IT人材とIT産業の集積地を目指す–信州ITバレー推進協議会の取り組み(前編)

今回は「IT人材とIT産業の集積地を目指す–信州ITバレー推進協議会の取り組み(前編)」についてご紹介します。

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 「デジタル田園都市国家」や「地域DX推進ラボ」など、政府が各地域・自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に注力している。少子高齢化による労働力不足や環境問題の解消など、持続可能な地域社会には地域のDXが急務だ。

 変化に富んだ豊かな自然環境や農産物、首都圏からのアクセスの良さなど、地理的なメリットによる快適な住環境と暮らしやすさが自慢の長野県では、「長野県DX戦略~Society 5.0時代の新たな信州への道しるべ~」と題し、県内のあらゆる分野におけるDXを推進している。

 この戦略は、長野県総合5カ年計画「しあわせ信州創造プラン2.0」で掲げられた「先端技術を最大限に活用する」ことを具体化したもの。5Gなどのインフラ整備を促進し、同県を県民や地場企業に加えて、県外の人や企業にとって魅力的な地域にすることを目的にしている。なお、2023年度から新たな総合5カ年計画とDX戦略がリリースされる。

 長野県DX戦略では、行政事務や教育、医療、地域交通、インフラなどのDXを実施する「スマートハイランド推進プログラム」と、県内全ての産業のDXを後押しする「信州ITバレー構想」の2つで推進している。今回は、信州ITバレー構想を進める「信州ITバレー推進協議会」(NIT)を訪ね、長野県産業振興機構(NICE) 新産業創出支援本部 ITバレー推進部 部長の小林一真氏にNITの取り組みや同県のDX推進状況について話を聞いた。

 同県は、高い技術力を持つ製造業の集積があり、情報通信機器や電子部品の製造出荷額は全国でも高い水準を誇る。また、IT産業の事業所数は一定の集積が見られる一方、IT産業の従業員一人当たりの売上高の進捗(しんちょく)が思わしくなく、2018年の県内企業における人工知能(AI)やIoTなどのデジタル技術の導入率はわずか9.4%だったという。

 このような課題を背景に、同県はSociety 5.0時代を共創するIT人材・IT産業の集積地として、2019年から「信州ITバレー構想」を掲げて取り組んでいる。同構想を推進するNITは、NICE(当時は長野県テクノ財団)内に2020年1月に設置され、2023年1月末現在で産業界、大学、自治体などを合わせて構成員は53機関に上る。

 同協議会は、(1)IT産業売上高を従業員一人当たり1507万円(2017年実績)から2025年までに2000万円に引き上げる、(2)IT事業所数を474カ所(2017年実績)から2025年までに700カ所に増加させる、(3)AI/IoTなどの導入率を9.4%(2018年度調査)から2023年までに50%に引き上げる――を推進目標に掲げる。

 同構想の実現に向けたエコシステムを形成するため、NITでは「IT企業の開発力向上やビジネス創出支援の強化」「全ての産業のDX推進によるIT企業活躍の場づくり」「県内でグローバルに活躍するIT人材の育成・誘致・定着」――の3本柱を中心に取り組んでいる。

 県内企業と県内IT企業の共創による革新的なITビジネスの創出や誘発を目的に、2021年度から「コンソーシアム活用型ITビジネス創出支援事業」を開始した。同事業では、地域・企業のニーズを踏まえたハッカソンや製品開発アイデアソンの開催、先進事例研究などの取り組みの支援、産学官連携による地域課題解決や産業DXにつながるシステムを開発する県内IT企業を対象に、最大500万円の補助事業を実施。県内IT企業の受託型から開発型への転換を図っている。

 同事業における2022年度の主な採択事業は、空間補正技術による地域課題解決ITシステムの開発を行うAB.do(長野市)や、スキー場の最新コンディション情報を配信するためのウェブサイトおよびモバイルアプリケーションを開発したSKIDAY(北安曇郡白馬村)など、同県ならではの地域課題を解決し得る事業など、12件が採択された。このほか、過年度にはニューノーマルに対応した仮想現実(VR)を用いた教育システムの開発を行う雪雲(長野市)などが採択されている。

 加えて、長野県に事業所を新設する情報サービス業、インターネット付随サービス業などのIT事業者に向けた「ICT産業立地助成金」を設け、設備や賃貸、新規雇用に対して助成を行う。既に、システム開発部門の強化を目的に凸版印刷が飯綱町にシステム開発拠点を新設したり、善光寺門前にシソーラスがITを活用したビジネスプラットフォーム開発拠点を設けたりと、支援事例は多岐に渡る。

  また、県外からのIT人材・企業誘致として「リゾートテレワーク推進事業」を実施。「信州リゾートテレワーク」は、普段のオフィスや自宅ではなく、信州ならではの魅力に触れながら仕事をする新たなライフスタイル。地域の魅力的な人々と交流しながら仕事をしたい、プロジェクトチームの合宿をしたいなど、企業の多様なニーズに対して県内の100を超える受け入れ施設が応え、ビジネス創出・誘発につながる環境を整えている。

 情報処理推進機構(IPA)が実施する「地方版IoT推進ラボ」の指定を受けた「AI・IoT等先端技術利活用支援拠点」(長野県 IoT推進ラボ)をNITの事務局に設置し、県内のあらゆる産業分野の事業者を対象に、AI/IoT、ロボティックプロセスオートメーション(RPA)を活用した生産性向上を支援している。

 同ラボには2022年から2人の「産業DXコーディネータ」を配置し、ユーザー企業や地域の産業支援機関におけるデジタル技術活用の支援として、相談対応やセミナー・研修会などを通した企業内人材の育成支援、IT企業へのマッチング対応などを実施しているという。

 研修プログラムの「IoT導入研修」では、実際の企業をモデル企業として設定し、参加者はモデル企業の経営課題の把握と、デジタル技術を活用した解決提案を行う。これにより、参加者のデジタルリテラシーの向上と、受け入れ先となったモデル企業における経営課題の解決、県内IT企業によるデジタルソリューションの導入につながるとしている。

 このような継続的な取り組みが評価され、2022年度には経済産業省の「地域デジタル人材育成・確保推進事業」を受託し、全国のデジタル人材育成に関わる現場研修先の掘り起こしや伴走支援も行っている。

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