テレビ局依存、終焉の兆し テレワーク・業績不振でオフィスの移転相次ぐ芸能界

今回は「テレビ局依存、終焉の兆し テレワーク・業績不振でオフィスの移転相次ぐ芸能界」についてご紹介します。

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 コロナ禍による業績不振で、都心の一等地に所在するオフィスを縮小、売却、移転する企業が増えている。コンサートなどのライブイベントの中止や延期が相次ぎ、屋台骨が揺らぐ大手芸能事務所も例外ではない。有名タレントらが所属する芸能事務所はテレビ局などにもほど近い、都心の華やかな場所にあることが当たり前だった。専門家は「芸能事務所も追い詰められ、急速に変化を迫られている」と話す。 

コロナに、働き方改革に

 エンターテインメント業界は大打撃を受けている。ぴあ総研の調査によると、2020年のライブ・エンターテインメントの市場規模(試算値)は1306億円。前年(6295億円)と比べて、約8割が消失した。

 浜崎あゆみや倖田來未らが所属し、一時代を築いたエイベックスは20年12月、東京都港区南青山の本社ビルを売却することを発表。売却で得た290億円で、音楽ライブの中止や関連グッズの販売低迷などを補う。同社は「経営資源の有効活用と財務的柔軟性の確保を図ること」の他、「オフィスでの勤務を前提とした従来の働き方の見直し」も売却の理由として挙げた。

 リモートワークが推奨され、出社率の下がった都心一等地のオフィスを高いコストを払って維持する利点は少ない。

 電通グループは東京・港区の本社ビルを売却する。売却額は国内のビル取引としては過去最大級の3000億円規模になる見通しだという。またアパレル大手の三陽商会も20年、東京・銀座の旗艦店ビルを売却した。人材派遣大手のパソナグループも、東京から兵庫・淡路島への本社機能の一部移転を決めている。

 こうした流れに呼応するかのように、アイドルグループ「モーニング娘。」を擁するアップフロントプロモーションは20年末、都心の一等地である港区東麻布から品川区西五反田へ移転した。

 サザンオールスターズや、間もなく大河ドラマで主演する吉沢亮らが所属するアミューズ(渋谷区桜丘町)は、週刊誌などで「月5000万円の賃料といわれる現在のオフィスから、21年4月にも本社機能の一部を山梨県の富士山麓に移転する計画がある」と報じられた。同社は産経新聞の取材に対し、「当社が公表したものではありません」とコメント。移転計画自体についての言及はなかったが、一方で、「リモートワークの推進により渋谷オフィスの減床は検討しております」と説明した。

一等地の意味が薄れ

 ある芸能関係者は「コロナ禍が収束するまで、都心一等地の大きなオフィスは引き払った方がよい。ランニングコストを抑える合理的な選択だ」と話す。

 芸能事務所の立地は、これまで「華やかな芸能界を想起させるブランド性」や「テレビ局やラジオ局、集客力の高いイベントにアクセスしやすい利便性」などが重視されていたという。しかし、受難の時代を生き延びるため「ブランド維持よりも、ダメージの軽減に努めなければならない」(同関係者)というわけだ。

 コロナ禍で、タレントらがテレビ各局などを直接訪問する“売り込み”は難しくなっており、また、ライブイベントも激減。事務所が都心の一等地に所在することに、かつてほどの意味は失われているという。

 ある事務所のマネジャーは「もともと仕事の現場を飛び回っているので、職種によっては請求書の提出や打ち合わせをオンラインで、(外部一般企業からの問い合わせ窓口だった)固定電話をメールで代用させてくれれば、出社する必要はない」と話す。

 一方で、「大御所はともかく、売り出し中のタレントは台本などを渡す際に事務所に集まってもらい、そこでマネジャーらと細かく作戦を練って、信頼関係を築いていくのが以前の慣習だった。たとえコロナが収束しても、もうその文化は戻ってこない気がする」とつぶやいた。

 女優の新垣結衣らが所属するレプロエンタテインメントは今月、創業30周年の節目に合わせて移転した。JR山手線目黒駅直結の立地から、東京・神田駿河台へ。都心の利便性をキープした形だ。

変化を迫られる事務所経営

 芸能事務所経営に詳しい江戸川大学の西条昇教授は「アフターコロナの見通しが立たないなかで、芸能プロダクションは生き残りをかけて、新しいビジネスモデルを模索している」と話す。

 もともと、テレビ局と密接に連携することで発展してきた近代日本の芸能事務所ビジネスは、YouTubeなどの動画サイトが興隆し、テレビの影響力が相対的に下がったことで、変化を迫られていたという。近年、タレントと芸能事務所は、テレビ出演の他にコンサートなどのライブエンタメにも力を入れ、各地から大勢のファンを集めるイベントが収益の大きな軸になっていた。そこをコロナ禍が襲った。

 「テレビは密を避けるために出演者を絞り、一方、ライブエンタメのダメージは大きい。いつまでこの状況が続くのか、先が見通せない」と西条教授。

 コロナが収束したとしても、果たしてコロナ禍以前と同じエンタメが残るのか、また同じエンタメが必要とされるのか。西条教授は「芸能事務所オフィスの売却や移転、縮小の話は、先が見えないなかで、時代の荒波に適応しようとする動きの一つだろう」としている。

(文化部 三宅令)

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