ソフトウェアの「部品」プラットフォームを目指すラキールの狙い

今回は「ソフトウェアの「部品」プラットフォームを目指すラキールの狙い」についてご紹介します。

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 ソフトウェアの部品化と再利用によって、システム構築の生産性を大きく向上させる――。これはIT業界の長年のテーマだが、この数年話題に上ることはなかったように思う。そんな中、2021年に株式公開したラキールがソフトウェア部品市場の立ち上げに本格的に乗り出したことを知った。代表取締役社長の久保努氏がソフトウェアの部品化に着目したのは約20年前。ソフトウェア部品の品ぞろえと流通の仕組みがIT産業の構造を変革させると考えている。

 ソフトウェア部品化に取り組んだ技術的な背景について、久保氏はインターネットとクラウド、マイクロサービスアーキテクチャーの3点を挙げる。これらの技術を用いてソフトウェア部品の開発運用基盤(プラットフォーム)を構築し、画面系の部品を1000種類弱、ビジネスロジック系の部品を3000種類超、それぞれ用意した。これら共有部品に加えて、業務アプリケーションに必要な機能部品をそろえるため、ユーザーには個別開発した機能の部品化を、IT企業にはソフトウェア部品の開発強化を働きかけている。

 ラキールでは、ソフトウェア部品を流通させるマーケットプレイスのような仕組みも構築する。海外の巨大プラットフォーマーのようにマーケットプレイスから利益を得る考えはないという。ラキールの収益源は、あくまでプラットフォームである。その狙いの一つは、ソフトウェア部品産業を創出し、大手システムインテグレーター(SIer)を頂点とする多重下請構造を変えていくことにある。ソフトウェア部品の流通が活発化すれば、それらを見定めたり、組み合わせたりするエンジニアやコンサルタントなどの新しい職種が生まれる。ソフトウェア部品を売買するビジネスも生まれるだろう。そうなれば、既存の人材をソフトウェア部品の開発エンジニアやコンサルタントに再教育していくことになる。

 同社は、こうしたソフトウェア部品を組み合わせたシステム開発の考え方に賛同するユーザー企業やIT企業などの仲間を増やしている。現在のユーザー数は約340社で、三菱商事をはじめとして3分の2が上場会社だという。一方のパートナーはまだ数社で、中小企業から大企業へと広げているところという。ローコード/ノーコードツールで不足機能や部品自体を開発できるようにする。

 1964年生まれの久保氏は、1988年に三菱商事と日本IBMの合弁会社に入社したのを皮切りに、Javaをメインにしたシステム開発会社、業務アプリケーションの開発会社へとキャリアを重ねてきた。その中で、メインフレームやクライアント/サーバー、ウェブシステムなどの開発経験を積んできた。この間、ソフトウェア部品の開発・普及に取り組み続けるものの、久保氏が思ったようなビジネスをなかなか展開できなかったという。チャンスは業務アプリケーションの開発会社が事業分割した子会社をMBO(マネジメントバイアウト)したことで訪れる。

 それがラキールになる。業務アプリケーションのカスタマイズや保守などの既存ビジネスを続ける一方、2019年にソフトウェア部品の開発運用基盤の初期バージョンをリリースする。だが、「思ったような感じではなかったので、いったん売るのを止めてブラッシュアップし、2021年の上場時に大々的に売り出した」と久保氏は振り返る。20年前に考えていたことに、ようやく本格着手できた。

 ラキールの事業は順調に推移している。2022年度(12月期)の売上高は前年度比18%増の68億8000万円、営業利益は同40.6%増の7億7200万円だった。売り上げの58%が基盤や部品などのプロダクトサービスである。2023年度も開発運用基盤やソフトウェア部品の大きな伸びを見込み、売上高が22.2%増の84億900万円、営業利益が16.7%増の9億100万円を計画する。プロダクトサービスの構成は60%を超えるだろう。

 好調な業績は、同社の開発運用基盤を使ったシステム開発が急増していることを物語っている。久保氏によると、「当社の技術や取り組みに賛同してくれるユーザーが増えている。商社や生命保険、銀行、ネット証券などが新規ビジネスや業務改革などの折に採用してくれている」という。だが、同氏は開発運用基盤や部品の売り方、普及の仕方に不足を感じ、賛同する仲間を増やす新たな施策を考えている。しかし、その内容はまだ明かせないという。

 ソフトウェア部品の開発運用基盤の普及ペースが、システムをスクラッチで開発したり、パッケージソフトにアドオン開発したりするSIerに大きな影響を及ぼす日を予見させる。

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