ベネッセ、多様な学びをICTで支援–子どもの特性を把握し学習意欲を向上
今回は「ベネッセ、多様な学びをICTで支援–子どもの特性を把握し学習意欲を向上」についてご紹介します。
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ベネッセコーポレーション(ベネッセ)は3月25日、「多様な学びニーズへの取り組み」と題した説明会を開催した。同社は多様化する学びの支援として、発達特性に合うICT学習を支援する「まるぐランド」と、学ぶ場の多様性を踏まえた通信制サポート校「ベネッセ高等学院」を展開する。
コロナ禍以降、不登校や不登校傾向の児童・生徒が増加している。また、発達障害を抱える子どもや家にある本が少ない、家で日本語をあまり話さない子どもなど、教室内の多様性も増加しており、特別支援教育や日本語教育など、教育的支援を必要とする児童・生徒が顕在化しているという。
東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所が小学校1年生~高校3年生を対象に行った調査によると、コロナ禍以降、「勉強への意欲がわかない」という小・中学生の増加が顕著であるほか、「勉強が好き」という小学生は大きく低下していることが明らかになった。また、「学校に行きたくない」という児童・生徒はコロナ禍で一度減少したが、再び増加しており、高校生は約半数が学校に行きたくないとしている。
ベネッセ教育イノベーションセンター長の小村俊平氏は、2020年に施行された現在の学習指導要領で掲げられている「主体的で対話的で深い学び」について、「この主体性を支える興味・関心あるいは意欲が弱まっているのではないかという懸念を感じている」と指摘する。
2030年度の学習指導要領改訂に向けた検討では、この課題を踏まえて、一人一人が学びやすいように、学ぶ時間や進度、学年、場所などを柔軟にしていく施策が議論されている。一方、教育的支援の必要性が高まる中で、教員の働き方改革は道半ばで教員志望者は減少の一途をたどっている。ベネッセは、このような学校現場や家庭のニーズを踏まえ、まるぐランドの提供やベネッセ高等学院の開校など、多様な学びの支援に取り組むとしている。
「まるぐランド for school」は、ウェブアプリケーションとして提供するICT学習教材で、現在は小学校1~6年生の国語「読み」「書き」「読み取り」が対象範囲になっている。「認知特性チェックテスト」と「読み書きチェックテスト」が搭載されており、チェックテストの結果を基に個々の特性に合った学習コンテンツを自動で提案する。
チェックテストでは、「読み書きの困りの背景」と「認知特性」を把握することができ、読み書きでは「言葉の意味」「音の区別」「小さい文字やのばす音」などが得意か不得意か、認知面では「注意・集中力」「ねばり強さ」「目で見て覚える力」などのスキルがあるかどうかをレーダーチャートで把握できる。
まるぐランド for schoolは、教員向けにクラス全体や児童個別の結果を提示し、指導をサポートする機能を搭載している。個別結果では、児童に対する声がけについてのアドバイスもあるという。
山形県寒河江市では、同市の小学校でまるぐランド for schoolを活用し、読解力の育成を行っている。寒河江市教育委員会 学校教育課 児童推進室 指導主査(兼)指導主事の布川真二氏は、「本市では全国学力調査において、小・中学校ともに国語の『読むこと』の正答率に課題を抱えていた。問題別に見ても、選択式の正答率が低い状況にあった。このことから、問題を解く以前の課題として、選択肢も含め問題文の文章をよく理解できていないのではないかと分析した」と、まるぐランドの導入背景を説明する。
2022年度に課題研究部会を立ち上げ、「読解力」の育成を開始。同時に、4校の小学校2年生を対象に同サービスのモニターを実施し、効果検証の結果、本格的な導入に至った。
布川氏はまるぐランドを採用した理由について、「まるぐランドの狙いが、本市の課題に合致していた。学級を構成する児童が多様化している中で、担任が問題のない児童だと感じている児童も含め、その子の特性を的確に把握し、全ての段階の児童の力を最大限に伸ばしたいと考えていた」と話す。
また、モニター実施において、各学校で差はありつつも読み書きに困難を抱える児童が減少したという。教員からは「児童が意欲的に取り組む姿がある」「本格導入をぜひ検討して欲しい」といった声も寄せられた。同氏は「本市が目指したいのは自立した学習者の育成であること、そして子どもが自ら学び取る教育を展開していきたい」とし、今求められる教育を進める上で読解力は基礎的な力として必須であり、まるぐランドはその土台となる力を育むものだと主張する。
2024年度は、小学校2~4年生の全員と小学校5~6年生の特別支援学級希望者を対象に、週3回程度、1日15分間まるぐランドを活用した読解力の育成に取り組んだ。対象の学年については、1年生では平仮名の読み書きの学習が始まったばかりであることを考慮し、読解力の基礎を育むため2年生からの導入になったという。
個別最適化された教材の提供により、集中して取り組む児童の姿が見られるようになったり、教員の教材準備の負担も減ったりと現場では良い変化が起きているという。また、チェックテストの結果が可視化されることで、学力が高い児童でも配慮が必要であることが分かり、新しい気付きを得ることができたという教員もいる。ほかにも、支援が必要な児童でも楽しそうに取り組むことができており、学習意欲の向上にもつながるのではないか、という期待も寄せられている。
着実に成果を出しており、チェックテストの結果からも読解力につながるスキルで困難を抱える児童の割合を大幅に減少した。一方、伸び幅が大きい学校とそうでない学校の差が課題として浮かび挙がってきた。同氏は今後の展望として、「今まで見過ごされてきていた困り感を持つ児童に対して個別の支援を可能にし、全ての児童の読み書きスキル向上や学習意欲の向上、自己肯定感の向上に図りたい」と語る。そのために、これまで取り組んで生きた読解力の育成を継続し、結果が伸びている学校の取り組みを市内で共有するという。
次に、学ぶ場の多様性を支援するベネッセ高等学院について、学院長の上木原孝伸氏が説明した。2025年4月に開校するベネッセ高等学院は、「くまもと清陵高等学校」「創志学園高等学校」の2校と連携し、通信制高校の卒業資格取得と大学進学などの進路選択をサポートする。
上木原氏は「令和になってから通信制の生徒が2万人ずつ増えてきている。この増え方は、ネガティブな理由よりもポジティブに通信制を捉える子どもが増えてきている事情があると思う」と話す。学校以外の場所での多様な学習活動の整備が進んだことや、個人に適した学習スタイルの確立、自宅で学べる環境が増えたことであえて「行かない」選択をするケースもある。同氏は、「不登校という言葉自体が、イコール『ネガティブ』という空気感から変わってきている」と述べる。
ベネッセ高等学院は、同社が提供する「進研ゼミ」をはじめとした家庭学習における自主学習コンテンツや、「進研模試」などの学校向けアセスメントなど教育のサービスを通して培った教材やデータ、人を生かして生徒の学習をサポートする。専用教材の「進研ゼミ√Route(ルート)Be」は、勉強が苦手な生徒でも自信や自己肯定感を高められるように、学年を表記しない、自分のやりたい単元から始めるなどの工夫をしている。
同サービスには難関大学受験対策向けもあり、ベネッセ高等学院の生徒は使い放題となっている。また、クラス担任が学習カリキュラムの自己決定をサポートするなど進捗(しんちょく)について伴走する。