「AWS DeepRacer」に千葉・佐倉西高校が挑戦–「速度」か「正確性」か試行錯誤
今回は「「AWS DeepRacer」に千葉・佐倉西高校が挑戦–「速度」か「正確性」か試行錯誤」についてご紹介します。
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千葉県立佐倉西高等学校は、9月15~16日に行った文化祭「西風祭」において、アマゾン ウェブ サービス(AWS)がグローバル規模で提供する自走型レーシングカー「AWS DeepRacer」(DeepRacer)を、生徒が強化学習を用いて走行させた。DeepRacerは、機械が理想的な行動を取った際、高い報酬関数を与えることにより学習させる「強化学習」を用いることで、自律走行している。
18分の1スケールの実機にはカメラが搭載され、コース内の位置情報やカメラが捉えるコース映像、ユーザーが開発するアルゴリズムによって走行する。DeepRacerのモデル開発は、オンライン上のコンソールや仮想コースのシミュレーションを通して実施。複数のコースから走らせたいコースを1つ選び、速度と正確性を重視したプログラミングを組む。サンプル報酬関数として「コースの中心を走る」「ジグザグ走行を防止する」「4輪をコース内にとどまらせる」の3つが既に用意されており、サンプルをベースにプログラミングを組むこともできる。
ここでは、文化祭でDeepRacerを披露した2年生の浅井一喜さんと逸見あたるさん、情報科主任 科学研究部顧問の小出徳江教諭に取り組みを聞いた。
文化祭でDeepRacerを披露したきっかけは、小出教諭が担当する「情報の科学」で実施したAWSジャパンの出前授業だという。DeepRacerや「Alexa」などAIを活用した事例紹介を通して、小出教諭は科学研究部の部員に文化祭でのDeepRacerの披露を提案。浅井さんと逸見さんが興味を持ち、今回の取り組みに至った。
もともと、AIや機械学習(ML)に関心がなかったという二人。逸見さんは、個人的にゲーム制作をしておりプログラミングの知識はあったものの、AIに興味を持ったのは今回の活動を通してだったという。
小出教諭に声をかけられ、浅井さんは「私自身、(プログラミングの)経験がなかったので、これを機に新しいことをやってみたいという好奇心があった」。逸見さんは、「『Python』を通してAIに触れることができるのを知り、面白そうだなと感じた」と参加した理由を説明した。
小出教諭は、AWSジャパンの担当者がコースの貸し出しやDeepRacerが動くまで指導を行ったことで、文化祭当日の披露につなげることができたと振り返る。また、科学研究部の部員はオンラインプログラミングスクールのプロキッズが夏休み中に開催したDeepRacerの講習会に参加し、約4時間でDeepRacerのif関数や基礎的な知識を学習した。
講習会について浅井さんは「関数によっては難しい部分もあったが、1対1で向き合って教えてくれたので、興味を持つことができた」と話す。講習の最後には参加者全員が、自ら開発したモデルを使ってレースを行った。浅井さんは正確性を重視したが、ほかの参加者は速度を重視したモデルを開発するなど、一人一人の個性が出ていて面白さを感じたという。
逸見さんは、速度を重視しつつ、いかにコースアウトしないかを試行錯誤することが楽しかった話す。3つのサンプル報酬関数から、コースの中心を走らせる報酬関数をベースに速度調整を加えた結果、プロキッズで行ったレースでは3位に入賞した。
文化祭準備では、小出教諭が購入した実機を用いて、小出教諭を含めてモデル開発を行った。モデルは、「コースアウトしない」かつ「スピードを速くする」ことに重点を置いて開発。しかし、浅井さんと逸見さんは、「コースアウトしない」という正確性に課題を感じたという。計3周するレースでは、1周目はうまくいくが2周目以降でコースアウトしてしまい、その点を改善することができず、当日は正確性の高い小出教諭のモデルでコースを走らせた。
モデルの作成でこだわったことを聞くと、浅井さんは「3つのサンプル報酬関数の中からコースの中心を走らせるモデルを選んでシミュレーションを行ったが、想像以上にジグザグ走ることが分かり、結局曲がりきれずコースアウトしてしまった。そのため、ジグザグ走行を防止する報酬関数を使い、基本的に真っすぐ走らせることでタイムロスを減らし、うまく曲がれるようにした」という。
逸見さんは「サンプル報酬関数の中からコース内にとどまって走るモデルで強化学習を行ったが、ジグザグに走ってしまいコースアウトしてしまった。そのため、ジグザグしない報酬関数を選んでみると正確性が高まり、うまく走らせることができた」と説明した。
また、文化祭当日は「PowerPoint」を用いてAWSのプレゼンテーションを作成し、身近なところにAWSが使われていることや、DeepRacerの仕組みを紹介した。ほかにも手元のコントローラーを用いて操縦ができるため、展示を見に来た人には実際に操作をしてもらうことでDeepRacerを多くの人に知ってもらえたという。「中学生や先生など、いろいろな方が来場してくださり、コントローラーを用いた実機の操作を楽しんでいた」と浅井さんは振り返った。
浅井さんと逸見さんは今回の取り組みを経て、「次回の文化祭では2つのモデルを使ってレースを開催したい」と展望を語る。また、学生向けの「AWS DeepRacer Student Japan Student Championship」にも参加したいと意欲を見せた。
小出教諭は、「自分が想像する以上に二人が成長した」と文化祭の成果をコメント。「文化祭でDeepRacerを披露するために、自分たちが何をしなければならないのか、来場した方にDeepRacerの良さを伝えるにはどうしたら良いのかといったことを二人で試行錯誤していた。文化祭の最終日は初日に比べて大きく成長しており、会場も盛り上がりを見せていた」
加えてDeepRacerに対しても、「英語の説明書を見ながら実機を組み立てた。DeepRacerを通してAIの知識を深めるだけでなく、英語力の向上や国際コミュニケーションも身に付けられるのではないかと感じた。生徒にとっては大きな可能性を秘めている教材だと思う」といい、「授業でもDeepRacerを扱いたいと考えており、学生のうちにさまざまな失敗や経験ができる環境をつくりたい」と語った。