいは数十年単位になると警告した。

 他国の衛星にミサイルを発射した軍はまだないが、米国を含む複数の国がその可能性を実証したことは、今後の紛争でそうした衛星攻撃の危険性を無視できなくなったことを意味する。

 ミサイルによる衛星の爆破は、有効な戦略であることは間違いないものの、非常に露骨なアプローチだ。しかし、攻撃者は電子戦とサイバー攻撃の使用によって、それと同じくらい相手を弱体化させることのできる手段を得られるかもしれない。

 オックスフォード大学の研究論文には、「宇宙システムの相互接続と計算の複雑化が進む中で、サイバー攻撃の脅威に対する新たな懸念が生じた」と書かれている。この論文はさらに、「長年続いてきた軌道上の平和の構造的な脅威となる」可能性があるとしている。

 米国防総省によると、そのような脅威の1つが中華人民共和国だという。同省は中国の軍事力に関する詳細な研究論文において、宇宙が検討事項となっており、「電子戦」がそのアプローチの一部で、中国政府は「危機や紛争の際に敵国による宇宙へのアクセスや宇宙での活動に対抗する、または拒否することができる」技術の開発を目指していると指摘した。ただし、この技術が具体的にどのようなものになるのかは説明されていない。

 衛星に対するサイバー攻撃が成功した場合、重大な影響が生じる可能性がある。たとえば、衛星との通信が遮断されると、地上にいる膨大な数の人々が重要な通信とサービスを利用できなくなるかもしれない。衛星への妨害工作や恒久的な損傷を目的とするサイバー攻撃によって、衛星の軌道が変わってしまう可能性もある。

 「どこか映画『スター・ウォーズ』のような話だが、衛星を乗っ取ったとしたら、思いどおりに操ることができるだろう。もちろん、実行できることはその衛星が持つ能力によって決まる」とRUSIのSuess氏は述べた。

 「それは、通信リンクの完全な遮断など、比較的単純なことかもしれない。あるいは、限られた燃料供給を使い果たして、衛星を宇宙ゴミにすることも考えられる。衛星を軌道から逸脱させて、他の衛星と衝突させることも可能だろう。正しい角度をつければ、ソーラーパネルを破壊することもできるかもしれない。選択肢は無限にある」

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