第3回:オブザーバビリティを組織変革のドライバーに

今回は「第3回:オブザーバビリティを組織変革のドライバーに」についてご紹介します。

関連ワード (組織のデジタル競争力向上にオブザーバビリティが果たす役割、開発等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 前回は、エンジニア(IT部門)と非エンジニア(経営者・業務部門)の相互理解とコミュニケーション、コラボレーションに、オブザーバビリティがどのように貢献できるのかを紹介しました。最終回では、Site Reliability Engineering(SRE)の考え方に基づくエンジニアとIT部門の変革についてお話ししたいと思います。

 クラウドネイティブ技術の進化、デジタルディスラプターの出現、そして自社のデジタルサービスへの挑戦――企業をとりまくさまざまな変化が、エンジニアとIT部門にも変革を迫っています。複数のテクノロジーに精通してデジタル領域をリードするフルスタックエンジニアへの期待は大きく、中でもSREに精通したエンジニアの市場価値が急速に高まっています。

 そうした中、「エンジニアの能力を拡張し、IT部門の役割を高度化する」という目的でオブザーバビリティを導入する企業が増えています。オブザーバビリティを活用するだけで、エンジニアとチームの「SREスキル」のスタートラインを大きく前進させることができるからです。

 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)では、クラウドサービス基盤の開発・運用を担うチームが、SREの考え方を採り入れてチームの変革に取り組んでいます。ユーザー体験を起点に解決すべき問題・改善すべきポイントを理解することで、エンジニアの意識が「作っているのはシステムでなくサービスである」というものに変わってきたといいます。CTCは、オブザーバビリティを活用し、ビジネスの成果に具体的に貢献できるエンジニアとIT部門への変革を着実に前進させています。

 デジタルサービスの拡充とともにシステムは大規模化・複雑化していきます。エンジニアの能力だけで、アプリケーションとインフラを隅々まで詳細に把握することが不可能だとしても、オブザーバビリティを活用すれば難しくありません。

 オブザーバビリティは、システムとアプリケーションの状態を網羅的かつ詳細に把握し、ユーザーが体験している応答時間やエラーの発生などをリアルタイムで可視化します。不具合の原因を即座に特定して迅速な問題解決が可能になるだけでなく、ユーザー体験に影響するような問題が深刻化する前に対処することも可能です。根拠のない閾値を決めてアラートが上がってから対処するような従来型のシステム監視とは大きく異なることが、ご想像いただけるかと思います。

 オブザーバビリティの適用範囲は運用段階にとどまりません。開発の現場では、テストフェーズでアプリケーション動作の詳細情報を把握することで、本番リリース前にコードの不具合や性能不足による手戻りを解消し、開発プロセス全体の高品質化、結果として高速化にも寄与します。開発エンジニアと運用エンジニアが緊密に連携するDevOpsの実践において、オブザーバビリティは欠かせない環境です。

 日本最大級のデリバリーサービス「出前館」を運営する出前館では、オブザーバビリティを活用してDevOpsによるアプリケーション開発の高速化・高品質化に取り組んでいます。さらに、Four Keys(デプロイの頻度、変更のリードタイム、変更障害率、サービス復元時間)を指標に、ソフトウェア開発のパフォーマンス向上にも注力しています。

 さて、ここで少し視点を変えた話を紹介しましょう。かつて、「営業改革」に取り組んだことのある企業は少なくありません。改革を成功させた企業に共通しているのは、「営業チームに閉じた改革」ではなく「顧客価値を提供するための全社改革」としてプロジェクトに臨んだことにあると私は捉えています。

 デジタルサービスやDXへの取り組みも同じです。小さく部門に閉じた活動ではなく、デジタルで新しい事業を創造しよう、新しい市場を創造しよう、新しい顧客を創造しようという全社活動であるべきです。そのためには、高い目線を持った経営者や事業部門トップによるリーダーシップが非常に重要になります。

 デジタルサービスは「完成のない永遠のベータ版」とも言われます。デジタルサービスの顧客価値はさまざまな要因で日々変動しますので、スピード感をもってサービスの投入と改善を繰り返すことが必須です。これを可能にしているのが、開発領域と運用領域が連携するDevOpsであり、事業領域を巻き込んだBizDevOpsです。この枠組みにセキュリティを組み込むアプローチも始まっています。

 オブザーバビリティは、立場の異なるさまざまな人が、正しく意思決定するための情報を即座に提供できるプラットフォームです。デジタルサービスに携わるエンジニア/IT部門、事業部門の全員が、自分に必要な情報を即座に参照できる。どのような組織でも、組織がどんな形に変化しても円滑にコミュニケーション・連携できる――そうした環境を整備することが、企業と組織のデジタル競争力を高めることにつながると私は確信しています。

 私たちは、世界を驚かせるようなデジタルサービスが、次々と日本企業から生まれてくる時代のど真ん中を生きています。そして、オブザーバビリティの活用は、日本を代表する大手企業からデジタルネイティブなベンチャーまで、デジタル競争力向上に取り組むあらゆる企業へと大きな広がりを見せています。日本企業のデジタルサービスとDXへのチャレンジに、オブザーバビリティがさらに貢献できることを願わずにはいられません。

 最後に、エンジニアの方へメッセージを贈りたいと思います。オブザーバビリティは「エンジニア個人」にもさまざまなメリットをもたらします。オブザーバビリティを使いこなして、SREの考え方が実践できるエンジニアの市場価値はますます高まっていくでしょう。

 さらに、オブザーバビリティが、開発生産性、機能実装の成果、サービス品質の向上など「自分の仕事のクオリティを具体的に示す」という事実にもご注目ください。アジャイルでどんどん開発・改善していくプロセスは、既存のシステムを壊していく作業でもあります。そうした条件下でアプリケーションの品質を正しく維持・向上させ、安定的にデジタルサービスを提供している「事実と根拠を客観的に示す」ことができるのはオブザーバビリティだけです。私は、「エンジニアこそがプロフィットの源泉である」という共通認識が、日本でも醸成されつつあると肌で感じています。

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