海外市場で成長する日系ソフトウェア企業の事業戦略–米HULFTの丸山CEOに聞く
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近年は、国内の大手IT各社を中心に海外市場で事業拡大を目指す動きが広がりつつある。そうした中、データ連携分野で欧米企業や日系現地法人の需要を着実に獲得しているのが、セゾン情報システムズの米国法人HULFT, Inc.だ。最高経営責任者(CEO)を務める丸山昌宏氏に、海外ビジネスの戦略などを聞いた。
HULFT, Inc.は2016年に設立され、カリフォルニア州サンマテオに本拠を置く。現在は英国ロンドンを拠点とする欧州法人の事業も所管し、欧米市場で事業を展開している。丸山氏は、外資系通信会社やセキュリティベンダーで事業開発などを経験し、HULFT, Inc.設立のためにセゾン情報システムズに入社した。米スタンフォード大学経営大学院 LEADを修了し、米国では北カリフォルニア商工会議所の理事も務めるなど、海外ビジネスで幅広く活動している。
社名にある「HULFT」は、セゾン情報システムズが1993年から開発、販売するファイル共有/データ連携ソフトウェアで、同社の主力商品の1つ。HULFT, Inc.の設立による海外進出は、「海外拠点が無いにもかかわらず当時の主力であった『HULFT 8』が40カ国以上の市場で売れていた。それなら海外にも出ようと、当時の経営トップの方針で決まった」(丸山氏)といい、2016年に米国、2017年に英国へ進出した。
HULFTは、企業向けファイル共有ソフトウェアの老舗として、国内では多数の導入実績があり、当時は国内の本社が海外拠点とスムーズな情報連携を図るために、HULFTの利用を拡大していたという。このため丸山氏も当初のHULFT, Inc.では、現地企業にファイル共有の機能を訴求したというが、実際の需要はデータ連携の方が強かったそうだ。そこで訴求ポイントをデータ連携に切り替え、事業展開を進めた。
現在の企業間データ連携製品・サービスは、「iPaaS(Integration Platform as a Service)」分野に属する。IT市場調査会社の推計によれば、2023年のグローバルでのiPaaS市場規模は約65億ドル(約9800億円)で、丸山氏によると、このうち北米市場が約50%、欧州が約25%、日本が5~6%程度を占める。市場成長率も高く、HULFT, Inc.が事業展開するiPaaS分野の欧米市場は、日本よりはるかに大きく、将来の成長が強く見込まれる。
ただし、当然ながらこの有望な市場に数多くの競合が進出している。データ連携だけでもさまざまなカテゴリーがあり、丸山氏によれば、一説には北米だけで数百社のベンダーがひしめく。この中で日本市場でも存在が知られているのは、ごく一部の大手ばかりだ。それでもデータ連携ソリューションには旺盛な需要があるという。
「米国は非常に企業の合併・買収が多く、システムを統合しようにも非常に手間がかかるので、システム間でデータを連携できるようにしたいという需要が強くある。また、ITエンジニアの不足もある。ITエンジニアは、やはりGoogleのようなIT企業で働きたいと考えるので、IT以外の業種ではITエンジニアが足りていない。そこに最近の人件費の高騰も影響している」(丸山氏)
こうしたことからHULFT, Inc.では、製品としてHULFTを顧客に提供するだけでなく、システムインテグレーションやHULFTのマネージドサービスも提供することで、欧米企業のきめ細かいデータ連携への需要に対応し、顧客を獲得してきている。米国のIT環境では、ユーザー企業のエンジニアが自ら構築や運用を行っているイメージが強いが、丸山氏は、「現地だと分かるが、そうしたことができるのは大手などに限られ、中小では人材不足やコスト面から難しい」と述べる。同社では、製品力に競争力のある価格やサービスを発揮することで、プラットフォームサービス主体のライバルと差別化を図っているという。
顧客需要へのきめ細かい対応は日本企業的だと感じられるが、丸山氏は、北米や欧州の現地企業と、これら市場に進出している日系企業それぞれの顧客特性に合わせているとも話す。「北米の顧客は非常に意思決定が早く、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザー体験)へのこだわりも強い。良さそうなものはすぐに試そうというマインドがある。逆に日本はウォーターフォール型で慎重に意思決定を進める。欧州の顧客は、北米と日本の中間にある。どれが良い悪いではなく、顧客の地域に合わせていくことが肝心」(丸山氏)
各市場での顧客の開拓も戦略的に進めている。当初より米国では中西部、欧州では東欧にフォーカスしているといい、これら地域では自動車産業を中心とする製造企業が集積してサプライチェーンを構築していることから、データ連携ソリューションに対する需要がほかの地域以上に高いためだ。「米国中西部には、自動車部品関連だけで数千社が集まっており、データのトランザクションもほかの産業よりも高頻度に発生している。欧州も東欧やドイツが同様であり、これらの地域で実績と信頼を積み上げることが顧客のさらなる拡大につながっている」(丸山氏)
10月上旬からは、日本で2月に提供を開始したiPaaSの「HULFT Square」を海外市場でも本格展開する。同基盤はAmazon Web Services(AWS)上で提供していることから、11月末から開催されるAWSの年次イベント「re:Invent」にも出展し、認知拡大を目指す。HULFT Squareでは、2026年までに50社の顧客獲得を目標に掲げる。
日本のIT企業の海外進出は、国内市場とは特性が大きくことなることから苦戦するケースが多い。近年は、大手各社が現地市場で有力なIT企業を買収することにより、海外事業を拡大させようとしているケースが目立つ。丸山氏は、「米国市場で見ていると、日系の大手各社もまだチャレンジを始めたばかりで、日本でのブランドはごく一部以外は知られていない。今のところVantaraを買収した日立製作所(Hitachi Vantara)や、州ごとに規制要件が異なる中でも着実な買収戦略を実行している損害保険企業がうまく行っている印象がある」と実情を明かす。
HULFT, Inc.も製品名を冠したブランドとすることで、各市場に即した認知向上や事業展開を図っていく考えだ。今後は、サステナビリティー(持続可能性)における温室効果ガスの排出量削減に向けた需要拡大も見込む。特に取引先を含めた排出量を可視化する「スコープ3」への対応が義務化されていく流れにあり、これまで以上にデータ連携需要が高まると予想されることから、環境技術企業と連携した「グリーンIT」ソリューションの提供準備も進めているという。
丸山氏は、「今のところデータ連携市場の中でもニッチな存在だと思うが、いずれは市場でリーダーを評価されるような存在になれればと思う」と話している。