【コラム】所有の新しいかたち、P2Pファイル共有から音楽NFTまで

今回は「【コラム】所有の新しいかたち、P2Pファイル共有から音楽NFTまで」についてご紹介します。

関連ワード (公正、希少性、独立系等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、TechCrunch様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


Outkast(アウトキャスト)の海賊版が販売されていた2003年に、そのMP3のコピーを所有することでロイヤリティー(著作物使用料)を得られる世界を想像できただろうか。

NFT(非代替性トークン)やWeb3への批判が高まる中、ヒップホップ界のレジェンドでありイノベーターであるNas(ナズ)は、自身のシングル2曲をNFTでリリースしている。ファンはこれを購入することにより、ストリーミングのロイヤリティを得ることができる。音楽NFTの人気の高まりにより、次のような非常に興味深い議論に注目が集まっている。ブロックチェーンは、トレントの自由でオープンであるという利点に相反するものだろうか。ブロックチェーンは、コンテンツの違法コピー製作者と同じように、ゲートキーパーを排除しようとしているのだろうか。

デジタルエンターテインメントの歴史の中で最も対立が激しかったのは、Napster(ナップスター)が登場してきた時期と、2000年代、BitTorrent(ビットトレント)が広く普及した時期だ。この時期、音楽業界、映画業界が大きく変わり、アーティストとファンが対立した。2000年代の終わりには知的財産権の行使が急増し、同時に、Spotify(スポティファイ)、Netflix(ネットフリックス)、Apple Music(アップルミュージック)などに代表されるような、デジタル商品の消費者向けオプションが大幅に拡充した。

Web3への移行が始まり、デジタル所有権、知的財産マネジメント、クリエイターの権利といった概念に再び注目が集まっている。Web3を批判する人たちはトレントの特性と比較して否定することが多い。トレントは「知的財産権への革新を求める抵抗」の表れで、コンテンツがよりオープンで自由で利用しやすいインターネットを生み出したのに対し、ブロックチェーンはその逆のことを行っている、というのがその言い分だ。

これには的外れな点がある。まずユーザーがトレントを利用する理由として、金銭面の節約という人もいたが、多くの人にとっては公式の有料コンテンツに比べて利便性が圧倒的に高いからというものだった。トレントの動きは、急速な技術革新によって引き起こされた、時代遅れのビジネスモデルに対する消費者の反発と捉えると、非常にわかりやすい。その意味で、Web3はまさにトレント時代の精神を継承したと言える。

もう1つの問題は、Web3を批判する人たちが当時の実際の論点を忘れてしまっていることだ。哲学的な考えを持った当時の違法コピー製作者たちは、その行為の大義名分として、アーティストは中間業者のせいで不利益を被っていると指摘していた。

「アーティストはツアーで稼いでいるから問題ない」というのがその時の目立った主張で、大規模な音楽出版社はたいてい悪者とされた。実際には、トレントがレコードの売上に影響を与え、音楽出版社とアーティストの両方の利益が損なわれた可能性が高い。トレントの動きをWeb1.0支持者によるWeb2.0移行への反発としてのみ捉え直すのは、コンテンツの違法コピーにより不利益を被る人たちを無視する「バラ色のメガネ」をかけた楽観主義だ。

また、自らの権利を主張し、音楽出版社側に付いていたと思われる多くのミュージシャンもファンの反感を買ったが、これによりトレントの道徳的優位性が高まるということはなかった。

一方、Web3では、コンテンツへのアクセスだけでなく、そのコンテンツで何ができるかということも重要視されている。言い換えれば、コンテンツの実用性と価値、とりわけこの問題の中心であるクリエイターにとってのそれが重要になる。ゲートキーパーを排除しようとする点では、Web3の構築者とトレントのサービス提供者は多くの同じ目標を共有している。

しかしWeb3は、強力な希少性、透明性、完全な所有権、明確な出所など、トレントよりはるかに優れた武器をこの戦いのためにクリエイターやファンに提供する。アーティストが自分のコンテンツを直接所有し、自分のコミュニティとのつながりを維持することは、これまで以上に容易になってきている。Web3はある点ではトレントに敬意を表しつつ、アーティストとそのファンにとってより有意義で、彼らに経済的な力を与えることのできるインフラを提供している。

トレントとブロックチェーンは、どちらもピア・ツー・ピアの分散型テクノロジーであるという点で類似している。また、NFT人気の高まりにより、ブロックチェーンはコンテンツを配信するためのより一般的な方法になりつつある。コンテンツ配信はビットトレントが手がけるサービスでもある。これらのテクノロジーの大きな違いの1つは、知的財産権に対するそれぞれのユーザーのアプローチだ。

