AWSら、深刻化するドラッグラグ解消に寄与–ヘルスケア業界のクラウド活用事例
今回は「AWSら、深刻化するドラッグラグ解消に寄与–ヘルスケア業界のクラウド活用事例」についてご紹介します。
関連ワード (クラウド等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は11月8日に記者説明会を開催し、「ヘルスケア業界のクラウド活用」における最新事例の紹介を行った。
今回の取り組みは、治療用アプリの開発や臨床試験の支援を行うサスメドが、AWSの「Amazon Managed Blockchain」のブロックチェーン技術を用いて、製薬会社であるアキュリスファーマの臨床試験/治験を支援するというもの。説明会には、サスメド 代表取締役の上野太郎氏と、医療用医薬品の開発、輸入・製造、販売を行うアキュリスファーマ 臨床開発部長の小沼淳一氏が登壇した。
説明会の冒頭で、AWSジャパン 執行役員 パブリックセクター 統括本部長の宇佐見潮氏は、ヘルスケア業界を取り巻く状況について、「昨今、病院をターゲットにしたランサムウェアが頻発しており、ヘルスケアに関わるセキュリティやコンプライアンスは最優先課題となっている。また、規制が強く、専門性が高いことからヘルスケア業界に参入するプレーヤーは限られており、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進みづらい環境にある」と指摘。「AWSのクラウドを通して、デジタル化や真のDXを提供し、患者や患者の家族を含めた幅広い市民を中心に、より良い医療・ヘルスケア体験の実現を目指していく」と話した。
AWSジャパンは、患者・市民を中心にそれらを取り巻くステークホルダー、ヘルスケアプロバイダー、規制を統括する政府、ヘルスケアのソリューションを提供するベンダーを支援している。ヘルスケア業界の中でも、製薬関連の新薬開発の領域では早期からクラウドを活用しているという。今回、同社が支援の対象とするのは、「創薬研究」「臨床開発」「製造」「営業・マーケティング」「患者支援」の製薬バリューチェーンの各段階の中で、創薬研究と臨床開発になる。
同社 事業開発本部 シニア事業開発マネージャー(ヘルスケア) 遠山仁啓氏によると、ヘルステック企業では「貴重なエンジニアリソースは運用・保守ではなく、価値の高いサービス開発に集中させたい」「インフラ管理の負担から解放されたい」「運用コストを効率化したい」という課題を示しているという。この課題を解消するサービスとして、サーバーレスアーキテクチャーであるAmazon Managed Blockchainを挙げた。
Amazon Managed Blockchainは、オープンソースフレームワークの「Hyperledger Fabric」や「Ethereum」を使用した、スケーラブルなブロックチェーンネットワークを簡単に構築・管理できるフルマネージドサービス。サーバーレスアーキテクチャーは「サーバー管理が不要」「柔軟なスケーリング」「十二分に考慮された高可用性」「アイドル状態ではコストがかからない」といった特徴があるとしている。
遠山氏は、「サーバーレスアーキテクチャーを活用することで、ユーザーの運用・保守の手間を省き、サーバーの存在を意識させないことで、患者や市民に重点を置いた課題解決に専念できるのではないか」と期待を寄せた。
ブロックチェーン技術を活用した事例紹介で上野氏は、「サスメドはブロックチェーン技術を用いた治験の効率化による持続可能な医療への挑戦をしている」と話した上で、日本における新薬開発の現状について説明した。
「グローバルで見ると、日本の新薬開発の貢献度合いは2016年まで米国、欧州に続き第3位であったが、2021年では中国に抜かれ、プレゼンスが低下している。また、欧米で承認されているにも関わらず、国内で利用できない薬は年々右肩上がりになり、2020年には72%に上った」
日本のドラッグラグ/ドラッグレスの要因となるのは、「医薬品開発の臨床試験のハードルの高さ」だという。臨床試験を実施する場合は、外部の医薬開発業務の受託企業に依頼し、治験を行う。臨床試験の実施では規制対応が求められ、試験データの真正性を示すため、人の目で原資料と報告用資料の照合を行うダブルチェックで真正性を担保してきたという。そのため、受託企業への委託費用のうち、モニタリングコストが半数を占め、開発費が高騰するという結果になっている。
サスメドは新薬開発のハードルを下げるため、ブロックチェーン技術を用いたデータの真正性の担保に取り組んでいる。2019年には、内閣府のサンドボックス制度で治験や特定臨床研究のモニタリングにおいてデータの改ざんが困難であるブロックチェーン技術を活用した実証実験を行い、結果として、ダブルチェックを行わなくてもデータの信頼性が保証され、規制をクリアできることを立証した。
この実証実験を受け、治験の規制に対してブロックチェーン技術を活用した場合は、データの真正性が担保されているとし、治験の規則に違反していないと、2020年12月に厚生労働省と経済産業省が正式に発表している。これにより、ブロックチェーン技術を活用して効率良く治験を実施することが公的に認可された。
ブロックチェーンを活用する利点としては、耐改ざん性や耐障害性、プロセス効率化、記録の透明性がシステムで担保できる点だと、上野氏はコメント。また、クラウドサーバーへの技術実装により、AWSの障害時においてもオートスケーリングとブロックチェーンを組み合わせることで、ゼロダウンタイムで実証実験を行うことができたという。
ブロックチェーン技術の実装により、モニタリング業務を省力化しつつ、医療機関の原資料をブロックチェーン経由で症例報告書につなげることができるため、データの転記やブロックチェーンのデータ改ざんを防ぎ、照合作業なしでもデータの真正性を担保できる仕組みになっている。そのため、治験の依頼者である製薬企業はコストを削減でき、新薬開発に挑戦しやすくなる。また、受託企業も対応可能な治験数が増加し、データの品質改善に寄与できるとしている。
サスメドのブロックチェーン技術を臨床試験で活用するアキュリスファームの小沼氏は、「規制要件とデジタル技術の進展により、医薬品開発の効率化の土壌は整いつつあるが、品質の確保は製薬会社の責任になる。結果として、製薬会社の多くは革新的なアプローチの導入に消極的になってしまう」と、製薬会社におけるデジタル化について言及。また、医薬品開発のコストは増加する一方で、開発の成功率が上がらず、リスクを取りがたい状況になっているという。
「当社も治験の効率性やデジタル化を進めたいが、信頼性を損ないたくないという思いだった。そこでサスメドのブロックチェーン技術を導入することで、品質を確保しつつ業務効率を改善し、新薬開発のコストとリソースの適正化を実現した。これにより、日本の医薬品開発の効率向上に寄与し、ドラッグラグの解消に寄与していく」と話した。