中堅SIerの針路–自社クラウド基盤に載せるサービスの品ぞろえ広げるアイネット
今回は「中堅SIerの針路–自社クラウド基盤に載せるサービスの品ぞろえ広げるアイネット」についてご紹介します。
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「売れるサービスを作る」。アイネット 代表取締役兼社長執行役員の佐伯友道氏は、社長に就任した約2年前に改めて全社に号令をかけたという。ユーザー企業に言われた通りのシステムを開発するのではなく、「利用してもらえるサービス」を作り出していくことにある。
佐伯氏がそう考える背景には、クラウドの進展によりシステムを“作る”から“利用”へと変化していることがある。生成AIによってプログラム開発などの自動化が加速し、「5年後、10年後に必要なプログラマーが半分になるかもしれない」と構造変革も予測する。生産性向上に取り組みながら、従業員約1800人、売り上げ378億円、営業利益29億円の同社はどんな方向に進むのか。
アイネットの売り上げ構成比は、システム開発が約6割、受託計算などのサービスが約4割になる。もともとガソリンスタンド向けの事務作業や代金決済などの受託計算サービスからスタートし、さらにダイレクトメールや請求書などの作成から発送までを請け負うビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)を展開する。佐伯氏は「BPOは残る」と確信する。例えば、地方自治体のクラウド化が進んでも、住民へのさまざまな通知は残る。ダイレクトメールの作成や発送の需要も確実にある。一方、自動車の台数が減り、ガソリンスタンドが減り、競合が減っていく中、アイネットのガソリンスタンド向けビジネスは横ばいを保つ。そのノウハウを生かしてプロパンガス向けの受託計算という新しい市場の開拓もする。
こうしたサービス提供に必要なデータセンターを使って、アイネットは約15年前からクラウドサービスに力を入れ始めた。佐伯氏は「全国の給油所に端末を置いたクラウド型サービスを提供していた」と、受託計算処理という今日のクラウドビジネスを創業から手掛けていると話す。要のデータセンターは現在の2カ所4棟に加えて、AI時代に対応する5棟目を検討中だ。これらの設備や保守などに年間約10億円を投資しているが、新データセンターの建設となれば、土地購入を含めるとその数倍になるだろう。佐伯氏によれば「先行投資で、償却負担も結構ある」とのことで、システムインテグレーション(SI)専業に比べると、同社の営業利益率は7%超とやや低い。
そのデータセンターを生かしたクラウド基盤とクラウドサービスに成長を見いだす。クラウド基盤の上に新しいサービスを載せていくことで、「アイネット丸という船に、どんどんサービスを作り、利用者を増やす」(同氏)とし、まず自社開発したパッケージソフトの無担保ローンシステムに加えて、原価計算システムなどもサービス化し、提供する予定だ。
パッケージソフトやサービスを開発する有力ソフトウェアベンダーにデータセンターを使ってもらったり、有望なソフトウェアやサービスを開発するスタートアップと協業したり、出資したりもする。給与計算業務のペイロールや訪問看護サービス向けシステムを提供するハノン・ケアシステム、体質判定プラットフォームサービス事業を手掛けるパルセックなどだ。グループウェアのネオジャパンとの業務提携、WorkVisionとはOEM提供などの協業も推進する。佐伯氏は「年に3社から5社、協業や出資などをしている」と語る。
その一方、アイネットでは毎年、グループ全体で約100人を採用している。ただし退社する従業員もいるので、「それほどは増えていない」と同氏。システム開発における人材不足や人手不足が叫ばれ続けているものの、同氏は「2026年度以降も続くだろうか」と懐疑的な見方をする。“売り”に出ている中堅・中小システムインテグレーター(SIer)もあるようだが、経営者が「今なら高く売れるチャンス」と思っていても、買い手側は数年後を心配し、なかなか手を出さないかもしれない。そうなれば、サービス作り、協業の構築などに力を注ぐのは自然なことだろう。
とはいっても、システム開発の案件はまだある。アイネットにも10億円クラスの商談が幾つかあるという。宇宙・防衛関連の需要も期待している。人工衛星のシステム設計や検査・試験、運用・評価解析など約45年の実績があり、人工衛星が取得した画像データの処理や、ロケット打ち上げ管制装置の処理なども手がける。1971年創業のアイネットがサービスへのかじをどこまで切るのか注目する。