登大遊氏、日本は「超正統派」のICT人材を育成すべき。そのために、自由な試行錯誤を許容するインチキネットワークの普及に取り組む(後編)。JaSST'22 Tokyo
今回は「登大遊氏、日本は「超正統派」のICT人材を育成すべき。そのために、自由な試行錯誤を許容するインチキネットワークの普及に取り組む(後編)。JaSST'22 Tokyo」についてご紹介します。
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2022年3月10日と11日の2日間、ソフトウェア業界のテスト技術力の向上と普及を目指すイベント「ソフトウェアテストシンポジウム JaSST’22 Tokyo」がオンラインイベントとして開催されました。
イベントの最後には、招待講演として登大遊氏による講演「世界に普及可能な日本発の高品質サイバー技術の生産手段の確立」が行われています。
この記事ではその講演の内容をダイジェストで紹介します。記事は前編、中編、後編の3つに分かれています。いまお読みの記事は後編です。
質疑応答
登様、ご講演ありがとうございました。それでは質疑応答に移りたいと思います。
質問) 正統派が超正統派へと殻を破るきっかけは何でしょうか?
複数あると思いますが共通してよく見られるところは、裏側はこうなってるんやみたいなのを何らかの機会にちょっと見ると、こんな面白いことがあるんやというので感動して、もっと触りたいなみたいに思いますけれど、それをやるためにはちょっと勉強しないといけないと感じて、それで勉強を始めるというふうに思うのです。
今43ページ目のパワーポイントにありますけれども、我々もインターネットはだいたいNTTの嫌なルータがあって、何が嫌かって、その先は秘密で教えてくれないですよね。あの秘密やというのはなかなか魅力的ですね。
それでたどっていくと裏に大規模なコンピュータネットワークがあるんやと。その先はどうなってるかよく分からない。
インターネットの方はNTTは分からんと。何かNTT法っていうのがあって、NTTは県内と、特別な県間通信だけをやっていて、それをこえる通信をやっちゃいけないから、NTT東はインターネットができないんです。
それで、その先はプロバイダ様やみたいに言われるんです。プロバイダ様っていうのが、また秘密になっていて、つまり秘密や秘密やっていうことは非常に面白いので、見てみたいとみんな思ってるんですけれど。
ただ残念ながら秘密にしすぎていて見れないのです。本当に秘密になっていて、会社のプロバイダや電話会社のひとすら、40年ぐらい前にだれかが作ったらしいとか、伝説とそれを運用するだけのマニュアルだけ残ってて。
そこを探索していきまして、電話会社やプロバイダの人たちよりも詳しく秘密を見ることで、それは面白いなと思うということは、かなり自分の周りには共通的にこのICTの本物の領域に興味を持つきっかけになるんじゃないかと思いますから、これは秘密やでーとか言いながらこっそり見せるということは興味を持ってもらえるから有益だというふうに思っております。
質問) 超正統派へと質的跳躍をする、けしからん人材をどう見つけるか、どう増やすといいでしょうか。
質的跳躍はですねですね、51ページ目にありますと。これはどんな小さなICT主体でも、小さなというか、どんなICTと関係ないように見えるところ、例えば市役所等の行政機関でも、2人ぐらいこういう(質的跳躍をする人)がいるんです。
ある役所の情報システムで、もう30年以上やってるベテランの方にいろいろ案内してもらったんですが、これは自分らで作ったサーバルームです、みたいな感じで、古いコンピュータとかバーッと無造作に置いてあって、これは住民税の通知書とかを自分らの作ったシステムで印字して、封筒に入れるシステムとか、全部自分たちでやってたんで、今でもそれは動けると。
これは見てすごいなと思ったんです。
それで、今でもそういうことをする若い人はいるんですか? と聞いたら、やっぱりあんまり入ってこへんし、入ってきたとしてもこういうことをやっちゃいけないんじゃないかみたいな感じで、業者にこれをやってもらうための伝票を書く仕事をやって、自分ではやらないということであります。
そう考えると、情報システムをやりたいんやみたいに熱心に考えて、本気で超正統派ができると信じて入社する方っていうものは、やっぱり5%ぐらいはいるんじゃないかというふうに思います。
だからまず安心してもいいんだと思います。さっきの中学生とかの例を見て、もうみんな楽しそうにやるのがやっぱり5%くらいいるんです。
次にこれをどうやって見つけるか、であります。
超正統派の人出てきてください、とか言うんじゃなくてですね、もうこのインチキ部屋みたいなやつを作ることだと思います。
