ネットワーク運用へのAI導入を進めるジュニパー、生成AIで加速へ
今回は「ネットワーク運用へのAI導入を進めるジュニパー、生成AIで加速へ」についてご紹介します。
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ジュニパーネットワークスは、6月に開催された「Interop Tokyo 2023」に先駆けてネットワーク運用でのAI活用(AIOps)を促進する複数の取り組みを発表した。ネットワークのAIOpsの狙いや意義などについて米Juniper Networks エンタープライズマーケティング担当副社長のJeff Aaron氏に聞いた。
同社は、これまでAIOpsでネットワーク運用の高度化や自動化を推進してきたとする。特に、2019年にクラウド型無線LANソリューションのMist Systemsを買収して以降は、Mistが得意とする無線ネットワークにおけるAIOpsのノウハウを、Juniperが得意とする有線ネットワークやSD-WANなどの領域にも拡大させてきた。
Mist Systems出身というAaron氏は、ネットワークでのAIOpsの意義として、自動化、インサイト、アシュアランス(保証)の3つを挙げる。「自動化によりネットワークを効率的に運用してコストや時間を削減できる。インサイトでは、ネットワークの状態をAIで可視化してユーザーの体験(UX)を改善できる。アシュアランスでは、ユーザーやビジネスのニーズに応えるネットワークサービスの提供を可能にする」(Aaron氏)
今回同社が発表したAIOpsの新たな取り組みは、OpenAIとの提携による仮想ネットワークアシスタント「Marvis」の強化、クラウドベースのネットワークアクセス制御(NAC)サービス「Juniper Mist Access Assurance」、Zoom Video Communications(Zoom)との協業によるオンライン会議での品質向上になる。
Marvisは、自然言語処理(NLP)技術を利用して、ネットワーク管理者によるネットワーク状態の把握や予測、トラブルシューティング、UXの可視化などの作業を支援する機能として2018年から提供するものになる。今回は、Marvisに対話型生成AIの「ChatGPT」や大規模言語モデル(LLM)の「GPT-4」を組み合わせ、ネットワーク管理者が「この色のランプの点滅はどんな意味ですか?」といった自然な言葉使いでAIOpsを実践できるようにする。
Aaron氏によると、このMarvisの機能拡張では、ネットワーク運用のリアルタイムな状況については「Mist AI」から、それ以外の質問や確認などについては、Juniperが蓄積するネットワーク運用の膨大なナレッジやドキュメントをベースとしてGPT-4から情報をネットワーク管理者に提供する。JuniperからGPT-4に送るのはクエリーや、Juniperのポリシーに準拠するデータのみとする。ユーザーに関するデータや情報などが意図せずGPT-4の学習データに利用されないようプライバシーを確保しているという。
2022年後半にChatGPTのブームがわき起こって以降、いまやベンダー、ユーザーを問わず多くの組織が生成AI技術の活用を試行している。一見すると、Marvisの機能拡張はこのトレンドに即したように映るが、Aaron氏は、実績と経験に基づいたネットワーク管理のAIOpsを実現するものだと強調する。
「生成AIの能力を引き出すには、膨大なデータの量だけでなく質が鍵になる。われわれにはあらゆるネットワーク環境について、状態の可視化や品質の向上、改善、またトラブル解決といった経験と知見が豊富にあり、それらを長年継続してLLMなどに取り入れてきた。競合の生成AIは、オンプレミスあるいは用途別に複数のクラウドを組み合わせる仕組みだが、われわれのMist AIはモダンなクラウドネイティブなアプローチになる。そもそもChatGPTもGPT-4もクラウドネイティブで、Mist AIとの親和性が高い」(Aaron氏)
次に、クラウド型NACのJuniper Mist Access Assuranceは、サイバー攻撃の侵入拡大を防ぐ意味でも多くのネットワーク管理者が希望しながら実装が難しいNACを容易に実現するという。従来のNACは、ユーザーやデバイス、サービスなどの情報に基づくアクセスポリシーの規定や適用などが非常に複雑で、ネットワーク接続の監視やログの収集管理といった運用も高度になる。また、ネットワークの物理的な構成も複雑かつ高度で、管理者が理想的なNACを実施したくてもなかなか難しい。
この新機能は、同社の「Mist Cloud」のサブスクリプションとして提供されるが、ユーザーのネットワーク接続をMist Cloudとすることで、ポリシーに基づくNACを容易に実現できるとする。Aaron氏は、「Mist Cloudはマイクロサービスアーキテクチャーで構成されているためNACについても容易に拡張でき、NACをAIOpsで可能にする」と述べる。
また、Zoomとの協業では、上述したMarvisを使って「Zoom」利用時におけるトラブル解決などを可能にする。「例えば、会議中に接続が不安定になった場合、MarvisがZoomから情報を得て要因がネットワークにあるのか、アプリケーションにあるのかを管理者に提示できるようになる。この施策は第1弾になり、今後はほかの会議プラットフォームにも広げていく」(Aaron氏)
Aaron氏によれば、こうしたAIOpsの取り組みの成果は既に多く、例えばパートナーでありユーザーでもあるServiceNowは、同社のITサービス管理とMarvisを組み合わせて、社内のトラブルチケットの発行量を90%削減した。また、アパレルのGAPは、Mist AIを用いて店舗で発生するネットワーク障害へのオンサイト対応件数を85%削減した。こうした実績から、日本やアジアなどで多数の店舗を展開する日系大手でもMist AIが採用されることになったという。
AIOpsの取り組みの今後についてAaron氏は、説明可能なAIの実現、プロアクティブなセルフサポート、セキュリティの強化、デジタルツイン、適用領域の拡大を挙げる。
「ユーザーはAIが多くのことをしてくれることに期待しているが、やはりなぜAIがそれを提示したのか、きちんと理由も明らかにすることがAIの信頼にとって不可欠だ。そして、トラブル時にAIがユーザーを助ける以上に、トラブル前にAIが先手を打って対応するワークフローを実現することにより、ユーザーが支障なくネットワークを利用できるようにししていく。また、セキュリティの向上においてもAIが不可欠になっている」(Aaron氏)
デジタルツインについては、例えば、これから構築するネットワークを仮想空間上で擬似的に再現し、仮想的なユーザーのネットワーク利用をAIで分析することにより、品質に優れた物理的なネットワークを構築できるような活用になるという。適用領域の拡大では、無線/有線LAN、SD-WANに広げてきたAIOpsをデータセンターや5Gネットワークなどに展開していく。