VUCA時代にIT部門が必要とするミッション・ビジョン・バリュー策定の勘所

今回は「VUCA時代にIT部門が必要とするミッション・ビジョン・バリュー策定の勘所」についてご紹介します。

関連ワード (CIO/経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 データやテクノロジーの活用が企業の競争力を左右する中、IT部門は“受け身の姿勢”から“業務部門と共に価値を創出する部門”に変わることが求められている。その一方、環境変化が激しいことから先を読むことが難しく、組織運営の難易度は増しており、加えて日本人の仕事に対する熱量は低下していると言われる状況だ。

 そこでIT部門の変革実現のための取り組みとして、IT部門の「ミッション・ビジョン・バリュー」(MVV)を策定し、変革の礎にしようとする動きがある。本稿では、IT部門が変革し、“熱量”を取り戻すためのMVV策定について、IT部門全員が参加し“ボトムアップ型”で取り組んだ事例を交えて紹介したい。

 テクノロジーの進化や新型コロナウイルス感染症に代表されるようなパンデミック(世界的大流行)による急激な経済環境の乱高下など、現代は先が読めないVUCAの時代である。VUCAとは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った造語であり、この4語が表すように、現代は変動が激しく、不確実で、複雑かつ曖昧な状態が続いている。

 この現代において、組織運営の在り方も大きく変化した。これまでは組織のトップが変革に向けた方針を考え、目指す姿を示し、メンバーはそれに従い業務を行うことが通例であった。しかし、急激・非連続な変化が続く現在、これまでの延長線で将来を考えて先を予見することは困難である。

 よって、組織のメンバーの各人が未来の組織の目指す姿を考え、それをメンバー間で討議し、すり合わせ、目指す姿を実現する施策をバックキャスト(未来の姿から逆算)で考え、自律的・継続的に業務を変革しながら進める必要がある。これは組織運営の難易度が格段に増していることを示している。

 個々が組織のあるべき姿を考える必要性があることを述べたが、今の日本において、そのハードルは高い。理由は、日本人の仕事に対する熱量が低いためである。米調査会社Gallupが2023年に実施した調査によれば、日本における「熱意あふれる社員」の割合は5%で、調査対象国125カ国のうち最下位である。

 反して、IT部門に求められる姿勢は大きく変化した。従来の企業経営は事業の安定的な運営と成長が重要であり、IT部門はそれを支えるシステムを低コストで実現し、堅牢に運用することが重要であった。IT部門は業務部門からの依頼に基づいてシステムを提供する、受け身の姿勢になりがちであった。

 しかし、ビジネス環境の変動が激しく、かつテクノロジーが進歩する中、企業経営は時代の動きに合わせて常に変革しながら成長することが必須となり、IT部門が提供するシステムも変化に柔軟で、業務変革を実現する必須手段の位置づけに大きく変容した。IT部門は受け身の姿勢から、業務部門と共に価値を共創する姿勢へ変化しなければならなくなった。これは、IT部門自らが変革しなければならないことを意味している。

 このようにIT部門が変革しなければならない状況下、筆者が所属するクニエにはIT部門の変革の手段にMVVを策定して、変革を推進したいという相談が多数寄せられている。MVVは、もともとは経営者が自社の目指す姿を社内外に示し、その姿に向けて変革するための羅針盤としてきた。それを応用し、IT部門に所属するメンバーに対してIT部門の変革に向けたあるべき姿・行うべき方向性を示すのに活用したい意向だ。

 実際にMVVを策定しようとすると、3パターンのアプローチに分類される。

 以前は、既存の延長線で組織のトップが方針を考えており、企業の単位であれば経営トップが、IT部門であれば最高情報責任者(CIO)やIT部門長が策定するといったトップダウン型、あるいはCIOやIT部門長が指名したメンバーが策定し、展開するアプローチが主流であった。

 ボトムアップ型が採用されない理由は、容易に想像できる。関わる人数が多くなれば、一堂に会するための時間調整の難度も増す。人数が多くなれば意見が発散する幅が広くなり、意見を集約する労力も甚大である。

 しかしながら、トップダウンや中間型で策定したMVVは、この時代において効力を発揮するのは困難である。IT部門の変革のためにトップがMVVを策定したある企業で、MVVがIT部門のメンバーに浸透しているかを調査したところ、なんと70%のメンバーは「MVVを理解していない」「自身の業務と結び付けられてない」という回答であった。つまり、IT部門の変革以前の状態であった。

 このような事象と同様に、「MVVを策定したが、それに向かってメンバーを動かすのが難しい」「そもそもチームを一枚岩にするにはどうすればよいか」と悩まれている方は多いのではないか。そこで、難易度が高いと思われがちな「ボトムアップ型」のアプローチについて、筆者らが支援したIT部門のMVV策定の事例を紹介したい。

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