スギ薬局が進める、クーポン配信の最適化–ばらまかずに売上110%実現
今回は「スギ薬局が進める、クーポン配信の最適化–ばらまかずに売上110%実現」についてご紹介します。
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リテールAI研究会は9月11日、会員企業の取り組みや海外事例を紹介するイベント「リテールAIオープンセミナー〜拡がるリテールDXの連鎖〜」を開催した。同研究会では、講師を招いて最新のAI情報を学んだり、小売向けAIの実証実験をしたりしている。
リテールAI研究会はメーカー、卸売企業、小売企業、IT企業などで構成され、会員企業にはキリンホールディングス、ローソン、NTTドコモ、日本マイクロソフトなどが名を連ねる。同研究会は、福岡県宮若市にリテールAI開発拠点「リモートワークタウンムスブ宮若」を設置し、IoT技術の開発やSNS/店頭メディアのコンテンツ作成、研究者同士の交流をサポートする施設を複数展開している。
本記事では、会員企業のスギ薬局が取り組む、自社アプリを通したOne to Oneコミュニケーションを紹介する。同社は、調剤併設型ドラッグストアをはじめ、全国で1500店舗以上を展開しており、健康の維持から終末期までを一貫して支援する「トータルヘルスケア戦略」を掲げる。デジタルの側面では、統合データベースを構築し、顧客に最適なタイミングで最適な商品やサービスを提供することを目指している。
スギ薬局のポイント会員数は、アプリとポイントカードを合わせると約2133万人。同社は、クーポンの提供やポイントの付与などを行う「スギ薬局アプリ」、アプリを起動して歩くとマイルがたまる「スギサポwalk」などを提供している。
スギ薬局アプリのダウンロード数は2023年6月時点で約1100万、2022年の平均アクティブ率は70.5%に上る。しかし、ユーザーがアプリを起動する目的はクーポンの利用などに限られており、接点を持つ時間には課題がある。
そこで同社は「手のひらにスギ薬局」というコンセプトのもと、1月にスギ薬局アプリをリニューアルした(写真1)。同構想では、店内だけでなく店外での利用も促進し、オンラインで注文した場合、受取方法を複数用意することなどを構想している(図1)。
アプリのリニューアルにおける主な変更点として、(1)開発の内製化、(2)クーポンのユーザー体験(UX)改善、(3)情報発信の場「スギチャンネル」の新設、(4)ポイント付与の整備に伴うセキュリティの改善――がある。
(1)について、セミナーに登壇したデジタルマーケティング部 部長の増田瞬氏は「もともとは特定のパッケージを利用していたが、コンセプトを実現しようとすると改修にコストや時間がかかってしまうため、いろいろなメンバーを加えて内製化することにした。初期費用はかかったが、改修のスピードは上がった」と述べた。
一方、「クーポンの出し分け」には課題がある。7月時点でメーカーによるクーポン配信は約300件に上るが、「全会員への配信」「600万人未満への配信」が多くを占め、パーソナライゼーションにはほど遠い。
これを受けてスギ薬局は、クーポン配信の最適化に向けた取り組みを行っている。例えば、全会員に100ポイントを付与していた商品において、クーポンの利用ログなどを機械学習(ML)する。同社は購入の可能性が高い2割の会員のみに配信することで、売り上げを8割程度担保するとともに、配信にかかる費用を削減する。そして余った配信費用を活用し、既存顧客により多くのポイントを付与したり、もう一度クーポンを送ったりするという。
スギ薬局は、メーカーの協力を得てボトルガムでテストを実施。会員2割にクーポンを配信し、新規顧客へのポイントを増やした場合は、従来と比べて売り上げが99%、コストが65%となった。会員2割にクーポンを配信し、既存会員へのポイントを増やした場合は、売り上げが110%、コストが84%となった(図2)。
スギ薬局は顧客の離反防止にも取り組んでおり、来店頻度などを基に「離反の兆候」を予測する。予兆を検知したタイミングでクーポンを配信し、その結果「離反防止率」を1.5%から6.5%に向上させた。同社の売上規模を鑑みると、この改善は年間10億円以上の収益向上に当たる。そもそも離反してしまう理由についても併せて分析し、新たな施策を立案しているという。
最後に増田氏は、聴講者に対し「われわれだけではどんな取り組みも実現できないので、ぜひ同じベクトルの企業さんと手を取り合いたい。私自身、定期的に宮若の拠点へ行っているので、ぜひお話しさせていただきたい」と呼びかけた。