知的財産保護の専門家が著作権法を基に整理する、生成AIの扱い方–日本弁理士会

今回は「知的財産保護の専門家が著作権法を基に整理する、生成AIの扱い方–日本弁理士会」についてご紹介します。

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 日本弁理士会は8月4日、生成AIの普及によって提起された著作権に関連するさまざまな論点や課題を整理して解説するプレス向け説明会を開催した。説明を行ったのは著作権委員会委員長の高橋雅和氏。

 ここ数年で生成AIが急速に進歩し、イラストや画像作成、プログラムコードやテキストなど、人間が作成したものと品質面で肩を並べるような成果を手軽に得られるようになってきている。当然ながら使い方次第では、他者の権利などを侵害する可能性があることが指摘されており、生成AIの出力結果をどう扱えばよいのかという点についてもさまざまな意見がある。

 こうした状況に対し、「知的財産の専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする(弁理士法第一条)」弁理士の立場から解説が行われた。

 まず説明されたのは、著作権の根拠となる著作権法の特徴についてだ。高橋氏は著作権法には「予見可能性が低い」「判断明確性が低い」という2つの特徴があると指摘した。その意味を分かりやすく言い換えると、「裁判所でしか判断できない」ということだ。

 著作権関連で紛争が起こる場合、まず問題となるのは「著作権が成立しているか(著作物性があるか)」「著作権侵害が成立しているか(類似しているか)」という2点だが、これらについて、実際に裁判を行って判決が出るまでは判断が確定しないということだ。

 同氏は過去の有名な判例である「スメルゲット事件」や「一竹辻が花事件」を紹介し、写真に対して著作権が成立している(著作物性がある)かどうか、写真を見て誰もが明快に判断できるわけではなく、専門家でも意見が分かれるような場合があると説明。さらに、著作権侵害の判例で「イラスト/画像が類似しているかいないか」が争われた例を挙げ、一般的な印象とは異なる判決が出ている例も紹介した。

 高橋氏はこうした実例を踏まえて「著作権が成立しているか否か、個別具体的なものである上、裁判の結論に対して専門家でも意見が割れることは珍しくない。外形上(ぱっと見て)即座に判断することは専門家でも難しい」と指摘した。文章を書いた/絵やイラストを描いた/写真を撮った、などの当事者本人はそれが自身の「著作物」であり、当然に著作権が発生していると考えてしまうと思われるが、裁判となると話が別ということだ。

 一般にイメージされる盗用や盗作といった著作権侵害に関しても同様で、類似しているかどうか、判決が出るまでどうなるか分からないことになる。

 次に、生成AIの著作権関連の問題について、高橋氏は学習/生成段階に分けてそれぞれ論点を整理した。学習段階では、「自分の創作物を学習されたくない」「(勝手に学習に使われていた場合に)補償してほしい」「学習されていたなら除いてほしい」の3点を挙げた上で、「そもそも自分の創作物に著作権が発生しているか」「学習内容が開示されなければ、学習されたか分からない」「学習結果から一部を取り除くのには技術的な困難がある」といった問題点を指摘し、この点に関しては「生成AI作成業者(プラットフォーム側)において、学習内容開示などの『透明性』や、情報開示などの『協力』が求められている」とした。

 生成段階では「AI生成物に著作権は認められるか」という問題と、著作権侵害の問題が挙げられた。AI生成物の著作権については、日本では著作権法第二条第一項で「著作物」を「思想又は感情を表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義しており、著作権に関しても「人間の『思想又は感情』の表現」を保護するものとされており、AIは人間ではなく「思想又は感情」を待たないことから、AI生成物には原則著作権は発生しないとする説が有力だという。

 ただし、「人間の『思想又は感情』の表現が存在し、AIをあくまで『道具(ツール)』として使用したにすぎない場合には著作権が発生する余地がある」と高橋氏は述べ、「著作権が発生しているかどうか、外形的に分からない」と指摘した。そのため、著作権ビジネスを想定しているのであれば、生成AIを使う場合にも「『著作権が生じるように』創作することが重要になる」という。

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