トレント時代、Web3時代のどちらにおいても常に認識されているのは、創作活動は難しく、楽しく、利益や称賛に値するという事実だ。知的財産権は、このような創作活動が継続的に行われることを保証する1つの方法である。これまでの知的財産権の制度では、創造活動の価値は、ゲートキーパー、レントシーカー(既得権者)、中間業者によって圧倒的に掌握されていた。こうした枠組みでは、中間業者は価値を「発掘」するための手段に過ぎないということが見逃されている。

私と同じようにシャワーを浴びながら好きなように歌う人たちには好感しかないが、アーティストが何もない部屋に閉じこもって創作活動をしても、家賃を支払う助けにはならない。そのために、音楽出版社、レーベル、管理会社、代理店などが登場してきたのだ。賛否両論あるものの、こういった中間業者は、テクノロジーや配信手段の特質を考えると、非常に長い間、信じられないほどの成功を収めてきた。それでも、決して価値の発掘が大きな問題としてなくなったわけではない。もっと詳しいことが知りたい方には「shill on Twitter(Twitter上のサクラ)」の部屋がある私のNFT Discord(ディスコード)を紹介したい。

ともあれ、トレント時代に激しい対立が生まれた要因は、これらの中間業者が、支援するべき才能あるクリエイターが手にするよりはるかに大きな力と価値を持つようになったと考えられたことにある。とりわけ急速に技術革新が進む時代にありながらである。

Web3の大きなゴールは、トレントのサービス提供者が追い込んできたゲートキーパーを根本的に排除することだ。Web3に問題があるとすれば、その1つは、ゲートキーパーが数多く存在するということだ。このような透明で分散化されたツールを使えば、自分が苦労して稼いだお金が支援したいクリエイターやプロジェクトに直接使われているのを実感できることが増えていく。

オープン台帳やスマートコントラクト、ホワイトペーパーは、かつてクリエイターが強制的に結ばされていた不可解で機密性の高い契約とは際立って対照的だ。これまでは知的財産権がクリエイターを保護してきたが、これからは新しいメカニズムがその役割りを果たすことが期待されており、利益を得るのはクリエイター自身であると確信できるようになった。あるアーティストの言葉を借りれば、このテクノロジーによって「クリエイターを増やし、音楽を増やし、そして人間としての体験を増やしていく」ことが可能になるのだ。これを「昔は知的財産権は悪だったが、今は知的財産権は善だ」とまとめては、両者の動きの核心を完全に理解していないことになる。

NFTは、アルバムや物理的なアートと完全に置き換わるものではない。音楽を聴いたり美しいものを集めたりするのに、暗号資産ウォレットは(おそらく)必要ないだろう。NFTはファンに新しい体験を提供すると同時に、権利設定とクリエイターの自活能力の両方に大きな影響を与える。

私は4年以上かけてTwitch(ツイッチ)の音楽サービスを構築し、そのうちのかなりの時間をDMCA(デジタルミレニアム著作権法)の調査に費やしたため、米国のデジタル知的財産権の行使には頭痛がともなうをことをよく知っている。

NFTは、それよりはるかに明確で、透明性が高く、相互運用性があり、効率的なビジネス手法だ。すべての所有権の詳細は法律用語に埋め尽くされることなく、単純なコンピューターでも理解できる言葉で書かれている。さらにこれらの契約がシンプルであれば、ライセンスの利用が大幅に促進される。これは、購入しやすいMP3への移行が音楽ストリーミング産業の始まりとなった流れと同様だ。人々はやるべきことをしたいと考えており、それを容易にかなえられる製品があれば、それを実行に移す。

つまり、NFTはコラボレーションへの障壁を下げ、ファン自らもクリエイターを志せるきっかけなるということだ。ファンがアルバムを所有すれば、そのアルバムを使ってリミックスやサンプリングができるようになるだけでなく、ストリーミングしたり、バーで流したり、映画やポッドキャストのサウンドトラックに入れたりする権利も得られるというのであれば、それはとてもすばらしいことだ。

当然のことながら、NFTの利用に際して譲渡される権利はアーティストが所有しているか、権利者により譲渡される必要がある。これが独立系アーティストがこの領域でのイノベーションと早期導入を後押しする理由だ。彼らは自分たちのために公正な権利プロファイルを保持しており、そのおかげで活動の余地がさらに広がる。

