東芝が新経営方針、「データサービスで稼ぐ会社に」–不透明さも意思固く
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東芝は6月2日、経営方針を発表した。代表執行役社長 CEO(最高経営責任者)の島田太郎氏は、「収益の柱をデータサービスにする会社に東芝を変貌させたい」と発言。「ハードウェアとソフトウェアを分離する『Software Defined』を推進し、デジタルとデータの力を活用してカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現に貢献する企業になる」との方針を示した。
長期ビジョンとして、2030年度に売上高5兆円、営業利益6000億円、営業利益率12.0%の目標を打ち出す一方、2030年度には、データサービスの領域における営業利益率を26%にまで高め、全社の営業利益の20%をデータサービスから創出する考えを示した。「これが東芝の企業価値を最大限にするための一番の手段。伝統的なビジネスを着実に伸ばし、その上にデータビジネスを乗せて発展させる」と述べた。
データサービス事業の拡大に向けて、具体的な取り組みとして掲げたのが、「DE(Digital Evolution)」「DX(Digital Transformation)」「QX(Quantum Transformation)」の3つの戦略になる。島田氏は、「サービス化やリカーリング化で実現するDEが最初のステップ。それらをプラットフォーム化するのがDXで、さまざまなプラットフォームが業界を超えて接続し、それを量子技術で支えるのがQX」とした。DEからDXへの事例として、「Elevator as a Service」(EaaS)の取り組みを挙げた。
これまでハードウェアのエレベーターとソフトウェアを分離し、さまざまなサービスを提供してきた経緯に触れ、「将来は外部アプリと連携しデータビジネス化する」という。エレベーターに関する東芝のソフトウェア技術は、建物情報のデジタル化によるBIM(ビル情報管理)クラウドでの稼働状況管理や、乗車する人の意思を推定して挟まれるのを防ぐスマートドア、利用者の属性に応じた情報を提供するデジタルサイネージなどに活用されていた。これらを実現するセンサーやサイネージを活用して、人流、利用者属性、運行状況、機器稼働状況などのデータを収集、外部アプリと連携し、データをビジネス化できるとする。
「ビルや商業施設で多くの人のタッチポイントになるエレベーターを活用し、サービスプラットフォームを構築して、人流データを起点としたサービスを提供できる。人々の行動変容につなげることもできる」とする。
同様の取り組みでは、2019年に発売したカメラ付きLED照明「ViewLED」が照明として機能するだけでなく、ネットワーク接続によりデジタルデータを取得、画像データを活用してさまざまなアプリを提供しているという。「売れば終わりのLED照明をリカーリング型に転換し、販売後の方が収益を上げられる」とする。
産業用コンピューターの制御でも、これまでハードウェアにソフトウェアが組み込まれる形だったが、東芝はソフトウェアを分離し、クラウドを活用した制御を提供する。業務現場のさまざまなデータをリアルタイムにクラウドへ収集、「計装クラウド」として新サービスを提供しているという。「東芝は現在の第2世代のPLC(プログラマブルロジックコントローラー)に出遅れたが、優れた技術を活用した第3世代で大胆に勝負でき、成功できる」と述べた。
2つ目のDXの進化では、複数プラットフォームを組み合わせて新サービスを提供する。ここではエネルギーソリューションプラットフォームを例に挙げた。大型プラント監視ソフトウェアの活用で設備機器を監視し、最適な保守・点検サービスの提供に加え、今後はエネルギー需要家側が利用するプラットフォームと連携し、発電側と需要家側を束ねる。それをバランスさせ、需給を支える基幹系統の調整を行えるようにするという。「再生可能エネルギーの発電が増大する中で、電力の需給バランスに対する市場の期待は高い。エネマネ・マッチングでは、既に50社以上が検討している」という。
将来的には、エネルギーデータを収集、利用する環境をプラットフォームにして家庭で発電した電力を売買する個人間電力取引サービスにつなげたり、データから温室効果ガスの排出を追跡したりできるという。「プラットフォームを組み合わせ、ペットボトルの水が届くまでの二酸化炭素排出量が分かる。カーボンニュートラルを達成する上で、指標の可視化が必要。データやプラットフォームにより、企業や人々に環境に配慮する行動への変容を促し、地球にやさしい社会を構築できる」とした。
また、東芝テックが持つPOS(販売時点)レジシステムの高い市場シェアを背景に、レシートの情報をデータで提供する「スマートレシート」サービスを拡大。会計後にいつでも、どこでもスマートフォンでレシートの内容を確認できるようになる事例を示した。ここでは、同サービスで個人の同意の基にデータを収集、活用したさまざまなサービスにつなげる。「個人の購買データから安心して使える情報サービスを構築できる。徹底したデータの可視化、ユーザー体験に基づく自然なデータ連携により、データ社会インフラを構築できる」と自信を見せる。東芝テックは、2025年度までに13万の加盟店舗、会員数千万人を獲得して、スマートレシートによる購買データの収集基盤を作る考えだ。
QXでは、東芝が30年近く研究開発する量子技術を活用し、新ソリューションを提供するという。特に量子暗号通信技術を生かして、データ保護だけでなく、数百キロ離れた量子コンピューターのメモリー情報を同時更新したり、量子インターネットによる安全で高度な通信を実現したり、オール光のネットワーク実現に向けて必要な光電融合デバイスに、東芝の半導体技術を活用したりするという。
「量子暗号通信は世界中で商用実証が始まっている。この分野には東芝デジタルソリューションズが積極的に投資しているが、既に10%の利益率だ」としたほか、「量子暗号通信分野で東芝は機器ベンダーではなく鍵配信サービスベンダーになりたい。グローバルサービスの展開を数年のうちに具体化したい」などと述べた。
また、量子インスパイアード最適化ソルバー「SQBM+」の開発にも触れ、「組み合わせ最適化問題を世界最速、最大規模で解けるため、社会課題解決に貢献できる。金融分野での実証や、創薬領域でも成果が出ている。東芝の技術が量子コンピューターの実現に隣接しており、次のブレイクスルーに貢献できる。この分野で巨大な商機をつかめる」とした。
島田氏は、DEで「Software Defined Transformation」を推進し、DXでプラットフォーム化、組み合わせた利用に進化させ、複雑な環境から最適解を見い出し、サービス活用するQX実現への道のりを「SHIBUYA型プロジェクト」と紹介した。
「渋谷が大きな変貌を遂げ、特筆は数百万人の行き来を止めずに、街を根本的に変えている点だ。これこそが東芝がやろうとしていることだ。ビジネスを止めず会社を再生しないといけない」と語る。一方で、データの収集ポイントを「ダブルダイヤモンド」で示す。
これは、企業数や使用者数を縦軸に、サプライチェーン(供給網)を横軸に置いて表したもので、産業データで構成される「B2Bダイヤモンド」と、人のデータで構成される「B2Cダイヤモンド」が存在するという。収集データ量が2つのダイヤモンドの形に見えることから「ダブルダイヤモンド」と呼んでいる。
「ITのプラットフォーマーは、B2Cダイヤモンドからデータを収集し、その活用で成長した。だが、そこにはPOSや照明、エレベーターなどから収集する人のデータが取得されていない。B2Bダイヤモンドでは、まだデータを取得できていない部分が多く、その典型がCO2排出量に関するものだ。これまでそうしたデータを収集する認識もなく、データ取得そのものが困難。東芝は、ここでデータ取得の標準化に投資している。ダブルダイヤモンドモデルで、新たな情報を取得したり、データを多くの企業に提供したりすることで、新たなサービスを産める」とした。