「+AI」から「AI+」へ–IBMが示すAI戦略

今回は「「+AI」から「AI+」へ–IBMが示すAI戦略」についてご紹介します。

関連ワード (ビッグデータ等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 日本IBMは5月24日、同月9~11日に米国オーランドで開いた年次カンファレンス「Think 2023」の発表内容を踏まえ、人工知能(AI)の事業方針と製品戦略に関する記者説明会を開催した。

 常務執行役員 テクノロジー事業本部長の村田将輝氏はまず、同社のAIに対する方針として「『+AI』ではなく、『AI+』や『AIファースト』」で自社の価値を変えていこうとするユーザー企業の取り組みを支援していくとの考えを明らかにした。

 次に、村田氏は同社のAIに関する取り組みを振り返った。1997年に日本で開発されたテキストマイニング技術「TAKMI(Text Analysis and Knowledge Mining)」がその後の「IBM Watson」のベース技術となっており、2011年には米国のクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」でWatsonが史上最強の2人のチャンピオンと対戦して勝利するという歴史的な成果を達成した。

 同社の方針は「ビジネスのためのAI」で、企業がAIを活用していくための支援を行っていくというものだ。企業のAI活用には大きく2つある。1つはAIのユーザーとなることで、もう1つはAIを自社のものとして価値を創造する企業となること。同社は後者の取り組みを主に支援していくという。そのための具体的な製品として、Think 2023で発表された「IBM Watsonx」がある。

 執行役員 IBMフェロー IBMコンサルティング事業本部CTO(最高技術責任者)の二上哲也氏は、米IBM 最高経営責任者(CEO)のArvind Krishna氏の「AI適用企業は2017年から5年で2倍になっており、現在は今後10年における大きな転換点になっている」や「インターネットの黎明期(Netscape Moment)に似ている」といった発言を引用し、「企業が信頼できるデータを用いて最先端のAI活用の拡大・加速を可能にする、新しいAIとデータのプラットフォーム」としてWatsonxが発表されたと紹介した。

 Watsonxは、「watsonx.ai」「watsonx.data」「watsonx.governance」の3つの要素で構成される。watsonx.aiは「従来の機械学習と、基盤モデルを活用した新しい生成AI機能の量を学習・検証・調整・導入できるAI構築のためのオープンな企業向けスタジオ(ツール/機能群)」、watsonx.dataは「データとAIを管理する、オープンレイクハウスアーキテクチャー上に構築されたデータストア」、watsonx.governanceは「信頼できるAIワークフローを実現するAIガバナンス/ツールキット」となる。なお、watsonx.aiとwatsonx.dataは7月、watsonx.governanceは2023年後半にそれぞれ提供を開始する予定となっている。

 テクノロジー事業本部 Data and AIエバンジェリストの田中孝氏は、watsonxの詳細を説明した。同氏はまず、これまでのAI技術の発展経緯について解説。これまでの機械学習(Machine Learning、ML)/深層学習(Deep Learning、DL)では、用途ごとにモデルを作成するために大量のデータを集めて学習させる負荷が課題になっていたが、現在注目を集める基盤モデルのアプローチでは、自己教師あり学習で巨大データを学習・教育した基盤モデルに「少量データの追加学習(微調整)」を加えることで用途ごとにチューニングを行い、目的に合ったモデルを実現できるようになったことが進歩的だったと紹介した。

 一方、機械学習/深層学習の段階でも課題として認識されていた「『データの出所やAIの挙動の透明性/説明性』といった部分に関しては基盤モデルを使ったAI開発においても引き続き考慮していく必要がある」(同氏)と指摘。watsonxではこの課題に対して3つのコンポーネントを連携させることで「ビジネスの中でAI開発をしていく際の課題を乗り越え、企業固有のAIモデルを基盤モデルベースで作っていくことを支援しようとしている」とした。

 watsonx.aiでは、「ビジネス利用に適したIBM独自の基盤モデルの提供」に加え、Hugging Faceとの提携に基づいてオープンソースモデルのものも利用できる。IBM独自のモデルとしては、「fm.code(コード生成)」「fm.NLP(大規模言語モデル/LLM)」「fm.geospatial(地理空間データ)」などがあり、さらにさまざまなモデルが提供予定となっている。watsonx.dataは基盤モデルに対して追加学習を行う際に使われるデータを格納/管理するためのデータストア。watsonx.governanceはデータとAIガバナンスの量を包含するツールキットで、「責任ある透明で説明可能なAIワークフローを実現する」という。

 watsonx自体の製品提供に加え、IBMやパートナー企業が提供するさまざまなソフトウェアにもwatsonxを活用し、AI機能を組み込んでいくことも予定されている。例えば、Red Hatの運用管理自動化ツールである「Ansible」のコード生成をサポートする「Watson Code Assistant」が2023年後半に提供開始の予定となっている。

 IBMのAIに関する取り組みの歴史は長いが、その中には「AIの冬の時代」もあった。例えば、先述のクイズ番組で人間に勝ったことが話題となったWatsonだったが、その当時の同社は“AI”という言葉を使うのを意識的に避けており、Watsonに関しても「コグニティブコンピューティング」という表現が使われていたほどだった。それでも連綿と継続して研究に取り組んでいたことが現在の状況につながっているのは間違いない。

 その後、GPUの性能向上と歩調を合わせるようにML/DLが大きな成果を生み始めたことでAIブームとも言うべき状況が出現し、さらにLLMをベースとした「ChatGPT」などが大きな注目を集める。そうした中、いわばOpenAIなどの新興企業に出し抜かれたような状況になったように見えるが、実際には基盤モデルにもいち早く対応して研究開発を進めてきていたという。

 一般向けのChatGPTなどが注目を集める一方、同社がターゲットとするのは「企業がビジネスのための“AI価値創造企業”となるための支援」という点である。そのために必要となる要素であるデータのハンドリングやガバナンスを包括的にカバーするプラットフォームをいち早く発表するに至っていることが、同社の取り組みの一貫性を証明するものとなっていると言えるだろう。

 基盤モデルをベースに開発されたAIを活用するという取り組みは一般企業にも急速に拡がっていくものと考えられる。しかし、基盤モデルを活用した独自のAIを活用して新たな事業価値を創造することに取り組む企業は相対的に少なく、直面するハードルも低くはないと思われるが、そうした企業に向けた支援策が早々に打ち出されたことはAI活用に真摯に取り組もうとする企業に取っては朗報と言えそうだ。

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