伝統的なIT産業の構造を崩壊させる大事件
今回は「伝統的なIT産業の構造を崩壊させる大事件」についてご紹介します。
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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
大手ITベンダーを頂点とする日本のIT産業構造を崩壊させる大事件が起きた。NTTコミュニケーションズやNEC、日本ビジネスシステムズ、医療ベンチャーのアルム、ブレインの5社で構成するコンソーシアムが2021年早々に落札した、東京オリンピック・パラリンピックに向けた入国管理アプリ開発の契約金額を、政府が約73億円から約38億円に引き下げたことだ。管理アプリの開発などに20社以上の下請け受託ソフト開発会社が携わっており、彼らへの支払いをどうなるのだろう。元請け以上に厳しい経営に追い込まれなければと心配する。
平井卓也デジタル改革担当大臣の「死んでもNECに発注しない」との発言報道で注目を集めた同管理アプリは、東京オリンピック・パラリンピックに来日する約120万人を管理するものだったが、海外からの観客受け入れがなくなったことで、政府はコンソーシアムに仕様変更とそれに伴う落札価格の削減を要求したのだろう。コンソーシアムの代表はNTTコミュニケーションズのようだが、NECの森田隆史社長が6月14日のデジタル変革(DX)施策発表会で質問を受けて、「今回の案件は少し特殊なもので、海外からの受け入れがなくなるなど、想定したものとはかなり違ってきた。政府も対応に苦慮していた。そこで、コンソーシアムが対応策を協議した結果、今回の契約変更になった」と明かした。
報道によれば、事業内訳はアプリ開発に約18億円、データ連携基盤に約14億円、顔認証サブシステムに約5億円、サポートセンター構築に約17億円、多言語対応などに約15億円というもので、実はNECが担当する顔認証サブシステムは仕様変更で契約額はゼロになったという。
報道による今回の大幅な引き下げを知った業界関係者に意見を聞いたところ、著名なITアナリストは「開発途中に、その機能はいらないので金は払わない、と言われたようなもの」とあきれる。ある有力SI(システムインテグレーター)の元経営者は「開発が終わってからの機能削減の議論は、あり得ないこと」と驚く。大手ITベンダーの元役員は「そもそも丸投げは、高くなるのが当たり前」と、政府の丸投げ体質に大きな問題があると指摘する。
発注者が「後はよろしく」と頼んだのに、その後になって「この機能はいらない」などといった仕様変更や機能追加をすれば、請け負ったIT企業はその分を請求するだろう。だから、多くの業界関係者は「戦うべきだ」とコンソーシアムに発破をかけるかもしれないが、これまでの慣習からか受け入れた。だが、曖昧なまま言われた通りに作り上げる伝統的な請負開発は止めるべき時期にきた。存在価値を問われることになるからだ。人月ビジネスからソリューションやサービスを開発、提供するビジネスに変わらなければ、日本のデジタル化は進められないし、IT企業は生き残れなくなる。
一方、政府には丸投げを止めさせて内製化させる。2021年9月にスタートするデジタル庁はそのために立ち上げるのだろう。優秀なIT人材らを集めたデジタル庁がIT企業らのソリューションやサービスを調達し、組み合わせたりカスタマイズしたりする。どうしても助けてほしいと要請があったら、導入の仕方や使い方などを有料で支援、助言する。人材を派遣する場合は、求められる専門知識などの応じて1人月当たり200万円などと提示し、プロジェクトに参加させるが、主体はあくまでもデジタル庁にある。経産省のDXレポートも示唆しているが、IT人材の多くがユーザー側に所属する時代になっているはずだ。
そうなれば、今回のような下請けに再発注することもなくなる。ユーザーが直接必要な人材の派遣を求める形になる。IT企業が人材を大量に集める案件は少なくなり、ITサービス開発やコンサルティング、人材派遣、中小企業向けインテグレーションなどといった中小IT企業やフリーランスの領域が広がる。つまり、IT企業はソリューションやサービスの中身や技術力で勝負し、ユーザーはこれらの内容を評価・選択する。そんな関係になる。
「今回の事件は、時代の変わり目に起きる不思議な出来事の1つ」だと、ある業界関係者は指摘する。確かに普通に考えれば、こんなことがまかり通るはずはない。だが、IT業界は要求に応じれば「中長期的には得をする」と思っていたら痛い目に遭う。アフターコロナは価値観が変わり、これまで常識が通用しなくなると言われている。ニューノーマル時代のビジネスを1日も早く創り出すことだ。
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