デジタルクローンの社会実装に踏み出すオルツ–CTOに聞く技術進化

今回は「デジタルクローンの社会実装に踏み出すオルツ–CTOに聞く技術進化」についてご紹介します。

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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 オルツは、AIクローン技術を活用したデジタルクローンや、「P.A.I. (パーソナル人工知能)」を中心に、AI活用や大規模言語モデル(LLM)開発、DX推進に注力している。特に目を引くのは、同社の全ての従業員が一体ずつデジタルクローンを作成し、デジタルクローンに対して給与を支払う取り組みだ。デジタルクローンを活用した取り組みや展開について、オルツで最高技術責任者(CTO)を務める西村祥一氏に話を聞いた。

 オルツは、創業した2014年ごろから対話エンジンや人間の思考・発言をコピーする研究を始め、2020年から深層学習を取り入れた研究・開発をしてきた。デジタルクローンの開発は、同社 代表取締役の米倉千貴氏が、部下から同じような質問をされたり、軽度な業務の繰り返し作業が発生したりしたことで、簡単なボットを作成したことから始まる。質問に対する回答や軽度な業務であればボットでも十分に対応することができ、より高度に自分と同じ返答をするクローンをデジタルで作ることで、自分自身がやっている業務を代行できるのではないかという米倉氏の考えから、デジタルクローンの開発に着手したという。

 従業員のデジタルクローンは、同社が独自で開発するLLM「LHTM-2」を基盤としたノーコード生成AIプラットフォーム「altBRAIN」に個人のプロフィールや資料などを読み込ませたり、メールやSNSのやりとりを連携することで作成している。

 法人間取引(BtoB)におけるデジタルクローンの活用事例として、同社は3月に人事採用やM&A(合併・買収)におけるサービスを発表している。また、オルツ内での取り組みでは、各従業員のデジタルクローンが従業員の業務時間外や業務と並行して稼働し、ほかの従業員からの質問や簡単な依頼に対応する実証実験を行っている。デジタルクローンの精度を高めるには、個人のデータをより多く収集し、読み込ませることが重要になる。同社では、常に業務や「slack」、会議などを通してデータが取得されており、PC上でできる業務であれば人間と同様のことができるようになりつつあるという。

 デジタルクローンが働いた時間に対して給与が支払われる制度について西村氏は、「自分自身のデータを入れることでデジタルクローンが代わりに働き、給料に反映される。これは、デジタルクローンに自分のログデータを入れるモチベーションになる」と説明する。

 実際に代表取締役の米倉氏は、本人が月に約160時間稼働しているのに対し、同氏のデジタルクローンは月に180時間働いていることが分かっている。同氏のデジタルクローンは、採用面接や取材時の会社説明などに使われているという。

 他方で、西村氏は発表資料のたたき台の作成を自身のデジタルクローンに出力してもらうケースがあると話す。資料の目次を自身のクローンが作ることで、「ChatGPT」などが出す汎用(はんよう)的な結果ではなく、独自性のある結果が出力されるという。それを踏まえて、同氏が資料内容を作成していく。「人機一体で、生身の人間とデジタルクローンとの二人三脚で仕事ができるようになってきている」と同氏は説明する。

 従業員がデジタルクローンを一体ずつ作成する取り組みへの他社からの問い合わせも少なくないという。同氏は、「altBRAINを使えば、取り組みを始めることができる」一方で、「デジタルクローンを使う企業の環境を同時に整備する必要がある。システムの導入だけでなく、給与の支払いなど社内の制度や考え方の改革をしなければいけない」と指摘する。

 デジタルクローンを社内で活用する中で、同氏は新たな気付きがあったという。社内業務であれば、従業員はデジタルクローンを活用しているという共通認識をしているため大目に見ることができるが、取材や面接など対外的なことにデジタルクローンを使う際には「デジタルクローンが対応している」ことを事前に公表しないと抵抗が見られる懸念があるという。

 「AIが生成した画像に、『これはAIが生成した』ことを記載するのと同様に、デジタルクローンにも同じ扱いが必要になっている」。また、試験的にデジタルクローンが営業を行う取り組みもしているが、人間に比べると応答の間があるため、緊急時の対応が難しいという。「今は技術的に人間並みの反応速度や感情を入れる研究をしている。ここをクリアできれば顧客対応やクレーム対応が問題なくできるようになるのではないか」と西村氏は述べる。

 デジタルクローンは、音声やLLM、映像認識などさまざまな技術の組み合わせでできているが、各分野で研究の差が出てきているという。特に研究が進んでいない分野は「物理世界へのインタラクション」だと同氏は指摘する。現在は、ビデオ会議などPCやデジタルの中だけで使われているが、あと数年でヒューマノイドやロボットなど現実世界で動く物理的なものが出てくるという。「ロボットに搭載するAI、例えば介護ロボットには介護に適した人格が搭載されると思うが、その先にはロボットに搭載する人格のパーソナライズが出てくる。デジタルクローンの最終形態は、自分と同じような発言・行動をするロボットが自分自身に代わって出勤する世界。そこに向けて、日々足りないピースを埋めていっている」と、同氏はデジタルクローンの行き着く先を語る。

 また、デジタルクローンについて同氏は、「人間拡張に近いと思っている。自分のデジタルクローンがいることで、自分ができることをパワーアップできる。自分の能力を超えることは不思議なことではなく、しっかり制御できていれば良い。目が悪ければ眼鏡を掛ける、コンタクトレンズを装着するなど、現代では人間拡張は抵抗なく行われている。その延長線上として、デジタルクローンがいることが、人の能力の一部になると思っている」と説明した。

 今後、オルツでは技術の中心にパーソナルAIを据えながら、より精度の高いデジタルクローンの開発を模索していくとしている。技術面では、GPUの進化やソフトウェアのアルゴリズム、論文が学術的に進化しているが、「もう一つ大事なのはデータ」だという。現状、会議の議事録やチャットなどのテキスト情報は取得できているが、将来的には個人が見聞きした物や感じた物を全て取得し、パーソナライズデータとして読み込ませることで、自分と同じ体験をしたモデルを開発する。西村氏は、「そのために、PC上のデータだけでなく、物理世界でデータを収集できるウェアラブル端末を開発し、個人のデータを収集できる環境をつくる。これが次の展望だ」と明かした。

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