契約を結んでいるアーティストにも参加のチャンスはある。自分の肖像や制作したアートをベースにしたアートやコレクター向けのNFTを発行することができるだろう。私は、クリエイターがNFTをメリットバッジやコンサートなどのライブイベントへのアクセスパスとして活用しているを見るのが好きだ。多くのミュージシャンがこのような新しい手法を使い、自分たちのファンクラブを変えることに成功している。そこでは、完全な所有権と、一緒にコミュニティを構築する機会を得られる。

ブロックチェーンのテクノロジーは、自分のファンを把握する、中間業者を介さずにファンに物を贈ったり売ったりする、共有されたアーティファクトやシグナルでコミュニティを形成することなどを可能にして、アーティストがファンとのコミュニティを構築するための直接的な方法を提供する。

こういった活動を組み合わせることで、アーティストは20年前(特にファンを訴えていたころ)をはるかにしのぐコミュニティ形成力が得られる。そしてこれらのことはすべて、かつて消費者へのアクセスを管理していた中間業者を介さなくとも実行可能だ。

さあ、一息ついて、クリエイターたちにこの新しい領域を開拓する余地を与えよう。そして、これから構築される新しい物事を保護するために知的財産法が役立つのであれば、それを称えよう。私たちは、近年の技術的な動きにおいて最も重要な原則が、いまだ有効であることを喜び、そして理解することができる。その原則とは次のようなものである。「作品を生み出すというのはたいへんなことであり、クリエイターとその作品は保護されるに値する」。

編集部注:本稿の執筆者Chris Fortier(クリス・フォルティエ)氏は、クリエイターやファンコミュニティがソーシャルトークンやデジタル商品・サービスを活用した共有経済を構築するためのプラットフォームRallyのプロダクト担当VP。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images


【原文】

When you were pirating Outkast in 2003, could you have imagined a world where you earn royalties for owning a copy of that MP3?

At a time when NFT and web3 criticism is reaching fever pitch, hip-hop legend and innovator Nas is selling two of his singles as NFTs, which fans can purchase to claim streaming royalty rights. The rising popularity of music NFTs brings a particularly interesting argument into focus: Is blockchain antithetical to the free and open virtues of torrenting? Or is it fighting the same gatekeepers that content pirates aimed to unseat?

Artists versus fans

The most divisive period in digital entertainment history was the Napster era and the mass adoption of using BitTorrent in the 2000s. This era forever changed the music and movie industries and pitted artists against fans. The end of this period saw a sharp increase in intellectual property enforcement that coincided with the introduction of massively improved consumer options for digital goods (think Spotify, Netflix, Apple Music, etc.).

The rise of web3 has once again brought attention to concepts of digital ownership, IP management and the rights of creators. Web3 critics often draw negative comparisons to the ethos that surrounded torrenting. The argument is that torrenting embodied “radical opposition to intellectual property” and created an internet where content was more open, free and accessible, while blockchain does the opposite.

NFTs can lower the barrier to entry for collaboration and create opportunities to inspire fans to become creators themselves.

This misses a couple of points. First, while some were torrenting just to save some cash, many did so because the convenience was overwhelming relative to official paid sources. The torrent movement is best understood as a consumer backlash against antiquated business models ignited by rapid technological change. In this regard, web3 is absolutely a spiritual successor of that time.

Another issue with this hot take is that it forgets the actual debates of the period. The philosophically inclined pirates of the time would point to artists being disadvantaged by intermediaries as just cause for piracy.

“Artists aren’t hurt because they make all their money on tours” was a distinct rallying cry of the moment, and the large publishers were usually painted as the villains. In reality, torrenting’s impact on record sales likely hurt the bottom line of both the publishers and the artists. Reframing the torrenting movement exclusively as opposition to the rise of Web 2.0 by Web 1.0 proponents is a “rose-colored glasses” exercise that ignores the human costs of content piracy.

In addition, many musicians who asserted their rights and seemed to side with the publishers were dragged through the rhetorical muck as well, which was not a great look for the movement’s moral high ground.

Meanwhile, web3 isn’t just about access to content – it’s about what you can do with that content. Content utility and value, in other words, particularly for the creators who are at the heart of the matter. Web3 builders and torrenters share a lot of the same goals when it comes to dethroning and disintermediating gatekeepers.

