第58回:社内のITリテラシーとひとり情シスとの関係
今回は「第58回:社内のITリテラシーとひとり情シスとの関係」についてご紹介します。
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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
ひとり情シスにとって厄介な悩みの一つは、社員の「ITリテラシー」です。「リテラシー」とは「読み書きする能力」を意味します。米国では、米国図書館協会(ALA)が1980年代後半に「情報リテラシー」(情報活用能力)という基準を作成しました。これは、必要とされる情報の種類と範囲を決定し、効果的かつ効率的に探索して、理解・活用することのできる能力と定義されています。米国企業では、一般教養と並ぶビジネススキルの一つとして認識されています。
日本の情報リテラシーは、情報機器や情報通信などを活用する能力といったニュアンスが強く、本来の意味とは少し異なっています。「リテラシー」という単語が分かりにくいため、言葉が一人歩きしているのかもしれません。もし、情報リテラシーが「情報探索能力」などといった言葉で広まっていたら、スイスのローザンヌに拠点を置くビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)が毎年公表する世界デジタル競争力ランキングの順位は変わっていたかもしれません。2021年のランキングで日本は64カ国中28位でした。驚くべきことに、日本のデジタルテクノロジースキルは下から2番目の62位であり、世界の底辺レベルです。
中堅中小規模の企業では、ITに関するあらゆる不明点を社内のひとり情シスやIT担当者に問い合わせることがあります。同じような質問を何度も繰り返したり、インターネットで少し調べれば分かるようなことを、わざわざ電話で聞いてきたりするのです。厄介なことに、質問者に悪気はなく、それがIT担当者の仕事だと思い込んでいるのです。あまり対応が悪いと苦情を受けるかもしれませんし、新システムを導入する際には協力してもらいたい。そうした意識から、丁寧に対応せざるを得ません。
そのため、IT担当者は「検索代行者」のような存在になってしまい、貴重な時間を削られ続けることになります。しかし、ひとり情シスの仕事にはシステムの設計やプログラムの開発も含まれます。このような割り込みは思考の断絶になるので、削られているのは単なる時間だけではありません。
ある会社では、ひとり情シスが本来の業務に支障を来すほど、社内の問い合わせ対応に忙殺されていました。ある時、それを知った社長は問い合わせの中身を分析したところ、わざわざIT担当者を煩わすほどのものではなかったり、同じような質問が繰り返されていたりしていました。そこでイントラネットの社内掲示板にマニュアルやFAQ(よくある質問)をまとめた上で、事前にそれを確認するよう社員に徹底させました。
その結果、社内のITリテラシーは改善され、ひとり情シスへの質問は激減しました。自力では解決できない問題の時にも、「ねぇ、ちょっとうまくいかないんですけど、少しだけいいですか?」と、当たりの柔らかいアプローチに変わったそうです。
情報リテラシーの基準を作成したALAは、2013年に「デジタルリテラシー」を定義しました。デジタルリテラシーとは「情報通信技術を使用して情報を検索、評価、作成、およびコミュニケーションする能力であり、コグニティブ(認知)スキルと技術スキルの両方を必要とする」ものであり、情報リテラシーよりも広範囲で能動的な概念です。
日本と世界との差はますます広がるかもしれません。日本の多くの中堅中小企業でひとり情シスや少人数情シス達がユーザーの質問に献身的に対応していることが、デジタルテクノロジースキルをユーザー自身が磨かなければならないことを忘れさせてしまい、ひいてはこの国の競争力を下げてしまっている気がします。