国立情報学研究所 喜連川所長の就任10年目、新事業に向けた決意
今回は「国立情報学研究所 喜連川所長の就任10年目、新事業に向けた決意」についてご紹介します。
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本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、国立情報学研究所 所長の喜連川優氏と、Pexip AS. アジアパシフィック地域プレジデントのPaul Pettersson氏の発言を紹介する。
国立情報学研究所(以下、NII)は先頃、NIIの研究成果や事業活動を一般公開する年次イベント「国立情報学研究所 オープンハウス 2022」を東京のリアル会場とオンラインのハイブリッド形式で開催した。喜連川氏の冒頭の発言はその主催者あいさつと活動報告を兼ねたオープニング講演で、間もなくNIIとして新事業となる法律に関するサービスを提供することを明らかにした際に、自らの見解として述べたものである。
NII所長であり、ビッグデータ活用における研究分野の第一人者である喜連川氏の発言としては過激に聞こえるかもしれないが、同氏がこう述べたのは最近の人間社会におけるICT環境の劇的な変化が背景にある。
喜連川氏は講演で、NIIとして一大事業である学術情報ネットワークの最新版「SINET 6」が2022年5月に開通したことを受け、その高度な能力や期待される役割を説明し、ネットワークの開通に携わった関係者らと苦労話も披露。SINET 6もまさしく昨今のICT環境の劇的な変化に対応した動きである。
その上で、同氏はNII内で最近、新設した研究センターを2つ紹介した。
1つは、2022年4月に設置した「ストラテジックサイバーレジデンス研究開発センター」だ。同センターは、深刻化するサイバー攻撃に向けて「システム全体を俯瞰した影響分析」や「ビッグデータ解析・機械学習技術」を応用した対処策を国立大学法人などに提供していくとのことだ。
もう1つは、2021年7月に設置した「シンセティックメディア国際研究センター」だ。シンセティックメディアとは、顔、音声、身体、自然言語などの人間由来の情報を人工知能(AI)が学習し、本物と区別がつかない「フェイクメディア」のことだ。とりわけ、ロシアによるウクライナ侵攻以降、話題に上ることが多くなったという(表1)。
こうした動きを踏まえ、喜連川氏は「要はこれまでにも増してデータが重要になってきたということだが、改めて、今使っているデータが本当に信頼できるものかどうかが問われるようになるのではないか」
NIIではそうした観点から、学術研究者のための個人情報の取り扱い方について解説した「オープンサイエンスのためのデータ管理基盤ハンドブック」を近く公開する予定だ(表2)。
喜連川氏はこの動きについて、「NIIが初めて法律に関するサービスを提供するものだ。今、人間社会にとって最も苦難(同氏は「ペイン」と表現)なのは法律への対応だと、私は考えている。NIIではこれまでICTにおける苦難を乗り越えるべくチャレンジしてきたが、ここにきてICTをさらに活用するにも個人情報をはじめとした法律の解釈が難しい局面が増えてきた。したがって、NIIはこれから法律の対応へも研究を広げていく」と説明した。
その上で、「この取り組みがNII所長として最後の大仕事になると思うのでしっかりやっていきたい」とも。同氏によると、2022年度で所長を務めて10年の節目となり退任の運びとなるようだ。本連載でもこれまで幾度も登場していただいたが、とりわけ2013年5月10日掲載の「国立情報学研究所 喜連川新所長の決意」を読み返すと、所長として10年目に入った同氏の軌跡を感じ取ることができるので、リンクを添えておきたい。