現代の複雑な労働環境に学生を送り出す教育機関にできること

今回は「現代の複雑な労働環境に学生を送り出す教育機関にできること」についてご紹介します。

関連ワード (CIO/経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 生成型の人工知能(AI)がもたらすインパクトについての最新の調査によると、AIは平均的な1日の作業の40%を自動化する可能性があるという。またAIは、リーダーとそのチームが戦略的かつ即座に下す必要のあるデータに基づいた意思決定を支援する上で重要な役割を果たすことができる。生成型AIはわれわれの働き方に革命的変化をもたらすようになるだろう。

 AIは21世紀の電気と言ってもよい存在だ。それに背を向ければ、企業は取り残されてしまうだろう。自動化は既に多くの企業で実践されており、従業員らは手作業の平均20%が過去2年間で自動化されたと報告している。自動化のレベルは地域や職責、業界によってさまざまだが、ほぼ全ての従業員が過去2年間で何らかの自動化を経験している。そして多くの場合、ローコード/ノーコードプラットフォームによって業務プロセスが自動化されてきている。

 今日の企業とそのリーダーらが、かつてないほどの複雑さを有する激動に直面しているのは、もはや確かなことだ。そして、こういった状況が改善されたり、穏やかになるような兆しは今しばらく現れないだろう。つまり、安定に向けた願いを捨て、現状に立ち向かう新たなマインドセットの下、根本的な見直しを実行する機が熟していると言える。ここで重要な疑問が湧き出てくる。教育者は、学生たちが将来の仕事に向けて備えるために何ができるだろうか。

 調査によると、学生たちは将来の仕事に備えておきたいと望んでいるという。就学先の選択にあたり、キャリアの将来性を考慮すると答えた学生は半数近く(47%)いる一方、仕事に向け十分に備えていると答えたのはわずか11%だった。また、仕事への備えが十分だと感じている学生は、満足のいく大学生活を送っている割合が4倍高い。さらに、卒業後はより高度な教育機関で学び続ける予定だとしている学生が半数近く(49%)いるという。

 企業の労働環境が目まぐるしく変化し、適切なスキルを有する優秀な人材の採用と維持に対する期待が高まる中、教育者はどのようにすれば激動の将来に向けて卒業生を送り出す準備を整えられるだろうか。変革に向けたニーズを考えた場合、現代の職場ではどのような状況が生み出されるだろうか。おそらく、バーチャルな人間関係、特に従業員と上司の人間関係にまつわる課題が頭をよぎるのではないだろうか。もしくはAI関連のスキルアップを考え始めているかもしれない。

 読者の中には、多様な人材で構成されたチームをマネジメントしており、オープンで、公平で、安全なハイブリッド型の職場を提供するために取り組んでいる人もいるだろう。これらはどれも、特に学生や、最近学校を卒業して職場に入ったばかりの人にとっては重要なことだ。大学ランキングの起業家教育部門で長年首位の座にあるバブソン大学の大学院で、複数週にわたって実施されたワークショップ「Managing Your Career and Future of Work」でも、これらのトピックが取り上げられた。

 同大学の非常勤講師であり、キャリア開発の専門家であるLily Awad氏は、同大学でリーダーシップコーチやキャリアコーチを務めているLisa Mesicek氏と一緒に教えている、現代の職場環境に備えるための3つのステップについて説明してくれた。その3つとは、自己認識を深めること、先見性を養うこと、コミュニティを築くことだ。Awad氏は、これらのスキルについての理解を深めるために、次世代の働き手のキャリア教育に携わっている人が知っておくべき知識について語った。

 2023年の始まりは、実際の職場を想定したシナリオに焦点を当てた、対面式ワークショップを開催するのに相応しいタイミングだっただろう。Awad氏とMesicek氏は、実際の職場を取り巻く状況がこの数年で大きく変化していることを受けて、近い将来に管理職やスタッフとして働くことになる学生たちが直面するであろう、いくつかの複雑な課題に光を当てたいと考えた。両氏は、4週間のワークショップのカリキュラムを作成するにあたって、学生に身に付けて欲しい内容として次のことを意識したという。

