知識と革新の中核担うスイス連邦工科大学–スピンオフ企業も続々

今回は「知識と革新の中核担うスイス連邦工科大学–スピンオフ企業も続々」についてご紹介します。

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 在日スイス大使館は、「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)へのパビリオン出展に向けて、2022年9月からコミュニケーションプログラム「『Vitality.Swiss』-ゆたかな未来って?」を展開している。スイス・パビリオンでは、「ヘルシーライフ」「持続可能な地球」「人間中心のイノベーション」を柱とした展示を予定しているという。

 同大使館は11月、Vitality.Swissの一環として、AIと量子技術をテーマにプレスツアーを開催。本記事では、スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH Zurich)のAI研究拠点「ETH AIセンター」の取り組みとETH Zurich発のスタートアップ企業Tethys Roboticsの挑戦を紹介する(Vitality.Swissシリーズの2本目)。

 ETH Zurichは1855年、知識と革新の拠点として設立された国立大学。Albert EinsteinやX線を発見したWilhelm Conrad Rontgenらノーベル賞受賞者を数多く輩出しており、英国の教育誌「The Times Higher Education」が発表した「World University Rankings(世界大学ランキング)」2023年版では11位にランクインした。世界120カ国・2万4500人以上の学生が在籍し、日本からも42人が留学している。姉妹校として、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)がある。

 ETH AIセンターは2020年に発足。教職員41人、博士号取得者や博士研究員114人で構成され、ETHの16学部間を橋渡ししている。

 同センター発足の背景について、サイエンスコミュニケーションマネージャーを務めるHelga Rietz-Pankoke博士は「ETHでは数十年前からAIを研究しており、医学や純粋科学、応用化学、工学の教授は当時、機械学習(ML)技術を用いていた。しかしわれわれは、アルゴリズムの基礎を開発し、現状を把握しているコンピューターサイエンスと数学の学部間で、より緊密な関係と交流を作り出す必要性を認識した」と説明する。

 ETH AIセンターでは、主にコンピューターサイエンスと数学の学部でAI理論・基礎・方法/システムに取り組んでおり、応用分野として「スマートシティーにおける小売とモビリティー」「人間中心のAIと拡張現実」「サステナビリティー(持続可能性)のためのAI」「ロボット工学と自律システム」「デジタルヘルスと医療AI」などがある(図1)。

 AIは多種多様なサービスで活用されているが、現時点では決して完璧ではない。Pankoke博士は「もし皆さんが書きたい手紙に対して『ChatGPT』の提案内容がひどかったら、破棄して自力で書き直せばいい。しかし、医療・看護、司法、ガバナンス、教育などの重要な領域でAIが間違えることは許されない」と警鐘を鳴らす。

 ETH AIセンターは、こうした重要な領域で機能するAIの開発を目指している。同拠点は、信頼できるAIのパラメーターとして「堅牢(けんろう)性」「公平性」「プライバシー」を掲げている。

 初期のAIは「4本足で牧草地に立っている動物」を全て牛と認識してしまった一方、海岸や路上に立っている牛は認識できなかった。画像認識のアルゴリズムを病院での診断などに活用する場合、堅牢性は必須となる。そこで同拠点は、写真に写っているものだけでなく、最も重要な画素を示す画像認識のアルゴリズムを研究している。

 Pankoke博士は「トレーニングデータにおいて各グループが異なる程度で表現される時、常にバイアスが作用する。こうしたバイアスは『ジェンダーと専門職』、あるいは『医療における民族的帰属やジェンダー』でよく起きる」と指摘する。これに対し、合成データを活用して分布を均等にする手法や、各グループにおけるバイアスの度合いを定量化して考慮する手法が考えられるとする。

 ChatGPTの言語モデル「GPT-2」では、ある方法でプロンプトを入力すると、特定の人物の連絡先情報を提供してしまっていたという。データポイントを隠さなければいけないことをAIに伝える技術は存在するといい、ETH AIセンターはデータをそのまま出さないようにするツールの開発に取り組んでいる。

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