このインチキ部屋はどうやって作るかというと、本当はその組織の人で、ベテランの超正統派が1人いればその人が作るべきなんですけど、最近はいなかったりするんです。
ところがどんな組織でも経営陣はこういうものを作れ作れと。ちょっと前までは、こういう変わったことはしちゃいかんというのが経営者でしたが、だいたい経営者っていうのはちょっと先を行ってるので、今はこういうことをやらないと組織が潰れるからちゃんとやらんといかんというふうに、非常にこういうことをやらないといけないというムードになっているのです。
こういうものを作りたいとちゃんと説明すればできるんだと思います。
ただそれをやるときに問題なのは、場所はあるし、資源もなんかいらん中古のサーバとかラックもあると、しかし唯一、コンピュータネットワークを適切に管理し、何かあったときに責任を取ってくれる人がいないというのがどの組織で問題があって、それができないのです。
そこをどうすればいいかっていう問題は長年未解決のままだったんですけれど、我々の一つの解としては、これからちょっと頑張ってですね、このインチキネットワークの作り方や管理やり方みたいなものを、適切に広めていこうと思って。
これ通りにやったらうまくだいたいうまくいくと、うまくいかんかってもそれはだいたいIPAの登さんが悪いという感じにすればよくて。
ネットワークの部分が最初はよく分からんので、こういうふうな仕組みを使いまして。
他に責任を持ってもらうということでできるのじゃないかと思うんです。
質問) 登さんは、けしからんことをやってもいい、となった瞬間が一番面白いとおっしゃっていたと思いますが、そこへたどり着くには、周りの理解や評価が必要だと思います。インチキな取り組みをしたくても、一蹴されることもあると思いますが、どうやって理解をしてもらうようにしていますか。
理解を得るためには46ページ目のスライドをかじることが非常に重要であります。
理解を得る相手というのは国の偉い人ですとか、ちゃんとした経営者とか、役職者とか、大学の先生とかの場合が多いと思います。
彼らが何を好んでいるかというと、ソフトウェアやハードウェアだけをやっていることを望んでいる人ではなくて、下のいろんな厄介な学問(経営学、工学、政治経済、法律、哲学などなど)が好きな人で、それをうまいことを待ってるんじゃないか、というふうに思うんです。
我々ICT人材はこういう下の方を軽視することが非常に多いんですけれども、実は下の方が土台になって上があるので、この一見無関係な学問領域を、特に文系領域を広く浅くやる。
そうすると3つ利点があって、一つ目は、話が通じることかと思います。
二つ目は、この領域をやることは、自然にプレゼンを頑張って作ってあの人を説得するんや、みたいなことを言うやつはだいたいうまくいかなくって、こっち(さまざまな学問)の方を、そんな目的意識じゃなく面白いものを読んで入力しておきますと、インチキな感じで適当に作っても、通じるものが作られるのです。これは非常に楽であります。
つまり単位時間あたりに作れる説得材料が非常に大きくなるということで、これをやらずにプレゼンなんかを作ったり、何か頑張って計画主義的なのをやるから駄目なんではないかということであります。
三つ目は、このあたりの理論を理解していれば、全領域に渡って及ぶ計画を練った上で言ってくるんように見えるなと、多分、えらいさんには見えるんじゃないかというふうに思いますし、実際にそうなんじゃないかと思います。
つまり、組織にとっての最も重要な目的は何かというと、生存する可能性を高めて、その組織で発展をして、意味のある価値を出力することが組織の目的です。
それをやるには何よりもその組織は生存しないといけないんですが、世の中は新しいことをやらないと生存できないような仕組みですから、新しいことを正しくやる、その必要性を偉いさんは十分認識しているけれど、彼らの困ってることは、若い奴らはそういうことをわかってないんだと。それで困ってるんじゃないかと思われます。
それで、そういうわけではありませんと、勉強して行きましたら、これは珍しい話が来たみたいな感じで、真剣に協力してもらえるということで、これで突破できるといいますか、協力体制が構築できると思います。
もし、その会社の偉いさんが、今儲かることしかやっちゃいかんのや、みたいな感じだったら、あなたはその組織から早く脱出した方がいいです。
なぜならそれは必ず破綻するので、それはもう駄目ですけど、一般的な大企業とかはかなり賢いので、そういうことはないので。
偉い人はみんなこれが重要やっていうことは誰もができますので、そこへ話をするということが非常に重要だというふうに思います。以上です。
質問) 超正統派人材はどういう動機付けで活動方法が変わるのでしょうか?
