WebAssemblyでマルチスレッドによる並列処理を可能にする「wasi-threads」仕様の提案、ByteCode Allianceが明らかに
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WebAssemblyにおける業界標準仕様などを推進する団体「ByteCode Alliance」は、WebAssemblyでマルチスレッドによる高速な並列処理を可能にする「wasi-threads」仕様を提案したことを明らかにしました。
W3Cでのマルチスレッド仕様策定は現在フェーズ3
WebAssemblyは、Webブラウザ上で高速に実行可能なバイナリフォーマットとしてW3CのWebAssembly Working Groupで標準化が行われており、現在でも新たな機能追加や性能向上のための議論が行われています。
現時点でWebAssemlbyはシングルスレッド処理のみ可能ですが、W3Cの仕様策定の作業の中にはマルチスレッドを実現する「threads」の議論が進められており、フェーズ1のFeature Proposal(機能提案)、フェーズ2のProposed Spec Text Available(仕様提案書作成)の段階を終え、現在はフェーズ3のImplementation Phase(実装段階)に入っています。
このあとはPhase 4のStandardize the Feature(機能の標準化)そして最後のPhase 5となるThe Feature is Standardized(標準化完了)となるわけです。
ただしByteCode Allianceの説明によると、このthreads仕様では複数のスレッドから共有メモリへアクセスする際の命令などは含まれているものの、新しいスレッドを作成するSpawnの実装は、その詳細が実装者に任されているとのことです。
そのため、Webブラウザ上のWebAssemblyランタイムではJavaScriptの処理をマルチスレッド化するWeb Workerの機能を用いてWebAssemblyのスレッドをSpawnする実装となっていますが、WasmTimeなどに代表されるスタンドアロンのWebAssemblyランタイムでは、よりシンプルな実装を選択できる余地があることになります。
そこで議論された末にByteCode Allianceが今回提案したのがスレッドを作成するシンプルなAPI仕様「wasi_thread_spawn」です。
WASIのレイヤでスレッド作成APIを実装
WASI(WebAssembly System Interface)は、ByteCode Allianceが標準化と実装を進めている、WebAssemblyランタイムにおいてOSなどプラットフォームのAPIや機能を抽象化するための仕様です。
W3CがWebAssembly本体の仕様を策定しているのに対して、WASIは、例えばファイルをオープンする処理のようにOSごとに異なるAPIをWebAssemblyランタイムのレイヤで抽象化することで、WebAssemblyのアプリケーションが特定のOSなどのプラットフォームに依存することを回避し、単一のWebAssemblyアプリケーションがWindowsでもLinuxでもmacOSでもiOSでも、どのプラットフォーム上でも実行可能にする、というものです。
ByteCode AllianceはWASIの実装における事実上のリファレンス実装ともいえる、WebAssemblyランタイムの「WasmTime」もオープンソースで開発しています。
今回、スレッドを作成する「wasi_thread_spawn」も、このWASIのAPIとして提案されました。これにより、どのOSやプラットフォームで実行されるWebAssemblyアプリケーションであっても、WASIに対応したWebAssemblyランタイム上でWASIに対応したプログラミングが行われているWebAssemblyアプリケーションであれば、スレッドを作成するためのSpawnを同じように呼び出せるようになる見通しです。
ByteCode Allianceは、WebAssemblyでマルチスレッドが可能になることで、並列処理による高速な処理が可能になることや、より幅広い種類のソフトウェアをWebAssemblyでサポートできるようになることが期待できるとしています。
wasi_thread_spawnを含むWASIのスレッド機能は、最新のWASI SDK「wasi-sdk-20+threads」で利用可能になっています。