 このワークショップでは、週1回90分間のセッションを4週間にわたって対面で実施した。学生には毎週、解決すべき職場の課題が新たに与えられた。例えば1週目には、近接性バイアスの問題を取り扱った。これは、上司と対面で話す時間が少ないリモートワーカーが、どのように上司からの評価に影響を与えるかという問題だ。また、管理職として、多様な人材で構成された従業員とどのように付き合い、どのように公平でインクルーシブなアプローチを取るかという問題にも取り組んだ。学生が近い将来、ハイブリッドワークやリモートワークの労働環境で働くことになり、学生の一部は管理職になることを考えれば、これらはいずれも重要な課題だと言える。

 Awad氏は、これらのシナリオは人種や民族、性別などの観点から見た多様性や包摂性を課題として取り入れるようにデザインされていると述べている。ただしこれらのシナリオでは、ニューロダイバーシティ人材や、身体に障害がある人、外見からは分からない障害がある人の問題を取り込むことはできておらず、これらについては今後のコース設計で検討していくという。

 ワークショップの前後には参加者に対する調査が行われた。最初の時点では、多くの学生が「仕事の将来像」に対する自分の理解を「あまり十分ではない」あるいは「十分だ」と評価していたが、学生たちが今の労働環境の状況について気付きを得たことは明らかだ。

 初回セッションの冒頭では、未来の仕事像を説明するよう求める質問への答えに、「柔軟性」「AI」「テクノロジー」「人間中心」「挑戦」「価値中心」「スキルアップ」「俊敏性」「環境的に持続可能」「多様性」「収益性」などの言葉が並んでいた。しかし、ワークショップ後の調査では、未来の仕事像に関する理解を問う質問への回答が「あまり十分ではない」から「十分だ」の間から、「十分だ」から「極めて高い」の間に上昇した。

 学生たちは、さまざまなシナリオに興味深い解決策を提示した。例えば「印象管理」や「近接性バイアス」の問題については、対面での社交イベントを行うことを模索し、対面で会うことを通じた解決策を提示した学生が多かった。この世代の働き手が、ハイブリッドな働き方の柔軟性を高く評価する一方で、対面での人間のつながりにも意義を感じていることは明らかだ。特に、対面で行うよう求められる事柄が、社交や、人間関係の構築、エンターテインメントを重視するものである場合はその傾向が強い。

 職場は激しく変化している。未来の学生たちがどんな話題に関心を持つかは興味深い課題になるだろう。しかしここでは、学生に現代の職場環境に備えさせるための実践的なコースを提供しようとしている教育者向けに、いくつかヒントを紹介する。

 Lily Awad氏は、このワークショップで得たことについて、次のように述べている。

 わずか4週間の、1回あたり1時間半のセッションでは、扱いたかったトピックをすべて網羅することはできなかった。ほかの教員には、所属するキャンパスのキャリア開発チームと密に連携を取り、この教育の内容を授業に取り込んでいくことを勧める。また、教員に就職につながるスキルやハイブリッドな働き方に関連するトレンドについて認識・理解してもらい、それを指導に活かしてもらうための手段として、企業と高等教育機関が協力することが重要であることが分かった。

 現代の職場の状況に関するトピックを取り上げたことは好評だったようだ。学生は、このワークショップは「目からウロコが落ちるものだった」と述べており、「議論や提案されたツールのおかげでさまざまなコンセプトについて理解を深めることができ、それらをキャリアアップにどう活かすかについても理解できた」「チームで行う課題や、さまざまな観点を学ぶ機会を持てたことが非常に良かった」「最新のトレンドや、自分がつかむことのできるチャンスについて多くのことを学べた。それらの多くは、今まで考えたことがなかったことだった」といった感想をくれた。

 これは全体として見れば楽しい経験だったし、今後は、キャンパスパートナーと協力して、現代の職場に関する内容を多様化させていきたいと思っている。

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