超正当派のコンピュータへの動機ってのはだいたい2つの混在だと思っております。
その混在しているルール目標の一つ目はですね、このインチキないたずらをやってみたいなという、楽しみを求めるというものです。
これだけだと例えば土日はゴルフをやりたいっていうのと、土日は会社でインチキイタズラをしたいなというのとは同じなので、個人の欲望ですから、それはどうでもいいというか、対等であります。
しかし超正統派の動機の二つ目は、えらい困ってる人がいるとき、その技術がなくて困っててみんな不自由してるとか、使いにくいとか、何でもいいです。
イメージで言うと、C言語があるけど、またPerlもあるけど、それでWebサーバのアプリを書くのは苦痛であると、みんなこれで困ってるんやっていうときに、Java Servletとか、Ruby on Railsとか、PHPとかを作ると、喜ぶ人が多いんじゃないかな、みたいに楽しく感じます。
その楽しく感じるっていう面白いたずらみたいな気分は、これは先の土日にゴルフに行きたいみたいな個人の欲望とは全く違う質を持っております。
つまり「土日にゴルフをいきたい」を叶えると喜ぶのは自分1人ですけれど、何かを作って便利やということになると100万人とかが、その利益を直接受けますし、そのアプリケーションを使う1億人とか10億人がその利益を間接的に受けるのであります。
数百万人に連鎖するということが、このICTの超正統派のもっとも正しい動きだと思います。しかし、なぜそれをやる必要があるのかということをさらに深く理解することは、利益があります。
なぜ人々が便利に感じる、いろいろなシステムが存在するべきであるのかと。そして、社会の資源を、例えばゴルフ行きたい、みたいなところに費やすのではなく、そういうことを後回しにして、いち早く技術研究に費やす方が良い理由は何かと、そのところを理解をして、ぱっと答えられるようなぐらいにふだんから考えることは利益があります。
自分の考えは次の通りです、人間はこのようなコンピュータ技術とか、こういうふうなものをますます発展させることで、人間は、なんの知性もなかった物質のときと比べると、非常に高い質の知性を持っております。
これをますます発展させると、どこまで発展できるかっていうのはわからないんですけれども、永続的に、つまり無限に永遠に発展したいという欲求が我々知性には存在します。
いずれ限界が生じて、それ以上を生存することができない状況になるということに陥らないように無限に進化したいというふうな欲求があります。
それと対照的なのは死滅することです。死滅しないように、我々はいろいろな技術を開発して、自然状態においては限界があったところを突破する、というのをギリギリのところでやってきました。
それは多分、人間が活動を始めて、100万年ぐらいとか、文書に残ってるので数千年ぐらいという歴史はそこにあります。
それでいま、その最先端がコンピューターだとか、AIだとかインターネットだとかいうところです。
いま、この百年間でうまいことやるかやらないかで、人間が存続できるか、つまりこの宇宙空間の中で永続的に生存できるかできないかが決まると、そういうふうに考えたときにそれを実現するためには、他の分野の人はもちろん頑張ってます。
医療も、宇宙技術も頑張ってます。
そういう人たちが頑張っていろんな技術を生み出すための、その土台になっているICTが、まだ全く未開拓な部分が多いのです。
そこを綺麗に作って差し上げることで、いろいろな科学技術の領域や他の社会活動をする領域がものすごく成長して、ついには我々のものすごく先の子孫も皆永続的に生き残ることができる知性を手に入れることができたならば、これは価値があることであると思います。
そのためには、小さいところからやることが重要で、例えばアセンブラしかないときに、コンパイラを作るとか、専用OSしかないときに汎用OSを作るというふう、そういうことに携わるということは、生き残るための動機、これがその個人が生き残るのではなく、この知性というものは、人類が生き残るわけでもないです。
万が一にも人類が生き残れなくても、知性が生き残ることができたならば、それがいいんですけども、生き残るためには、この今の人類のコンピューター活動というものが、それができるかできないかが今の一瞬がかかってると、そういうふうなことがあるというふうに思います。
