日本IBMが示す、AIの本格活用に向けた課題と3つのアプローチ–AIの活用領域は拡大

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 日本IBMは7月12日、「世界のAI導入状況 2022年(Global AI Adoption Index 2022)」の調査結果を踏まえ、同社が考える人工知能(AI)の本格活用の推進に向けた取り組みに関する説明会を開催した。執行役員  テクノロジー事業本部データ・AI・オートメーション事業部長の塩塚英己氏は会見で、AIの本格活用に向けた3つの課題とアプローチを解説するとともに、「共創アプローチ」について説明した。

 調査は、2022年3月30日~4月12日に自社のIT関連の意思決定について何らかの知識や影響力を持つ7502人の世界の経営層を対象に実施。同調査によると、多くの企業でAIの導入は確実に進んでいる一方で拡大の余地は依然として見られ、「AIをビジネスの現場でどのように活用していくのか」という点に関心が向けられている。IBMはこのような背景を踏まえ、AIの本格活用を支援する技術の提供に注力している。

 一方、AIの本格的な活用には課題点があることが調査結果から明らかになったという。まず、AI活用で必要となる分散化・複雑化したデータの整備。次に、AI倫理や信頼できるAIへの意識が高まる一方で、それに対する企業の意欲と実際の行動に隔たりがあること。そして、人材不足の深刻化や技術面におけるノウハウを継承するためのAIを活用した自動化の推進が求められている点だ。

 これらの課題を解決するため、IBMは3つのアプローチを掲げている。1つは、データファブリックによるデータの収集や整理、統合だ。データファブリックは、分散したデータを物理的/仮想的に統合し、データ保護やデータの品質、ガバナンスを効かせ、分析やAIに適したデータを提供する。このデータファブリックを実現するためには、「マルチクラウドデータ統合」「ガバナンスとプライバシー」「カスタマー360(顧客を中心とした全方位のデータ統合)」「MLOpsとモデルの信頼性」の4つの技術要素に取り組むことが必要だとしている。IBMは、段階的に取り組む範囲を広げ、最終的には全社的なAI活用の推進とビジネス成果の実現を支援するという。

 2つ目のアプローチは、AI倫理の実践に向けた「信頼できるAI」の実現だ。IBMは早期からAI倫理に対する立場を明確化し、製品やサービスを通して顧客のAI倫理の実践を支援している。AIの本格活用にはモデルの精度だけでなく、倫理面も考慮し、ビジネス上で最適な判断をAIモデルが支援できるかが今後重要になるという。

 信頼できるAIを実現するためには、データ/モデル/プロセスの3つの領域の信頼を獲得する仕組みの構築が必要になると、IBMは考えている。品質やセキュリティを担保したデータは、データファブリックが該当する。また、モデルに対する信頼を実現するには、機械学習オペレーション(Machine Learning Operations:MLOps)の仕組みを構築し、モデルの開発・実行に加えて運用環境における説明性や公平性などを確保するため、継続的なモニタリングにより、多角的にモデルの信頼を獲得することが重要になる。

 そして、プロセスに対する信頼を実現するためには、AIライフサイクルの自動化を支援し、AI活用全体の一貫性や効率性、透明性を向上させる。AIライフサイクルを通して生じる情報の収集とトラッキング、そしてAIモデル運用の統制とリスク管理。これらのテクノロジーを活用し、AIライフサイクルを反復可能なものにすることで、プロセスに対する信頼を確保できるという。

 このデータファブリックと信頼できるAIの領域を支えるのが、IBMが提供するデータプラットフォーム「Cloud Pak for Data」。特にデータファブリックを実現するための4つの技術要素を継続的に強化しており、6月にはCloud Pak for Data 4.5をリリースしている。

 また、IBMはデータオブザーバビリティー(データの可観測性)のソリューションを持つDataband.aiを買収。品質の悪いデータを検出し、修正支援を行うソフトウェアを用いて、信頼できるデータの領域強化とデータファブリックソリューションの拡大を図るとともに、エージェント型の監視ソリューション「Instana」を併用することで、AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)領域の網羅性拡大につなげていく。

 3つ目のアプローチは、AIを活用した自動化だ。AIの導入が進む中で、スキル不足や人材不足などを要因に自動化におけるAIの活用が増加しているという。IBMでは、ビジネスとIT業務の自動化に必要となる各技術要素に自然言語処理や機械学習などのAI技術を搭載し、AIの幅広い活用を目指す。また、ハイブリッド環境に必要となるアプリケーションとデータを接続する統合領域にも注力している。

 AI活用によるこれからの自動化は、従来の単一タスクをより横断的なプロセスへ拡大し、構造化・非構造化を含めた多様なデータの活用に広がる。また、アクションの面では静的なものから動的・予見的対応へと進化すると、IBMは考察している。

 ビジネスの自動化は、「点の自動化」から「線の自動化」へと進化している。塩塚氏は「これらは、生産性の向上や業務効率化に寄与してきた。しかし、さらなる効果を得るためには、複数の業務や組織全体への『面の自動化』を適用する、ハイパーオートメーションが重要になる。IBMでは、ハイパーオートメーションを実現するために単一プラットフォームで実践できるIBM製品での業務自動化を支援していく」と述べた。

 テクノロジーの多様化やデータの分散化などによりIT環境の複雑さは増しており、大量のアラートやイベントを識別し、最適な判断とアクションにつなげるため、IT運用にAIを活用するAIOpsに対する関心が高まっているという。AIOpsの実現には、可観測性/最適化/予見的対応の3段階におけるフィードバックサイクルの確立が必要となる。IBMはAIOpsの領域においてAI技術の組み込みと買収を促進した結果、網羅したAIOpsソリューション群を提供できる体制を整えている。

 IBMはAIを中心としたテクノロジーを活用し、顧客や社会の課題を解決するため、新たに共創アプローチを提唱している。共創パートナーシップにより、顧客や社会のテクノロジー活用を加速させることが狙いだ。共創活動を強化するため5つの共創センターを設立し、共創機会の創出を図る。また、「IBMテクノロジー・ショーケース」を準備し、製品やテクノロジーを利用したハイブリッドクラウドとAIソリューションを見学、体験、理解するデモツアーを展開している。

 そして、この共創を推進するため、顧客と共に共創活動を行うクライアント・エンジニアリングなどを増員し万全の体制を整えた。IBMは、共創における環境/体験/体制の各側面から、顧客と共に創り上げる共創活動を促進していくという。

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