However, web3 gives creators and fans much better tools for this fight, such as enforceable scarcity, transparency, radical ownership and clear provenance. It’s becoming easier than ever for artists to directly own their content and maintain access to their communities. So while web3 pays homage to torrenting in a way, it actually provides the infrastructure for a more meaningful and economically empowering model for artists and their fans.

Dethroning the gatekeepers

Torrenting is similar to blockchain in that they are both peer-to-peer decentralized technologies. With the rise of NFTs, the blockchain is also becoming a more common way of distributing content – another hallmark of BitTorrent. One of the key differences between these technologies is their users’ approach to intellectual property rights.

What people have always appreciated during both the torrenting and the web3 eras is that acts of creation are hard, interesting, and worth rewarding and celebrating. IP is one way of ensuring that those acts of creation keep occurring. In earlier regimes of IP, the value of acts of creation seemed overwhelmingly captured by gatekeepers, rent seekers and intermediaries. What this framing misses is that those intermediaries were simply a means of solving for “discovery.”

With nothing but love to my fellow shower singers, acts of creation locked in an empty room are not going to help an artist pay the rent. Hence, the rise of publishers, labels, managers, agents and all the rest. Love it or hate it, this group was incredibly successful for a very long time given the specifics of technology and means of distribution. And by no means has discovery gone away as a major problem – allow me to show my collection of NFT Discords that have “shill on Twitter” rooms if you need more persuasion.

What sparked such intense conflict during the torrenting era, however, was the belief that this discovery apparatus had grown in power and value far out of proportion to the creative talent they were supposed to be supporting, particularly in a time of rapid technological change.

A major goal of web3 is to radically disintermediate the gatekeepers that torrenters were going after. If anything, one of the issues of web3 is that they see gatekeepers absolutely everywhere. Using these transparent and decentralized tools, you can increasingly know that your hard-earned dollar is going directly to the creators or projects you want to support.

Open ledgers, smart contracts and whitepapers stand in sharp contrast to the impenetrable and confidential contracts that creators were forced to sign in the old world. People want to see new mechanisms protect creators, as IP has done in the past, and we can now feel confident that it is the creators themselves who benefit. In the words of one artist, the technology allows for “more creators, more music, and a more human experience.” Framing this as “IP bad then, IP good now” totally misses the point of both movements.

Fighting for your rights

NFTs aren’t going to replace albums or physical art altogether. You (probably!) won’t need a crypto wallet to listen to music or collect something beautiful. They will create new experiences for fans and will have a major impact on both licensing and the ability of creators to make a living.

I spent more than four years building Twitch’s music offerings and spent quite a bit of that time toiling away in the DMCA mines, so I’m intimately familiar with the headaches that come with U.S. digital IP enforcement.

NFTs are a far more clear, transparent, interoperable and efficient way to do business. All ownership details are written in terms that a simple computer can understand, rather than buried in legalese. Moreover, the simplicity of these contracts will encourage much greater utilization of licenses – much like how the shift toward easy-to-consume MP3s was the start of the music streaming industry. It turns out people want to and will do the right thing if you build products that make it easy for them to do so.

This means that NFTs can lower the barrier to entry for collaboration and create opportunities to inspire fans to become creators themselves. I love the idea that owning an album could also give a fan rights to remix/sample from it, play it while they stream, play it at their bar, or include it in a movie or podcast soundtrack.

Naturally, any rights that are conveyed using NFTs must be owned by the artist or conveyed by the rightsholder. This is why independent artists will drive innovation and early adoption in the space – they have preserved a clean rights profile for themselves, which gives them much more room to operate.

Even signed and represented artists will have an opportunity to participate, perhaps issuing art and collectible NFTs based on their likeness or art they’ve created. I’m enjoying seeing the creators who are using NFTs as merit badges or access passes to concerts or other live events. Many musicians are finding success using these new tools to transform their fan clubs with radical ownership and an opportunity to build a community together.

Collaboration, not litigation

Blockchain technology provides artists a direct way to build a community with their fans by allowing them to identify fans, gift or sell things to fans without intermediaries, and form communities with shared artifacts and signals.

These tools together offer so much more community-building power than was available to artists 20 years ago – particularly when they were suing their fans. And all of these things are possible without the intermediaries that controlled access to consumers in the past.

So let’s take a breath and give creators room to explore this new space. And if IP law helps protect the new things that are being built, let’s applaud that. We can celebrate and know that the most important tenets of the technological movements of the recent past are still in force: Creating things is hard, and creators and their creations are worth protecting.

(文:Chris Fortier、翻訳:Dragonfly)

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