顧客獲得単価を51%削減–電通デジタル、生成AIサービス群「∞AI」提供
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電通デジタルは10月5日、広告マーケティング向け生成AIサービス群「∞AI(ムゲンエーアイ)」の提供を発表した。∞AIは、3種のアプリケーション「∞AI Ads」「∞AI Chat」「∞AI Contents」と、それらを支えるプラットフォーム「∞AI Marketing Hub」で構成される。
∞AI Adsでは消費者の認知獲得、∞AI Chatでは理解の醸成、∞AI Contentsではロイヤリティーの向上を支援し、顧客企業のマーケティング活動を一貫して支える。同社は主に、企業のクリエーティブ制作に活用するという。∞AI Marketing Hubは、各アプリケーションで収集されたデータを蓄積・分析し、より良いコンテンツの生成を後押しする(図1)。∞AIの大規模言語モデル(LLM)には、OpenAIの「GPT-4」を活用している。
∞AI Adsは、運用型広告制作の効率化・高度化を支援するアプリケーション。広告制作のプロセス「訴求軸の発見」「クリエーティブの生成」「効果の予測/改善」を一貫して手助けする。
同アプリケーションは2022年12月に「∞AI」という名称で一部企業へ先行提供しており、今回のアップデートに当たり、広告配信プラットフォームの種類を拡大するとともに、予測や改善案の精度を向上させた。また、バナー広告に加えて検索連動型広告にも対応した。
現在、全てのプロセスで∞AI Adsを利用している企業は26社、クリエーティブの生成までに用いている企業は100社に上る。同アプリケーションは「価格を強調する」「製品の配置を右にする」「基調となる色を赤から青にする」といった改善案を提示し、顧客獲得単価を51%削減した。
改善案の提示を生成AIが行うことで、クリエーターの業務はどのように変化するのか。同日開催の説明会に登壇した執行役員 データ&AI部門長の山本覚氏に質疑応答で聞くと、「現在のビジネスモデルでは∞AI Adsをお客さまに直接提供するのではなく、アウトプットを提供する形をとっている。しかし原理的には、お客さまの内製化を促進することも可能になっていくだろう。ただ、当社のクリエーティブチームの一番の強みは『社会をどう捉え、何を訴えかけるのか』という設計部分。これまでやらなければいけなかった煩雑な工程をAI化することで、クリエーターはメッセージの開発といった上流工程に注力できるのではないか」と回答した。
∞AI Chatは、顧客企業のデータを活用し、消費者一人一人にパーソナライズされた対話型AIの開発を支援する。企業は自社が保有するデータをCSV/PDF形式でシステムにアップロードするだけで、対話型AIを開発できる。対話型AIは、企業のウェブサイトや「LINE」などのコミュニケーションツールとも接続可能だ。
∞AI Chatは12社が先行導入し、24社がデモンストレーションを行っている。調査会社のビデオリサーチは、「X(旧Twitter)」への投稿データを基に番組の視聴のされ方を分析する同社のサービス「Buzzビューーン!」において、∞AI Chatの概念実証(PoC)を実施。同アプリケーションは「出演者の○○さんに対する応援の声が多く見られた」など、各放送回における視聴者の評価ポイントなどを要約する。
∞AI Contentsは、チャットを行うバーチャルヒューマンなどを構築し、消費者のエンゲージメント向上を支援する。同アプリケーションでは、500人以上の電通デジタルのクリエーターがプランニングと実装支援を行う。
取り組みの一環として電通デジタルは、代表取締役社長執行役員の瀧本恒氏をバーチャルヒューマン化した。制作では声の収録を15分、動画撮影を40秒行い、2週間で「Virtual Human瀧本」を開発。説明会で実施されたデモンストレーションでは、口元の動きやイントネーションに違和感を抱いた一方、表情に関しては実際の瀧本氏をかなり再現している印象を持った(写真1)。
生成AIの利用に伴うバイアスの発生は、広告マーケティング領域でも懸念される。これに対し、山本氏は「例えば『医師』というプロンプトを入力した時、特定の属性の画像ばかりを生成しないよう、AIによる出力の時点であらゆる可能性を考慮する取り組みをITベンダーと共同で進めている」とコメントした。
∞AI Marketing Hubは、多様なデータを一元管理する「データハブ」、データの処理や最適なAIの選択などを行う「AIハブ」で構成される。同プラットフォームは、∞AIのアプリケーション基盤のほか、企業独自のサービス開発基盤としても利用可能だ。
電通デジタルは年内に、∞AI Adsを60社、∞AI Chatを40社へ提供することを目指している。∞AI Contentsと∞AI Marketing Hubに関しては、完成して間もないことから、まずは導入方法の検証から始めるという。
山本氏は「われわれとしては∞AIソリューションを何とかここまで持ってくることができたが、まだまだ直すところはたくさんある。決してこれが完成形ではなく、もっともっと良くしていきたい」と力を込めた。