「世界の全てをデジタル保存する」–NonEntropy Japanが事業戦略

今回は「「世界の全てをデジタル保存する」–NonEntropy Japanが事業戦略」についてご紹介します。

関連ワード (経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 NonEntropy Japanは7月6日、同社の事業概要と最新の取り組みに関して、報道関係者向けにオンライン説明会を開催した。

 同社 代表取締役の西村拓生氏は、同社が「IPFS技術を核に、Web 3.0のインフラを担う会社を目指している」と紹介。ビジョンとして「世界の全てをデジタル保存する」を掲げた。

 IPFS(Inter Planetary File System)は、米Protocol Labsが開発したプロトコルで、現在インターネットの中核プロトコルとして利用されているHTTPを補完する“コンテンツ指向”のプロトコルとして知られる。HTTPがファイルの形で保存されたコンテンツを想定し、そのファイルがどこにあるか(ロケーション)を示すURLを指定することでアクセスするのに対し、IPFSではコンテンツはネットワーク上に分散したストレージにバラバラに保存された“断片”をつなぎ合わせることで復元される。

 コンテンツを構成する“断片”がどこに存在するかを指定するわけではないため、特定のサーバーがダウンしているような場合でも柔軟に代替サーバーから断片を取得したりできることから、負荷分散や耐障害性に優れるほか、更新履歴をブロックチェーンで保存することから改ざんや漏洩にも強いという特徴があるという。

 さらに、Protocol Labsは「IPFSを普及させるための報酬レイヤーとして」「ユーザーとマイナーの間でストレージの貸し借りができるシェアリングエコノミー&マーケットプレイス」である「Filecoin」を導入している。2017年に実施されたFilecoinのICO(Initial Coin Offering:仮想通貨の新規発行による資金調達)では約280億円を調達。なおこのICOは米SEC基準に則って実施された世界初のICOとも言われる。

 一般的な仮想通貨では、ブロックチェーンの演算処理を行うことで報酬として仮想通貨を受け取る人をマイナー(Miner:採掘者)と呼ぶが、Filecoinのマイナーは「ストレージ領域を保有し、プロジェクトに提供する人」を意味する。マイナーが提供するストレージ領域を仮想的に統合してIPFSに基づく分散ストレージを構築、マイナーにはストレージ使用料としてFilecoinが支払われる、というイメージだ。また、IPFSストレージにデータを保存したり、保存されたデータを読み出したりするユーザーはストレージ事業者につど支払いを行うことになるので、それもマイナーの収益とすることができる。

 NonEntolopy Japanは、Filocoinの存在を前提に、マイナーとして活動するほか、IPFS関連の技術やサービスを提供する。西村氏は同社が認識する社会課題として「データ爆発」と「主要クラウド事業者によるデータの寡占化」を挙げた。特に後者の寡占化に関しては、「世界の大手ストレージプロバイダー上位5社が全データの77%を保有している」といったデータも紹介し、「データを保有しているプラットフォームや国家の意向次第で情報のコントロールが可能になってしまう」ことに対する懸念を表明した。

 その上で同氏は、IPFS/Filecoinを活用すれば「恒久的なデータ保存が可能」だという。そこで、IPFS/Filecoinでは企業などの業務データではなく、「人類が未来に向けて保存する必要があるデータ」「プラットフォームに依存せず、恒久的に保存する必要があるデータ」などを念頭におき、優先的に保存する姿勢を示している。同社が実現を目指すWeb 3.0の世界は「P2Pやブロックチェーンなどといったテクノロジーを活用することで特定のサーバー(中央集権)に依存しないユーザー間で直接『信頼』を交換できる世界」だと説明されている。こうした世界観に沿った形でのデータ保存を可能にする技術としてIPFSを位置付けているということになる。

 Filecoinでは、公証人によって認証されたデータの保管には10倍のマイニング報酬機械が与えられる制度である「Filecoin Plus」も開始している。現在全世界で14人(アジアからは4人、うち1人は日本人)の公証人が選出されており、彼らが「保存する価値がある」と認めたデータが対象だが、こうした仕組みが用意されたことも個々の企業が所有する私的な事業用データよりも人類共有のデジタル資産というべきデータの保存を重視していることがうかがえる。

 同社が提供する次世代分散型データストレージサービス「IPFS SOUKO」では、寺田倉庫と共同で文化財および芸術関連をはじめとするデジタルデータをアーカイブする実装実験を開始したことが発表されたが、こうした取り組みもその一環として理解できるだろう。

 文化財やアート関連のデジタル化に関連して、NFT(Non Fungible Token)技術を活用して唯一性を証明するという取り組みも始まっているが、NFTで唯一性を保証されたデジタルデータを安全に保管するストレージとしてIPFSを活用する取り組みも開始されている。

 分散ストレージの技術はエンタープライズ向けのものも幾つか存在しており、データをブロックに分散してシステム内部に分散させるアーキテクチャーも既に活用されている。技術面ではこうしたスケールアウト型の分散ストレージとほぼ同様のものと理解して良さそうだが、一方で暗号通貨と組み合わせたシェアリングエコノミーの創出や人類に取って重要なデータの恒久的な保存を目指すと言った理念の部分では従来の分散ストレージ技術とは全く異なる取り組みと見ることもできるだろう。

 なお、暗号通貨としてのFilecoinは日本国内の取引所での取り扱いはまだないとのことで、取引機会は海外に限られるものの、「1Filecoinが約7000円弱、時価総額では6000億円弱という規模感。大変注目されており、米国でもキチンとオーソライズされた暗号資産なので、いずれ日本でも取り扱いが始まるだろうと期待している」(西村氏)という。

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