バイタルデータから教員の働き方改革をサポート–NTTPCとみずほ、埼玉県幸手市で実証

今回は「バイタルデータから教員の働き方改革をサポート–NTTPCとみずほ、埼玉県幸手市で実証」についてご紹介します。

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 NTTPCコミュニケーションズ(NTTPC)とみずほリサーチ&テクノロジーズは、埼玉県幸手市教育委員会と連携し、教員の働きがい向上に向けてバイタルデータを活用した実証実験を行っている。両社の担当者に、データの収集・分析や働き方改善の施策について話を聞いた。

 同実証では、幸手市内の小学校6校の教員100~150人程度を対象に、貸与したウェアラブルデバイスからバイタルデータを収集し、働きがいとの関連性を分析する。実証期間は2024年12月~2025年3月末を予定しており、バイタルデータによる働きがい(エンゲージメント)測定の有効性の検証とデータ分析に基づく支援策を検討するとしている。

 NTTPCはもともと企業向けに「健康経営支援サービス」を提供しており、従業員自身のセルフケアと企業の働く環境の改善をサポートしてきた。同サービスは、リストバンド型/リング型デバイスから従業員の業務中のバイタルを計測し、スマートフォンで自身の自律神経バランスや疲れの蓄積状況などの分析結果を見ることができる。

 今回の実証実験では、教員を対象に同サービスを活用する。みずほリサーチ&テクノロジーズ デジタルコンサルティング部 マネージャーの伊澤俊氏は、教育領域のDX推進で中心になるのは児童・生徒だとしつつ、「子どもたちを支える教員がキーワードとして挙がりながらも、なかなかタッチしきれていないと感じている」と話す。

 教員の働きがいの低下や離職が課題として挙がる中、労働時間の削減や校務DXなどが進んでいる。一方で教員は、高い専門性が求められる職種であり、持続可能な学校経営を構築するには、単に労働時間を短くするだけでなく、教員の“働きがい”に着目したアプローチが必要になるという。みずほリサーチ&テクノロジーズでは自治体・教育現場における教育データ利活用推進を中心とした、教育DXに関わる調査・コンサルティングに複数年携わっていることから、そこでの知見を活用することを構想していた。同氏は、教員にとって真の働き方改革を推進するに当たり、「教員の働き方の指標やデータが少ないのではないかと感じ、2024年の夏ごろにNTTPCに協業の相談を持ちかけた」と実証の背景を語る。

 また、NTTPC側も同社が提供するサービスはバイタルデータから現場の状態を可視化することに特化しており、セルフケアを促す通知機能がありつつも、組織に対する施策の提案までできていなかったという。同社 サービスクリエーション本部 第二サービスクリエーション部 サービスクリエーション担当の近藤直人氏は、「みずほリサーチ&テクノロジーズの強みであるコンサルティングと掛け合わせて、現場を可視化するだけでなく、そこに対して具体的な施策や効果を実感してもらえるところを幸手市にもご評価いただき、今回の実証実験につながった」と説明する。

 実証の企画・管理および教育現場へのコンサルティングはみずほリサーチ&テクノロジーズが行い、ウェアラブルデバイスやシステムの提供、機材トラブルのサポートなどはNTTPCが行う。

 ウェアラブルデバイスで収集する脈拍などのバイタルデータを基に分析したものは、「個人標準偏差(いつもの状態)」を基準に、「ワークエンゲージメント(集中状態)」「ストレスフル(疲労・不安)」「バーンアウト(燃え尽き)」「リラックス(安定・寛容)」に分類する。利用者本人はアプリを通じて、自身の状態や変化を確認できる。

 一方、収集したデータは個人が特定されない学校ごとのデータとして、学校の管理者およびNTTPCやみずほリサーチ&テクノロジーズ側からも見ることができる。伊澤氏は「このサービスは、(教員を)管理するためのものではない」と強調し、「学校ごとのデータでは個人が特定されないため、不明瞭な部分も残ってしまうが、あえて余地を残したデータでどこまでできるかを挑戦している。そのため、管理する目的ではないということをユーザーには伝えたい」と話す。

 また、同氏は「働き方はチームで考えていかなければ改革にはつながらない」と指摘。管理者や両社から見られる学校全体のデータは、「パフォーマンススコア」として学校全体のモチベーションやメンタル不調などが可視化される。パフォーマンススコアは、一般的に業務や物事に集中できる状態がパフォーマンスが高いとされ、パフォーマンス状態を100点満点でスコア化できる。

 このデータを基に、みずほリサーチ&テクノロジーズが課題を抱えている学校に対して改善施策を提案し、実施する。パフォーマンススコアは「良い」「中程度」「悪い」で分けられ、この推移が激しい学校が課題を抱えていると想定し、改善策の実施を考えている。

 既にある程度のデータが収集・分析されており、各学校の違いが明らかになりつつあるという。残業時間だけを見ると問題がないような学校でも、バイタルデータを見ると改善の余地があることが分かった。従来の指標だけではアプローチができなかった学校に対して今回の実証をきっかけにアプローチできるのではないかとしている。

 バイタルデータとは別に教員に対してアンケートを実施しており、調査結果とパフォーマンススコアがある程度対応していることも見えてきている。具体的な改善施策の提案としては、バイタルデータとアンケート調査の結果を照らし合わせるとともに、幸手市教育委員会の意見を取り入れながら進める。特にアンケート結果から、「同僚などとチームとして取り組んでいける機運を醸成したい」という声が多く寄せられたことから、一つの施策として学校管理職に対する外部有識者の講演を予定している。チームとしての学校経営の在り方や同僚間でのサポートがしやすい環境づくりなど、管理職が抱えている課題を基に他自治体の事例や有識者の知見を提供するという。

 この実証を行うに当たり、「学校現場の負担にならないようにいかに手軽にやっていくかを大事にしていた」と伊澤氏は言う。そのため、バイタルデータという手軽にとれる範囲のデータを活用し、これまで教育委員会や管理職の目が届きづらい教員一人一人の兆しを見ることができるようにした。「もちろん、バイタルデータの有用性はあるものの、それだけでは分からないこともあるのだという感覚は持っていなければならない」と語る。

 幸手市教育委員会からは、勤怠データだけでは分からない部分に対してバイタルデータがどこまで有用なのか、またデータを踏まえた支援策の有効性について期待されているという。

 今後の展開について、近藤氏は「健康経営支援サービスは可視化が強みで、打ち手の部分は打ち手の部分はパートナー商材を組み合わせることで完成するビジネスモデルとなっている。みずほリサーチ&テクノロジーズによるコンサルティングならではの人のぬくもりがあってこそ、コミュニケーションの改善や現場での実践ができると思う。可視化だけでなく結果まで出して、横展開できたらと思っている」と明かす。

 伊澤氏は、「このプロジェクトはいろいろな展開の仕方があると思っている。例えば、幸手市教育委員会に限らず、ご関心ある自治体と継続して協力しながら、バイタルデータの有用性を検証するとともに、バイタルデータを通じ得られた気づきも一助に教育現場へのより良い打ち手を検討することが重要と考える。また、教員に関するケアをより重要にしていくフェーズに入った時に、インプットとなる情報や教員に関するデータが不足しているという課題がある。この課題を解消することで、働き方だけでなく、個別最適・協働的な学びの実現において、教員のよりよい指導にもつながると考えている」と述べた。

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