日米の中堅中小企業でデジタル投資額に大きな差–ひとり情シス協会が「デジタルエンゲル係数」を算出
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スプラッシュトップとひとり情シス協会は3月16日、「日米デジタルエンゲル係数比較調査」の結果を発表した。これによると、日米の中堅中小企業の「デジタルエンゲル係数」の平均は、米国が12.7%に対し、日本は4.3%という結果だった。年間の従業員1人当たりのデジタル投資額は、米国が52万1360円に対し、日本は9万3710円と日米での大きな格差が明らかとなった。
調査期間は2022年10月3日~2023年2月17日、従業員数20~200人の中堅中小製造業を対象に、米国153社、日本453社から回答を得た。加えて、シンガポール(34社)とタイ(28社)の企業も比較のために調査した。ひとり情シス協会の清水博氏によると、スプラッシュトップとの共同調査は今回で2回目となり、2022年にはリモートワークの実態調査を実施した。
なお、デジタルエンゲル係数とは、消費支出に占める食費の割合「エンゲル係数」に例えて、企業の販売管理費に占める企業のIT運用コストをひとり情シス協会が独自に表現したものになる。
今回の比較調査を実施した背景について、清水氏は「日米の中堅中小企業でデジタルやITの活用にどの程度の差があるのか、自社のIT投資が適正なのか、日本の中堅中小企業でセキュリティ事故が多発している原因は何か、日米で情報システム業務にどのような違いがあるのか、といった疑問の声が寄せられていた」と話す。
同氏によると、日本では売上高の1%前後が大手企業の一般的なIT投資額と考えられていて、中堅中小企業は2~3%と言われている。一方の米国では長い間、販売管理費の5%がIT運用の平均金額と言われており、中小企業は7%、大企業は3.5%と規模が小さいほど費用が大きくなる傾向にあるという。また、日本の中堅中小企業は業績の良い時期にIT投資をする傾向があるが、昨今のサブスクリプション型支出やサポート費用の捻出が難しくなっているとのこと。
セキュリティ対策費用は、米国が1人当たり2万4700円に対し、日本は2650円と9.3倍の差があった。日本で中堅中小企業を取り巻くサイバーセキュリティ事故が増加傾向であるにもかかわらず、リスク対策に不十分であることが判明。セキュリティ対策費用が不足している場合は、徹底した社内ルールを厳守するなどの対策が必要だと指摘した。
情報システムに対する年間の人件費は米国が1690万円に対し、日本は174万円と9.7倍の差。外部サポート費用は米国が1950万円に対し、日本は88万8000円と22.0倍の差だった。社内外の人件費に投資されず、デジタルを活用するには不十分であることが予測される。また、SaaSへの投資は米国が2730万円に対し、日本は16 万円で17.1倍の差があった。
日米の格差から見えることとして、清水氏は「(日本企業の)デジタルエンゲル係数が4.3%では、グローバル共通で価格上昇が続く IT機器やサブスクリプションなどの購入が難しくなる。セキュリティ対策費用についても、セキュリティ事故が増加傾向である日本の中堅中小企業はグローバル基準の要件を満たせず、無防備に近い状態にあるのではないか。人件費も174万円なので1人分にも満たない状態だ」と指摘する。
「コロナ禍以降、リモートワーク構築やバックアップ環境など中小企業で専任のIT人材の採用が進んでいるが、ひとり情シス企業の平均値から算出する最低限のひとり情シス体制の環境には、デジタルエンゲル係数で11.5%(1人当たり25万1000円) 以上、米国並みにフルセットの体制を整えるには20.3%(同44万5000円) 相当の費用が必要だ」(同氏)
その上で、清水氏は日米の労働生産性に目を向ける。2022年末に発表された経済協力開発機構(OECD)の時間当たり労働生産性は、日本が49.9ドル、米国が85ドルで日本は41.3%低かった。日本の中堅中小製造業はそこまで低くはないが、それでも23.6%の差があり、新規顧客や付加価値を伴い取引先への売り上げ増を中期経営計画で実現していく必要があるという。
また、日本企業は米国企業よりも粗利率が30.2%低く、今まで以上にメリハリのある投資やスト削減などを考慮し、攻めのデジタル投資を活用し、貪欲に利益率の向上を計画する必要があるとした。
一方で、同氏は「販売管理費の約2割をデジタル投資に充当することは不可能」だといい、デジタル投資を米国並みにするには、例えば、1人当たりの売り上げを20%増の1650万円(現在は1375万5000円)にし、粗利率を20%増の19.1%(現在は15.9%)に向上させると、デジタルエンゲル係数を20.3%から13.7%に抑えられると指摘する。
清水氏は最後に、中堅中小企業の経営層にお願いしたいこととして、(1)IT関連投資の棚卸しをして販管費に占める割合、今後の方向性を確認、(2)IT人材への処遇、(3)セキュリティへの意識、(4)IT関連製品の価格上昇のリスクを考慮――の4点を挙げた。