知識の価値と限界費用ゼロをビジネスモデルにするグルーヴノーツの取り組み
今回は「知識の価値と限界費用ゼロをビジネスモデルにするグルーヴノーツの取り組み」についてご紹介します。
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ソフトウェアの受託開発はビジネスモデルとして既に崩壊している。その背景には、ユーザーが求めていることを正確に理解できないまま、システム開発を続けてきたことがある。また、そもそもユーザーの要求が本当に必要なことなのか、無駄ではないのか、とユーザーと十分に議論してこなかった結果、IT活用の十分な効果を引き出せなかったこともある。
2011年7月創業のグルーヴノーツで代表取締役社長を務める最首英裕氏はそう考える一人で、ソフトウェアの受託開発を手掛けるイーシー・ワンの代表取締役社長を務めていた十数年前、システムインテグレーション(SI)ビジネスに矛盾や疑問を感じたという。1つは、ユーザーが望むことと、IT企業の技術者が提供する技術とのギャップである。「この技術を使えば、もっとすごいことができる」と技術者が考えても、ユーザーはそこまで望んでいないということだ。
最首氏は「技術力を持て余す」という言い方をする。技術者は自分たちの技術を活用すれば、ダイナミックなビジネス変革を実現できるのに、実際のシステム開発にそうした技術や知識を使う場所はないということだろう。
「技術者はそのギャップにジレンマを抱いている」と最首氏は分析する。背景には、IT企業の使う言葉はアルファベットの専門用語ばかりでユーザーにとって分かりづらく、かつ技術者らの説明が下手なことがある。つまり、IT活用やDX推進の本当の目的や意味が正しく伝わっていないわけだ。
逆に技術の活用方法や業務の改革方法などを事例で示し、どのようにすればビジネスモデルを変革したり、新しいものを創出したりできるかなど、技術の活用と効果を分かりやすく説いていけば、ユーザーはITやDXを単なる効率化や合理化の道具としてでなく、ビジネス変革の基盤として飛躍的に推進できる。
つまり、「技術をビジネスにする方法が間違っている」と最首氏は指摘する。「こうしたらいい」「これでいきましょう」と提案するのは、IT企業の考えでしかない。そもそも要件定義に時間をかけても行き違いがある。「丹念にヒアリングし、システムを作るやり方は無駄なことと、イーシー・ワン時代の受託開発で分かった」(同氏)。技術は道具であって、技術者らの知識や知恵こそが価値である。
その一方、最首氏は「踏み込みが浅い」とも感じた。量子アニーリングや人工知能(AI)などの技術と、技術者の知識と知恵を組み合わせて、ユーザーの課題解決に取り組むものの、本番環境ではなく、実証実験(PoC)の段階にとどまるものが少なくなかった。そうした状況に、同氏は「やり方が違うのではないか」と思い始めた。
例えば、ユーザーがトラックの配達を効率化をしたいとなると、IT企業は配送ルートを最適化するための要件定義や設計、開発を行い、ユーザーが試行する。それを繰り返し、配送ルートの最適化を図るのだが、それが本当に必要なことなのかだ。
そこでグルーヴノーツは、ユーザーのデータを解析し、「実際はこんな風になっている」と本当の課題をあぶり出していく。そうすると、ユーザーは「こんなことが起きているのか」などと気付きを得て、社内の関係者に尋ねるなどして「課題はこうなので、考えるべきことはこうだろう」と、一緒に課題と解決策を明確にしていく。このように「ビジネス変革を遂げたい」「新規事業を創り出したい」といった企業を手厚く支援し、本番環境への適用を増やしていく。
そうして出来上がった成功事例は、ユーザー自身に発表してもらう。ユーザーの業務に詳しいわけでもないIT企業の技術者らが「この技術を使えば、こんな効果を得られる」と説明しても、説得力はないからだ。「事業会社の目線で、どこに意義があるのかを語ってもらう」(最首氏)
それに、課題の解決策を考えるのはユーザー自身であるため、「ユーザーの手引きとなるようなアウトプットを提示し、解決手段を導き出せるようにする」(同氏)という。他社の事例を紹介することで、「当社の課題に近い」と感じるユーザーから問い合わせが増える。加えて、そうした取り組みに興味を持つ優秀な人材がグルーヴノーツに集まる。そんな読みもある。
最首氏は「知識に価値を見いだし、“限界費用ゼロ”のビジネスにかじを切った。これまで展開した受託開発とは真逆になる」と強調する。「(プロジェクトに参加する)人数と時間を増やすことで、売り上げを伸ばすビジネスの価値は低い」ことに加えて、「私を信じて、付いてきた技術者に報いることもできない」(同氏)と考える。
「IT企業の倍はパフォーマンスがある。(将来的には)4倍、5倍にできる」と、最首氏はビジネスモデルのさらなる進化を考えている。大規模言語モデル(LLM)を活用する案件の増加に応えることにヒントがある。例えば、大量のテキストデータを学習させた言語モデルを使って何が起きるのかを予測する。そのためには、データを知識化・文脈化する人材の育成と確保も欠かせない。生成AIの本格的な活用に向けたシステム作りの時代に備える。