DXのコモディティー化は2025年–INDUSTRIAL-Xの八子CEO
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製造や通信・メディア分野でのIT/IoTにまつわる豊富なビジネス経験を持つ八子知礼氏は、2019年に自身が立ち上げたINDUSTRIAL-Xで、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを加速させるための新たな一手を打つ。日本企業にとってDXが身近になるタイミング――DXがコモディティー化する時期を尋ねると、「2025年になる」と答えた。
八子氏が長らく携わってきた製造や通信・メディアは、ビジネスとテクノロジーが密接に関係している。昨今のDXの一面には、この関係性をあらゆる業界に波及させることがあるだろう。同氏は、企業が目指す姿を現実にしていく「戦略」、戦略の実行に必要な「モノ」と「ヒト」の3つが欠けることなく一体であることがDXの推進に不可欠だと説く。INDUSTRIAL-Xで企業顧客に提供するサービスは、DX実現のためのコンサルティング、パートナーなどのマッチング、人材育成、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)など。BPOでは、「DX出島」と称されるような立場で、全社規模のDX推進業務や機能を丸ごと受託するケースさえあるという。
その中で2021年夏に、DXに必要なあらゆるリソースを全てオンラインから調達、利用できるようにするサブスクリプション型の新サービス「Resource Cloud」の正式提供を開始する。
このサービスでは企業顧客がDXの目標が定まった上で、それに必要なソリューション(製品、サービス、人材、情報など)を検索し、設置・構築やコンサルティングの必要性の有無を選ぶ。支払いは月額課金制で、選択したソリューションによってオプションの追加料金が加算されるイメージだ。サービス利用に同意すると見積書が発行され、顧客が決済する正式発注、施工や納入日などの調整、そして施工・納品・稼働となる。
開始時点でのソリューションメニューは、60~70種類をラインアップする。INDUSTRIAL-Xが実際に顧客へ提供してDXの実現に有効であることを確認し、その上で明瞭な価格を提示可能なパートナーの商材を選んでいるという。八子氏によれば、DXパートナーを称する企業が顧客のDXを支援する際に、自分たちの商材ばかりを押しつけるケースが少なくない。INDUSTRIAL-Xは、「DXソリューションの目利き」を自認し、その信念でResource Cloudが取り扱う商材とその提供元パートナーを選ぶという。顧客が求めてResource Cloudに足りないソリューション商材も、まずINDUSTRIAL-Xが調達し、顧客に提供する。
INDUSTRIAL-Xのパートナーは、さまざまな産業分野にいるが、中でも八子氏が特徴付けるのは地方との連携になる。例えば中国経済連合会(広島市)とは、中国地方の地場の企業向けにDXの取り組みを支援するための各種セミナーを共催しているという。Resource Cloudは、大都市圏のみならず全国各地のユーザー系企業がDXのためのリソースを容易に調達できるようにするとともに、INDUSTRIAL-Xのパートナーが地方のユーザー系企業にリーチできる橋渡し役も担うことを目指しているという。
サブスクリプション型の課金は同社のサービスで基本的に共通だが、Resource Cloudにおいては、その顧客メリットがより明確になる。DX関連投資は、領域や規模、時期、内容などが一様となることがまず無い。計画的な投資実行が難しく、必要な時に予算不足の状況もあり得る。八子氏によれば、サブスクリプション・月額制を基本とすれば、顧客が無理なくDXに必要なリソースへ投資できるようになる。「われわれがリソースを購入し、顧客は利用した分だけを払ったり、後でまとめて買い取ったりもできる」
Resource Cloudの将来的な姿は、DX関連ソリューションのマーケットプレースとして、企業がセルフサービスでリソースを調達し自前でDXを推進していくための支援ツールのような役割だろう。だが八子氏は、「顧客が希望すれば、使い始めて数年間はBPOとしてわれわれが顧客に代わってリソースを調達、購入し利用する。顧客が不要に感じれば、いつでも契約を終了していただいても構わない」と話す。
INDUSTRIAL-Xが実施しているDX関連動向の継続的な調査によると、DXに期待する効果では「コスト削減」が45.8%で前回と同じく多い一方、「顧客獲得」が14.4ポイント増の22.2%に上った。「『コスト削減』が上位というのは、DXが従来のIT化などの意味合いと混同されている状況を表しているが、『顧客獲得』が増えたのは、ビジネスモデルの変革や創出というDX本来の意味に対する認知が高まっていることを表している」
八子氏によれば、奇しくもコロナ禍の到来が従来のビジネスモデルと企業に変化をもたらし、変化に対応しなければ消滅するといった危機感が、日本企業の間にDX本来の意味を浸透させ始めた。「この2年ほどは年商規模で100億円以上の大企業でDXの取り組みが進んだが、2021年に入り30億~100億円規模の中規模企業でもDXの取り組みが本格化し始め、サポートの要請が増えている」とのこと。
直近では、産業界向けメディアの日刊工業新聞社とDXプロジェクトを推進するパートナーとなり、同社事業のデジタル化を支援していく。観光ホテルのニューアカオ熱海は、Resource Cloudをベータサービスから利用しており、館内の宿泊客の混雑状況を可視化するためのIoTシステムを導入したほか、施設周辺の通信環境を向上させるべく、域内無線インフラ設備の調達と施工をINDUSTRIAL-Xが支援している。
ただ、2021年夏現在は、多くの企業がまず自社が本当になりたいDXによる姿を真剣に模索するフェーズにあり、DXを具現化する方策を習熟するのはこれからだという。この状況だからこそINDUSTRIAL-Xは、Resource Cloudのサービスを本格的に提供する。顧客がResource Cloudを使って自前で具現化するも良し、INDUSTRIAL-XをパートナーとしてResource Cloudを含めたサービスを活用しながらでも良しというのが、同氏のスタンスであるようだ。
日本企業にとってDXがコモディティー化するのは2025年という八子氏の見立ては、同時に希望であり危機感でもある。「ユーザー系企業も含め2025年までにDXがそう(身近に)なっていなければ、日本の将来は極めて厳しい。コロナ禍でDXへの取り組みが加速しているので期待したい」
今回のResource Cloudは、ビジネスとテクノロジーが密接する業界を経験しDXの動向を的確に捉える八子氏とINDUSTRIAL-Xならではの取り組みだろう。ある意味で日本企業のDXの行方を占うバロメーターになるかもしれない。