「道なき道を行く」名古屋市のガバメントクラウド移行–システムの最適化が業務の効率化に
今回は「「道なき道を行く」名古屋市のガバメントクラウド移行–システムの最適化が業務の効率化に」についてご紹介します。
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アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)が10月22日に開催した、「ガバメントクラウド推進に向けたAWSの取組・支援に関する記者説明会」では、名古屋市で総務局デジタル改革推進課 課長補佐(システム標準化担当)を務める高橋広和氏が登壇し、AWSを利用したガバメントクラウドの移行について説明した。同氏の登壇後、クラウド移行について詳しく聞くことができたため、本稿では同市が進めるDXも含めて紹介したい。
名古屋市では、2022~2026年度を方針基幹とする「名古屋市役所DX推進方針」を策定し、デジタル活用により市民一人一人により適した市民サービスの提供を目標に掲げている。この方針では、行政手続きのオンライン化などによる「市民サービス」、行政事務のデジタル改革やウェブ会議/チャットによるコミュニケーション改革などの「働き方・業務」、クラウドサービス利用やシステム標準化の推進を図る「情報システム」、DXマインドやリテラシーの醸成を行う「組織・風土」の4つの領域で事業を展開していくとしている。
これらを実現するために8つの基本方針を定め、「システム標準化」と「ガバメントクラウド移行」はこれらの一環として位置付けているという。
高橋氏が所属するデジタル改革推進課は、情報システム担当とDX推進担当に分かれており、情報システム担当は、基盤の運用やIT端末の管理、ネットワーク、電子メール、セキュリティの保守・運用を担う。同氏はDX推進の中でシステム標準化担当として、標準準拠システムのガバメントクラウド移行を行っている。
デジタル改革推進課の発足は2022年と新しく、「従来の情報課というよりは、デジタル改革に主眼を置いた部署で、全庁的なDXを進めている」と同氏は言う。
同市は、2023年度の早期移行団体検証事業に採択され、ガバメントクラウドのAWS環境へ20の基幹業務システムを移行することに取り組んでいる。同市の基幹業務システムは、全般的にシステムの稼働年数が長く、技術的な負債が大きいという課題があったという。また、マルチベンダーで個別最適化を長年行ってきたこともあり、全体最適化が思うように進まなかった。加えて、主要なオンプレミス環境である自営のデータセンターが老朽化してしまい、継続利用が困難な状況にあった。
そこで同市はシステム標準化を好機と捉え、ガバメントクラウド活用の検討を開始。ガバメントクラウドの本格的な要件検討は2022年度から始まり、2023年度は環境整備とガバメントクラウドの利用を開始した。2024年度には、住民記録システムや保険年金システムなどの基幹業務システムを移行し、2025年度までにシステム標準化に該当する20業務のうち18業務が移行完了の予定だという。
ガバメントクラウドの利用にかかる要件の検討では、接続回線や情報セキュリティ、クラウドサービスプロバイダー(CSP)の選択、ガバメントクラウドの制約上での運用などさまざまな要件を検討したが、「最も大きな決断はガバメントクラウドの利用方式について『単独利用方式』『共同利用方式』のどちらにするかだった」と高橋氏は語る。
政府は共同利用方式を推奨する一方で、同市は単独利用方式を採用した。この理由について同氏は3つあるという。「1つ目は、名古屋市が方針を主体的に決めることによって、事業者の調整事項を削減し、移行に関する意思決定を早くできる。2つ目は、統一的なルールの適用により、ガバナンスの確保や全体最適化が可能になると考えた。3つ目は、クラウド利用によるコストダウンなどのメリットを直接享受できるということ」。一方で、クラウドに関する専門スキルの習得が必須になることが課題であると述べた。
また同氏は、ガバメントクラウドへの移行がシステムの最適化や可用性の確保、大規模災害への対策になると言及。これまでは、システムごとにファイルサーバーやコミュニケーションツールを調達し、認証基盤やセキュリティ対策が分散。一人の職員が複数の端末を使う必要があった。
ガバメントクラウドに移行することで、共通機能としてファイルサーバーやツールを一括調達し、統合認証基盤による各システムへのシングルサインオンの利用で統合的なセキュリティ対策ができるようになるとしている。これにより、システムの最適化や環境整備によって、業務の効率化やひいては住民サービスの向上も期待できるという。
また、従来はオンプレミスで複雑なクラスター構成を構築していたほか、機器やソフトウェアなどに異常が発生した際に、性能や機能を制限したり、異常箇所を切り離したりして、不完全ながらも処理や稼動を継続させる縮退サーバーを全区役所に設置していた。月次でバックアップデータを遠隔地に輸送しているが、災害や障害などが発生した際の目標復旧時間(RTO)は1週間以上、目標復旧時点(RPO)は1カ月以上になっていたという。
クラウド移行することで、容易に可用性を確保できるようになるほか、回線を複数経路かつ冗長化し、災害や障害時にはバックアップリージョンを活用できるようになった。これにより、最短でRTOを数時間、RPOを数分間でできるようになるとしている。