IT専任担当が不在できる旅館、観光業のDX–福島市に学ぶウェブ活用

今回は「IT専任担当が不在できる旅館、観光業のDX–福島市に学ぶウェブ活用」についてご紹介します。

関連ワード (マーケティング等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 地域活性化が叫ばれて久しいが、その軸の一つとなるのがシステム全般のデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。福島市の観光地域づくりを推進している法人(DMO)福島市観光コンベンション協会(福島市)も、DXに取り組みながら観光ウェブメディア「福島市観光ノート」などを展開しているが、その実情はどうなっているのだろうか。本稿では、宿泊施設向けITソリューションを展開するtripla(トリプラ)の代表取締役CEOの高橋和久が、地方都市の観光業におけるDXについて解説する。

  triplaではホテル予約エンジンやAIチャットボットなどを提供しており、企業が抱えるさまざまな課題解決をサポートしている。当社がサポートしている福島市観光コンベンション協会の場合、運営しているメディア福島市観光ノートのアクセス数をアップさせられても、観光スポットや宿泊施設の紹介コンテンツと化し、宿泊予約に関しては、オンライン旅行代理店(OTA)頼みになり、シームレスな予約導線を確保できていなかったことが課題となっていた。

 福島市観光コンベンション協会 データサイエンティスト コンテンツマーケターの三宅晃司氏は「民間のOTAは、集客効果はあるものの、どうしても手数料がかさむ。また継続的に利用することで地域外にお金が流れてしまう。そこで自社で予約システムを確立し、地域にお金を再還元する流れを作ることにつながっていく」と明かしているが、実はほかにも課題があった。

 同協会では福島市の宿泊施設の利用者に対するアンケートやふるさと納税制度の利用者のデータを保有しており、顧客情報やマーケティング材料となる膨大なデータを蓄積していたものの、有効活用ができていなかったという。

 そもそも福島市観光コンベンション協会は、福島市観光ノートの運用のほか、福島市へのふるさと納税の事務局全般や、福島市内の宿泊施設の利用者に対するアンケートを実施している。いうなれば、宿泊施設の利用者のみならず、ふるさと納税制度の利用者など福島市に興味関心がある層のデータを持ち、「デスティネーション(旅行の目的地)マーケティング」に有効活用できる材料を持ち合わせている状態だった。

 そのため、福島市観光コンベンション協会では、福島市観光ノートの発信力や、保有する顧客データを活用し、福島市観光ノート上で宿泊予約であったり、一人ひとりに応じたレコメンドを掲出したりできる、DMO版のOTAの構築を目指した。

データ取得からOTA事業までを担うDMOとは

 同協会がこれらのデータを所持しているのは、DMOであるからだ。DMOは観光庁から情報や人材、財源などさまざまな支援を受けられ、OTA機能も観光庁の調査事業に協力するという意味合いから保持している。そうした取り組みについて、三宅氏は次のように説明した。

 「今回のDMO版OTA事業は、国と福島市がやりたいと思っていたマーケティング強化の方向性が合致して実現に至った。DMO版OTAをはじめとした事業の根底には、観光産業のDX推進に関わるマーケティング強化があって、例えば観光庁が課題を提示して、どう解決していくかされわれがアイデアを出すケースもある」

 なお、今回活用した観光庁の調査事業において重視する項目の一つに「汎用(はんよう)性」があったというが、三宅氏は「我々がトリプラとともに作り上げたDMO版OTAが、ほかのDMOでも使えるような汎用性があることがポイントになると考えた。それがやがて業界全体、そして日本のためになっていく。それこそが国が求める汎用性なのではないか」と解釈したという。

 今後はOTAなどで集めたデータを基に、「福島が好きな人」に対して的確にアプローチしていく予定だという。クーポンの配布や観光に関するおすすめ情報の提供のほか、宿泊施設を予約する時に、通常予約に加えてふるさと納税制度を活用する選択肢も設け、宿泊代金の一部をふるさと納税制度でまかなうような形も検討中で、観光業の活性化と地域貢献の両立を目指している。

 今回のDMO版OTAの構築に当たり、同協会が地域の宿泊施設とコミュニケーションをとる中で、大きく分けて3つのマーケティング傾向があると感じたそうだ。

 「1つ目は、ある程度の規模がある大きな旅館などにはマーケティング担当者がいて、担当者が自分でシステムの管理や設定ができるレベルのITリテラシーを持っているため、比較的スムーズにマーケティング戦略やDXを進められているケース。2つ目は、代表者がマーケティングも担当していて、ほかの業務が忙しいためにマーケティングにまで手が回らず、繁忙期または閑散期でも適切な値段設定ができていないため、顧客へのアプローチなども後回しになっているケース。3つ目はマーケティングに対する知識が全くないという理由から、すべて外注しているケース。この場合はプロに任せられるものの、手数料がかさんでしまいがちで、自社でやろうと考えてもスイッチングコストがかかったり、契約期間の縛りがあったりして、やめにくいというデメリットがある」

 同協会では特に2つ目、3つ目のケースに対して、宿泊施設側にDX推進のためのシステム導入などもサポートしており、福島市観光ノートをOTAとして活用することを提案している。

 同メディアを通して予約を受けることによって予約情報が福島市のデータとして蓄積され、さらに宿泊施設はこれまで他社のOTAに支払っていた費用が抑えられ、余った費用を広告費などに充てられ、集客につなげられる。地域と宿泊施設の双方にとっての好循環となっていくだろう。

「お客さまを呼んでくれる」ではだめ、宿泊施設に求められる意識改革

 とはいえその道のりは簡単ではない。宿泊施設が、同協会のような観光協会に対してネガティブなイメージを持っていたり、そもそも外部からのアドバイスに抵抗を感じたりする場合もある。

 福島市のみならず、その地方ならではの商慣習から抜け出すことは難しく、新しいものを取り入れるのが難しいという例は珍しくないと、三宅氏は明かす。

 「自分たちで集客するよりも、OTAや旅行会社がお客さまを呼んでくれるという認識を持っている宿泊施設はいまだに存在する。その場合、顧客ターゲットやペルソナがそもそも定まっておらず、カスタマージャーニーマップもまとまっていないため、ゆえに客層に合わせたマーケティングもできない。ただ単にお客さまが宿泊して終わりではなく、宿泊施設として今後どうなっていきたいか、そのためにどんな施策が必要なのかを自分たちで考えなければならないという意識を持つことで、DXの必要性やマーケティング戦略の重要性を実感することにも結びついていくかもしれない」

 なお、福島市観光ノートは年間400万PVという実績があり、広告プラットフォームとしての基盤は十分。OTAとしての機能のほか、観光にまつわる情報、ふるさと納税制度の返礼品といった地域の名産品にかかわる情報などを網羅的に発信することにより、地域の観光業、ひいては地域全体を盛り上げることになっていくだろう。

 同協会では、これからも福島市との連携により力を入れ、市が行うキャンペーンやイベントとの連動企画や、キャンペーンやイベント参加者のデータを宿泊施設のマーケティングに生かすことなども考えているという。地域経済の持続的な発展のキーワードとなっている「官民連携」と「DX」だが、同協会が旅行業界におけるモデルケースを提示してくれる日が待ち遠しい。

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