そうすれば、日曜にゴルフ行こうとかよりも、今やらないといけないことがあるんだと、そういう気分になり、超正統派的活動がより活気付くんじゃないかというふうに思います。
質問) インチキなものを作ろうとすると、最初はどうしても不具合の多いものができる気がします。どうしたらたくさんの人に使ってもらえる、高品質なインチキシステムが作れますでしょうか。
インチキシステムが不具合が出る原因は何かといいますと、高度化したときに、つまり例えば、HelloWorldとかでは不具合は出ないんですけども、どこで不具合が出るかっていうと、具体的なプログラムをだんだん大きくしていくと、ある壁に直面します。
その壁というのは、具体的に書いていくと扱えないぐらいでかいプログラムであると。
抽象化を施すとうまくいくんだけれども、抽象化をほどこすときに自分たちの頭の中で処理できる量を超えてしまうという、その限界のところがだいたい各個人にありまして。
そうした限界を突破するためには、プログラムを書かないといけないときにはやはり46ページ目に戻ります。他の学問領域をかじることで、そちらにヒントがあります。
そのヒントというものはどのような形でしょうか?
これはプログラミングのことが哲学の本に書いてあることではないんです。あるわけないですよ。逆はあるんですけれども。
ところが他の文系学問の方には、ある構造の形みたいなのが見えます。その構造の形とソフトウェアの方で積み重ねていくべき抽象化されたデータの形というものが、同じようにすればうまく動くんやな、ということが自然に分かるようになることがあるんじゃないかと思います。
つまりは他の学問をやっていると、やってない場合と比較して、短期間で潰れにくいデータ構造やモジュール構造や抽象化やら、テストの方法ですとか、拡張性の高い実装方法とかが分かってくる。
しかしそれを極めすぎると今度はそればっかりやって具体的なものが出てこないので、ちょうど良いバランスも必要です。
つまり質ばかり追求すると時間がなくなり、時間を追求すると質が駄目になるんで、この絶妙な中間地点みたいなところを発見する必要があります。
これも他の領域の本でそういう話がよく出てきます。特に経営の方はそうだと思います。
他方、コンピューターの本というものは全く未熟でありまして、未熟どころか、前はまともだったのが今のコンピュータの本といいますのは、どんどん書店からもなくなってしまいまして、今コンピュータの本はろくな物がないので非常に難しいんです。
すると他のところから知識を仕入れるしかないということになってしまいます。
そこで繰り返しですけれども、他の文系的学問領域をかじるということで、2~3カ月ちょっとやってみるだけでもすぐに向上が見られ、ついには解決する問題だというふうに思います。以上です。
質問) けしからんインチキをやってみて失敗したことはありますでしょうか?
あんまり成功することはなくて、だいたいろくな結果にならないんですが、だいたい最初にインチキをすると、問題が発生します。
例えば81ページ目の大学での問題、NTT東日本のデススター問題が発生するということであります。
こういうことはよくありまして、この場合、相手方の考えなんかを研究する必要があります。
そこで、例えばNTT東がけしからんというふうに思った場合は、古本でですねNTT法の成立の過程とか、電気通信事業法の本とか、NTTが2000年以降、光ファイバーを開放する頃のゴタゴタの問題とか、そういうものが書籍ですと古本で、経営的なやつとか、あと日経BPとかの昔の本に全部載っております。
それを勉強すると、ついには対象のNTT東日本よりもNTT東日本について詳しくなることができます。
こうすればだいたいはどうすれば両者の利益になるかが自然に分かりますし、NTT東日本が何で困ってるかっていうのもよくわかります。
こういう感じで説得を続けるということが重要で、そうすれば、最初はうまくいかないよって思われるんですけども、最後はNTT東日本で遊ばせてもらったり、またいろんな賞ももらったりすることができます。
従って、失敗した場合は次にすぐに別の方法をやって、情報収集が足らなかったわけですから、情報収集をさらに行って次をやるということだと思います。
以上です。
司会) そろそろ終わりの時間が参りました。登さん、ありがとうございました。
ありがとうございました。