小説「音声先行」が潮流? 過熱する”耳読書”市場

今回は「小説「音声先行」が潮流? 過熱する”耳読書”市場」についてご紹介します。

関連ワード (今年、明治大教授、魔眼等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、It Media News様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 俳優や声優などが読み上げた本の音声を聴いて楽しむ「オーディオブック」。聴き放題サービスの浸透や新型コロナウイルス禍による在宅時間増もあって急拡大しているこの“耳読書”市場に、小説家たちも熱い視線を注いでいる。オーディオブック向けに新作を書き下ろしたり、紙や電子の発売と同時に配信したり。部数が伸び悩む文芸書の読書発掘や、新しい表現の可能性にも期待がかかる。

俳優の朗読で世界観体現

 「日本語は漢字とひらがなの組み合わせのようなデザインで魅せることもできる。私自身、目で読むリズムに頼ってきた面があるけれど、今回は新しい形に出会えた気がします」と話すのは作家の川上未映子さんだ。米インターネット通販大手Amazon.comの音声コンテンツ配信サービス「Audible」(オーディブル)向けに7月、新作「春のこわいもの」を書き下ろした。単行本は2022年に新潮社から刊行予定で、川上さんにとっては初の音声先行作品。すでに英語とドイツ語版の配信も決まっている。

 「春のこわいもの」は感染症が大流行する直前の日常を描いた6編からなる。入院中の女性が久しぶりに「きみ」に宛てた静謐でいとおしい手紙。参加したら報酬をもらえる“ギャラ飲み”の面接に臨んだ女性2人の顛末(てんまつ)……。コロナ禍で改めて浮き彫りになった孤独や社会的格差をも照射する物語を、映画や舞台で活躍する俳優の岸井ゆきのさんが奥行きのある声で読む。

 「岸井さんはシリアスだけれど生命力のある声で小説の世界観を体現してくれた」と川上さん。音声化されることを特別意識せずに紡いだというが、 「自分だけに話しかけてくるような親密な声は読書のエッセンス(本質)を際立たせてくれる」と手応えを語る。

再生「14時間超え」でも

 オーディブルの21年1月の会員数は前年同月の2倍に増えた。国内では約40万点(日本語は約1万8000点)のコンテンツをそろえる。躍進の背景には、Bluetoothを使ったワイヤレスイヤホンやAIスピーカーといった機材の普及に加え、「コロナ禍を受けた日々のリモート会議で画面疲れを感じている人が多い。新しい選択肢として音声コンテンツが注目されている」(オーディブルの担当者)という事情もある。人気は通勤などの隙間時間に効率的に学べるビジネス書や自己啓発書だけではない。長時間かけてじっくり味わう小説などの物語系コンテンツの需要も増しいるといい、充実を急ぐ。

 作家の平野啓一郎さんが5月に出した小説「本心」は紙や電子の発売と同時にオーディブル版も配信した。単行本で約450ページの長編だけに再生時間は14時間29分もの長尺だが、利用者には好評という。今年上半期のベストセラー総合1位(日販など調べ)に輝いた宇佐見りんさんの芥川賞受賞作「推し、燃ゆ」も俳優の玉城ティナさんの朗読で6月に配信。宇佐見さんは、玉城さんのクールでありながら複雑な感情をにじまる声をたたえ「行間に、読点に、切なさや高揚感をはらんで、作品の世界が何倍にも飛躍する」と歓迎する。

「連ドラ」のように

 オトバンクが運営する音声コンテンツ配信サービス「audiobook.jp」も、18年に月額750円で対象作品が聴き放題となるプランを導入した効果もあり、会員数は3年前の6倍超の200万人に。ジャンルごとの利用実績では、小説などの物語系の聴取時間が全体の約3割にまで伸びているという。

 「オーディオブックに親しむ人が増え、利用者も本を聴くことに慣れてきている。それに伴って、今年の夏くらいから小説など長尺の作品が格段に聴かれるようになった」と久保田裕也社長は話す。「連続ドラマのように空いた時間に少しずつ聴く人もいれば、自宅でリラックスしているときにずっと流しっぱなしにする人もいる。長尺でも楽しみ方はさまざまです」

 「audiobook.jp」で、8月上旬にエンタメ小説部門の週間ランキング1位となったのも、再生時間が13時間近いミステリー「魔眼の匣(はこ)の殺人」だった。作者の今村昌弘さんは「オーディオブックは手のふさがる作業中や移動中であっても楽しめる。作者としても音声を通して人物や情景の違った表情が見られるのは新鮮」と喜ぶ。

新しい文体も

 出版科学研究所の調べでは、2020年の紙の書籍の推定販売金額は前年比0.9%減の6661億円と、微減にとどまった。コロナ禍の巣ごもり需要を受け、文芸書も好調だったが、人気漫画「鬼滅の刃」のノベライズ版など一部のヒット作の力も大きい。多くの作品で部数は漸減傾向で、先行きは楽観できない。一方、オーディオブックは目の不自由な人や小さな字を読むのを敬遠しがちな高齢者も親しみやすく、読者の裾野を広げる可能性がある。

 明治大教授で文芸評論家の伊藤氏貴さんは、音声版の浸透が表現にもたらす変化にも目を向ける。「日本語は同音異義語が多く、聞くだけでは理解が難しい部分もあるが、口述筆記で名作を生んだ文豪もいる。手書きではなくワープロで書く現代作家の文章は比較的長く、総じて耳で聴いてわかりやすい。最初から『朗読=オーディオブック化』を意識して書かれる作品がまた新しい文体を生むかもしれない」

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